ep.53 一応敵だよ?
心の中で温かい交流を交わすヒロ男とティオリアの方を、ノワールがじーっと見つめる。ノワールが後ろ向きに体勢を変えたことで、琴乃の顔前に尻尾と後ろ足がプラプラと揺れる。
「……、ノワール…、超邪魔なんだけど…」
琴乃が迷惑そうに言う。
「いやな? 後ろが気になってな?」
「おーががどうしたの?」
コーセーが尋ねるとノワールは尻尾をひゅんひゅんと左右に振る。
「違う、もっと後ろだ。疑似ちゃんとやらがチラチラと覗いておるのだ」
「え゛」
ノワールの言葉を聞き琴乃が後ろを振り返る。すると後方の電柱から綺麗な黒い長髪を揺らしながらチラチラとこちらを窺う疑似ちゃんの姿があった。
コーセーも後ろを見て疑似ちゃんを確認。琴乃とコーセーが振り返った事を不思議に思ったヒロ男も二人の視線を追って後ろを振り返る。そして疑似ちゃんを確認。無事全員が尾行する疑似ちゃんを視認した。
「本当に尾行下手だねあの子…」
「疑似人格だから…?」
「それ関係あるのか?」
(私の身体であんまりポンコツムーブ取らないで欲しいんですけど…)
各々疑似ちゃんへの感想を上げていく。特にティオリアは複雑な心境のようだ。
「でも私たちじゃ疑似ちゃんに対して何もできないしね…」
琴乃がやるせなさそうに呟く。
(疑似人格への対応は私の世界でも専門チームがあるくらい厄介なものなんです。不用意に作って消せなくなったり、違法と知りつつ故人の疑似人格を作ったり…。とにかく一度作ってしまうとそう簡単には消せないものなんですよ)
ティオリアの声にもやるせなさが滲む。例に出た前者は単なる迷惑だが、後者はその人の想いが想像できてしまう。しかし飽く迄も"疑似"。故人が戻ることは無い。
「そう聞くと禁忌って言うのもわかるね…。使っちゃダメなやつだ…」
コーセーも憐れむように疑似ちゃんを見る。疑似ちゃんはサッと電柱に隠れた。しかし髪が出ている…。
「……、なんかあいつ見てると気が抜けるな…。あんなの嗾けてきたゼノが何考えてるのかさっぱりわからん」
「でも実際俺らの家は特定されてるわけだし、仕事はきっちりしてるよ? ……"あれ"を見ると信じられないけど」
コーセーはまた憐れむように疑似ちゃんを見る。疑似ちゃんはチラッとこちらを伺い、サッと隠れた。綺麗な長髪がユラユラとはみ出している。
「ま、手が出せない以上気にしてても仕方ねぇよ。好きにさせてやろうぜ」
「…そうだね。最低限の警戒だけして、思う存分尾行させてあげよう」
「………二人とも情が移ってない? 一応敵だよ?」
琴乃の突っ込みに対してヒロ男とコーセーは特に返事をせず、三人はそのまま街中を目指す。
街中に着いた三人はプラプラと通りを歩く。服を見たり文具を見たり本を見たり、気が向くまま街を散策する。そして小腹が空いたので三人でアメリカンドッグを買い、公共ベンチに腰掛ける。
コーセーと琴乃はすぐにもぐもぐと食べ始め味の感想を言い合っている。ヒロ男は手に持ったアメリカンドッグをじ…と見つめ、チラッと疑似ちゃんを見た。疑似ちゃんは街中に入ってからもずっと尾行しており、常に一定距離を保ってついて来ている。丸見えだが…。
「なぁティオリア、疑似人格って言っても身体は本物なんだから腹減るよな? あいつ何食ってんだ?」
ヒロ男が素朴な疑問を投げる。
(む~…あまり考えないようにしてたんですけど…。ゼノウィータが何かを与えてると思います。じゃないと今そこでピンピンしてる姿は維持できないでしょうから…)
「ふーん…」
ティオリアの話を聞いたヒロ男はス…と立ち上がり、人ごみに向かって歩いていく。
「おーが? どこ行くんだ?」
「ちょっとな。すぐ戻る」
コーセーに尋ねられるも簡単に返答し、ヒロ男は人混みに消えた。




