ep.54 疑似ちゃん
(対象、分離。どっちに付く? 危険度、双方同等。じゃあ二人の方)
通りに突っ立ってヒロ男たちを観察していた疑似ちゃん。ヒロ男がどこかへ移動を始め、少し取り乱すがすぐに琴乃とコーセーの観察継続を決定。そのまま棒立ちで公共ベンチに座る二人を眺める。
(…………)
観察する二人はおいしそうに何かを食べている。何を食べているのか、観察対象から視線を外さないようにして周囲を横目で確認する。
(……アメリ…カンドッグ…)
身体に刻まれた記憶を頼りに看板の文字を読む。
(………)きゅる…
お腹が鳴った。
(気にしない。観察続行)
棒立ちのまま、琴乃とコーセーを眺める。
すると突然"手に何かを握らされた"。
(…???)
握らされたものを確認する。アメリカンドッグだった。
(??? ??? ???)
アメリカンドッグを眺め、思考はクエスチョンマークで埋め尽くされる。
しかし目の前のアメリカンドッグからふわぁ…と本能を刺激する香りが届き、鼻を擽る。
もぐ
身体が勝手に反応した。食べるのが止まらない。
もぐもぐもぐ
あっという間に食べ終わり、残った串を眺める。
(おいしかった…。??? 何故??? 残念? 無くなった?)
思考が散らかる。
ハッとし、琴乃とコーセーの方を見る。
(対象確認。観察続行)
串をポトッと落とし、疑似ちゃんは琴乃とコーセーの観察を続ける。
「お帰りおーが。お前大胆なことするよな」
「ん? そうか?」
公共ベンチのところに戻ったヒロ男はコーセーから突っ込みを受ける。
「死角からアメリカンドッグを握らされる…。普通に考えたら相当な恐怖体験だよ? 疑似ちゃんすぐ完食してたけど…。あれ見るとほんとに疑似人格なんだってわかるよね。普通の人なら絶対食べないもん」
琴乃も今見た光景について感想を話す。
ヒロ男は疑似ちゃんの死角から気配を消して接近し、手にアメリカンドッグを握らせさっさと離脱。数秒アメリカンドッグを見てフリーズしていた疑似ちゃんはすぐにもぐもぐ食べ始め、あっという間に完食。少し串を眺めたあと、串を落としてまたこちらを眺め始めたのだ。
「良い食べっぷりだったよな。やっぱうまいもんは食っとかないとな!」
ニッと笑うヒロ男。コーセーと琴乃も呆れたように笑う。
「よし、そろそろ戻ろうか。これだけ時間経てばスマホ連中も散ってるでしょ」
立ち上がりながら言うコーセーの言葉に頷くヒロ男と琴乃。琴乃もベンチから立ち上がり、移動を開始しようとする。
疑似ちゃんも付いてくるのかな?と、琴乃が疑似ちゃんの方を見ると、疑似ちゃんはなんと"警察に"絡まれていた。
「えぇぇ…? 今度は警察…?」
琴乃の口から声が漏れる。
疑似ちゃんに絡んでいるのは制服を着た警官二人、それとスーツを着た二人の計四人だ。
「不審者の次は警察…」
「いや…、あいつ絡まれ過ぎだろ…」
コーセーとヒロ男もその光景を何とも言えない表情で眺める。
疑似ちゃんは手をパタパタ動かし逃げようとしているようだが、制服を着た警官二人に捕まりパトカーに押し込められていく。
(えっと…、どうします?)
「さすがに警察が相手じゃ何もできないよ…。ていうかなんで捕まって…」
ティオリアも困惑気味だ。しかし今度はヒロ男たちには手の出しようが無い。
「前に警察の人が言ってた"重要参考人"絡みじゃないの? ティオリアさんすっごく美人だから髪色違くてもわかっちゃったんじゃ…」
(あの状態を見ながら褒められても素直に喜べませんね…)
疑似ちゃんが捕まった理由を推測してみる琴乃。ティオリアは反応に困る。
「でもそれだと椎名さんも危なくない…?」
「私はどこにでもいる顔してるから、たぶん大丈夫」
コーセーの心配に、琴乃はほんの少し自虐が入った理由で楽観する。
すると疑似ちゃんを乗せたパトカーがゆっくり走り出した。おそらく警察署に行くのだろう。
「あいつ…、ほんとになんなんだよ…」
困惑するヒロ男。皆も困惑を隠せない。唯一ノワールだけは呑気に足元をウロウロしている。
そんなノワールは放っておき、ヒロ男たちは小さくなっていくパトカーを眺めるのだった。




