ep.50 焦り
身体強化魔法を使い、世界大会に出るような短距離走選手もびっくりのスピードで通りを爆走するおーがこと日色凰我(愛称:ヒロ男)。ヒロ男の身体の中に居候している異世界人、ティオリア・クラルスに話し掛ける。
(おいティオリア! 疑似人格ってのは自己防衛はしないのかよ!? なんで無抵抗に誘拐されてんだ!)
(えーと…、なんでですかねぇ…?)
ティオリアも困惑したように返事をする。まさかゼノウィータに疑似人格を植え付けられた自分の身体がなんの抵抗もせず荷物の様に運ばれていく様を見ることになろうとは全く想像していなかったのだ。
すると目の前にさっきの白いバンが駐車…いや、電柱にぶつかっている光景が目に飛び込んで来た。
(しかも事故ってやがるしよぉ!!! 情報量が多過ぎなんだよ!!!)
急いで駆け寄ろうとするヒロ男。しかしティオリアがストップを掛ける。
(待っておーが!!! あの中に"ラベス"がいる!)
(おいふざけんな! これ以上情報を増やすんじゃねぇ!)
(私に言わないで!)
どんどん増えていく情報に混乱するヒロ男とティオリアが痴話喧嘩していると、バンの後部座席の扉がガラッと開き、中から疑似ちゃんがスィ~と浮遊しながら出てきた。そしてそのままどこかへ飛んで行く。
「あ!!! おい待て!!!」
ヒロ男が疑似ちゃんを追おうとすると、疑似ちゃんが出てきた反対側の扉がドガンッ!と無理やりこじ開けられ、中から大きな人影が姿を現す。ラベスだ。
(…っ! おーが! 今はラベスの処理が先よ!)
(くそ! 一体何がどうなってんだ!)
混乱しつつもグッと身構えるヒロ男。よく見るとラベスの腹は立てに大きく裂け、そこから無数の触手が伸びて車内に続いている。そして車内から触手に巻かれた二人の男がぐったりした状態で引きずり出され、ラベスの腹に収まっていく。
(!!!!! ティオリア!!!)
(えぇ!!!)
ヒロ男の呼び掛けにティオリアが応え、ヒロ男は光に包まれる。そして光の中から『魔法少女ティア』が姿を現す。
(ちょっと待てコラァ!!!)
ヒロ男が無我夢中でラベスの懐に飛び込んでいく。しかし男二人を収めた腹は目の前でピタァと閉じ、その内側では何かが蠢くようにウネウネと腹の表面を波打たせている。
(く…っ! おーが!!! 一旦離脱!!! 私たちも取り込まれちゃう!!!)
(くそっ! くそぉ!!!)
しかしヒロ男にティオリアの警告は届いておらず、ヒロ男は必死に腹の継ぎ目に指を食い込ませ、無理やりこじ開けようとしている。
(おーが!!!!!)
(くそがぁぁ!!!!!)
その時、グバァ…!と腹が開いた。しかしそこに男二人の姿は無かった。代わりにそこにあった夥しい数の細い触手が、ヒロ男の身体目掛け一斉に巻き付いてくる。
びゅるるるるるる
(きゃああああああ!!!!!)
(く……っっ!!!)
身体中に細い触手が巻き付き、ティオリア我絶叫する。ヒロ男とティオリアは感覚が共有されている。ヒロ男が肉体に受けた感触はそのままティオリアにも伝わってしまう。
一方のヒロ男もティオリアとの絆を深める過程で、ヒロ男の魂とティオリアの写身との波長が合い、女性的な生理的嫌悪を受けやすくなっている。そのため今身体に巻き付いている触手の感触で背筋に悪寒が走り、一瞬の身体の硬直が発生した。その一瞬で脱出できるタイミングを完全に逸してしまい、身動きが取れなくなってしまう。
ラベスはそのままヒロ男を腹の中に収めようと巻き付かせた触手に張力を掛ける。ヒロ男の身体は触手の海に引き込まれようとしていた。
(いやあああああああああああああ!!!!!!!)
(……っ!)
頭の中でティオリアの絶叫が響く。ヒロ男は自分の焦りのせいで招いたこの絶体絶命の状況に怒りを覚えた。
チリ…チリ…と、ヒロ男の周囲に赤熱した魔力の粒子が現れ始める。
「ルぅぅミぃぃナぁぁぁ…☆!」
ヒロ男の身体がラベスの腹に収まり、更に巻き付く触手が増え雁字搦めにされつつ、腹の口が閉じ掛けた、その時。
「ブレえええええええイズ!!!!!」
ゴアアアアアアア!!!と、ヒロ男を中心に炎が噴き出し、巻き付く触手を焼き尽くしていく。
「ぎゃあああああああ!!!」
突然腹の中が燃え始めたラベスは苦しみ、今し方腹に収めたヒロ男をベッと吐き出した。
吐き出されたヒロ男はうまくバランスを取り着地。バックステップしラベスから距離を取る。
(ティオリア! ティオリア!? 大丈夫か!? すまなかった! 頭に血が上っちまって…!)
(…い、いえ…! 大丈夫よ…! 脱出できて良かった…! 私の事は気にしないで、戦闘に集中して…!)
(…っ、ティオリア…!)
自分のせいでとんでもなく怖い思いをしただろうに、それを飲み込んで背中を押してくれるティオリア。彼女の心の強さに、ヒロ男は強く心打たれた。同時にそんなティオリアを危険に晒した自分自身に激しい怒りを覚えた。




