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第5話 英雄の背景(ルミナ☆ライト)

「ルミナ☆ストライク使用禁止」

「何でだよ」

「自分の胸に聞いて」


 公園に戻って変身を解いたヒロ男(日色凰我)

 待ち構えていた椎名しいな琴乃ことのに正座させられ、お説教を受けていた。


 動画撮影をしていた馬鹿はすでに先ほどの戦闘の動画をSNSへ投稿しており、ヒロ男が帰ってくる前にコーセー(夜久輝星)と二人でその動画を確認済みなのだ。


「…ちゃんと裾は押さえてたぞ?」

「バカなの? 中が見えてる時点で死守失敗なの。はっきり言ってルミナ☆ストライクはスカートでやる技じゃない。こんな丸見えになっちゃって…、ティオリアさんが可哀想だとは思わないわけ?」

(もっと言ってやってください)


 ここぞとばかりにティオリアも参戦。

 ヒロ男の魔法のレパートリーが少ないから仕方なく使用を黙認していただけで、彼女も自分の写身うつしみのあられもない姿を動画で拡散されるのは恥ずかしいのだ。


「あの…、質問いいかな?」


 コーセーがおずおずと手を上げる。


「そもそもの話なんだけど、ティオリアさんの写身うつしみは何で"あの格好"なの?」


 疑問を投げる。

 変身したヒロ男はフワッとした衣装に身を包んだティオリアの姿になる。何故"あの衣装"なのか、実はずっと気になっていたのだ。


(…えーと、ちょっと血生臭い話になりますけど、あれは"死装束"なんです)

「え!?」「し、死装束!?」


 ヒロ男と琴乃が同時に声を上げる。


(他国では魔導団に制服を与えて一体感を意識させてるみたいなのですが、アサラオン皇国では制服を定めていないんです。その理由は、『ラベスとの戦いで命を落とす場合は肉体が残らないため、最後の時まで自分らしい姿でいて欲しい』というアマテラス様のご意向だからだと聞いています。それで特殊遊撃魔導士である私も例に漏れず、出撃時は魂に刻まれた"自分らしい姿の顕現"としてあの衣装に変身していました。おーがさんの変身は私の魂が色濃く反映されてる状態ですから、あの衣装になるのは道理ですね)


 自分の世界の国の話をし出すティオリア。

 ヒロ男と琴乃は絶句している。


「あー…、確か昔の侍の鎧にも『戦場は晴れ舞台だから立派な姿で死ぬ』みたいな意味があった気が…。ティオリアさんのあの衣装も似たような感じなんだね…」

(あ! この世界のこの国にも似た文化があったんですね! さすが平衡世界の同一国ですね!)


 何とか言葉を絞り出したコーセーに、ティオリアは楽しそうに言葉を重ねる。

 そのティオリアの様子に琴音が真剣な表情になり、そのままヒロ男の目を凝視する。


「ヒロ男くん、わかった? 貴方の振る舞い一つでティオリアさんの"魂"を穢すことになるんだよ?」

「よくわかったよ…。今後はもっと意識してガードするようにする…」


 ヒロ男は疲れたような顔でため息を吐いた。


「でもおーが、ルミナ☆ストライク無しでラベス倒せるのか? 今まで"それ"でしかとどめ刺してないんだろ?」

「んー…。ティオリア、どう思う?」


 コーセーに質問され、未だ魔法のことがよくわかっていないヒロ男はティオリアに助けを求める。


(可能ではあると思いますけど、今までより時間は掛かるでしょうね。ルミナ☆ストライクは蹴りで貫通した箇所に魔力を強制的に収束させて爆発させる…、言わば自爆押し付け魔法(・・・・・・・・)なので、多少核を外しても問題無かったんですよ。でもルミナ☆ブレイズは表面を焼くだけ、ルミナ☆ナイフやルミナ☆スローでは核を正確に破壊するのが難しい。なので新しく魔法を習得してもらう必要があります)

「ルミナ☆ストライクってそんな魔法だったのか…」


 ティオリアの魔法解説を聞いたヒロ男は、今まで便利に使っていたルミナ☆ストライクの"効果"に少し背筋がヒヤっとした。


(そうだコーセーさん、今回おーがさんが開発したルミナ☆スローなのですが、ソニックブームが非常に危険なので改良案ありませんか?)

「あぁ…、俺も動画で確認したよ…。おーが…、『投石を極めようとするな』って釘刺したのに…」

「それに今回は少し斜め下に投げてたから地面に当たって石が止まってたけど、下手したら射線上の人や建物に当たって大惨事になってたよ? ヒロ男くん、もうちょっと後の事考えた方がいいよ?」


 自信満々に編み出したルミナ☆スローへ次々にダメ出しをされ、ヒロ男がやけくそ気味に声を上げる。


「わかったよ! 全力で投げなきゃいいんだろ!? それならソニックブームってやつも起きないし貫通もしないだろ! せっかく手に入れた遠距離攻撃手段なんだ! あんまりボロクソに言わないでくれ!」


 言いたいことを言ったヒロ男は正座から三角座りになり、背を向けていじけ出した。


「どうせ俺は後先考えない脳筋だよ…、光線も出せない似非ヒーローさ…」

(お、おーがさん! 発想はすごく良かったですよ! 石に魔力を込めてコーティングするとかなかなか思いつきません! 今回はちょ~っと強くやり過ぎちゃっただけなので! ほら! 元気出しましょう!)


 ちょっと言い過ぎたと思ったティオリアが必死にヒロ男のよいしょを開始。


「そうだよ! それに今のおーがなら光線とか出せるんじゃないか!? だいぶ魔法への理解も進んできただろ!?」


 コーセーもティオリアと一緒にヒロ男を励ます。

 その光景を見ていた琴乃は…。


(ヒロ男くんって面倒ないじけ方するんだね…)


 と、少し冷ややかに見つつも、今口を出すととどめを刺しかねないのは自分でわかっているので、大人しく二人のよいしょを静観することにした。

 そしてよいしょが終わるまで、ヒロ男が帰って来るまでコーセーに教えて貰った魔力の扱いについての復習を頭の中で開始。


(魔力を感じて…、イメージ…、そうすれば魔力は応えてくれる…だっけ)


 ヒロ男が『光線も出せない』といじけているので、魔法で光線を出すのはそんなに難しいのか?と疑問に思い、指を地面に向けて指先から光線が出るイメージをしてみた。

 すると…。


キィィィィ… ビュン ジュッ

「あ……出た」


 指先に魔力が収束し、その後放射された熱線で地面が少し焦げた。


(琴乃さん! すごいです! 何で魔法使えるんですか!? 隠れ魔導士だったんですか!?)

「え? あ、いや、やっ君に少し教えて貰って…」


 ヒロ男の背後で魔力の収束を感じ取ったティオリアがそちらに意識を向けたら琴乃が指から魔力の収束砲を放っていたのだ。ヒロ男のよいしょもそっちのけで琴乃に話し掛けに行く。


「え? 椎名さん魔法使えたの? 俺もまだ使えないのに…」

「し、椎名が…、魔法…だと…?」


 コーセーが目を丸くし、ヒロ男は驚愕の表情で琴乃を見る。


(琴乃さん琴乃さん! もう一回見せてください!)

「え…、できるかな…」


 ティオリアに促され、再び指から光線が出るイメージをしてみる琴乃。


キィィィィ… ビュン ジュッ


(すごいですすごいです! 完璧です琴乃さん!)

「ま…まじかよ…」


 はしゃぐティオリアと呆然とするヒロ男。

 コーセーはこの状況を"非常に危険"と判断し、すぐに"ヒロ男救出"のために動き出す。


「おーが、良かったじゃないか。手本が目の前に現れたぞ? 娯楽作品内じゃない"リアルな"光線だ。これで格段にイメージし易くなったんじゃないか?」

「え…? あ…、そうか…。…そうだな! コーセー! 俺がんばるわ!」

「うん、がんばれおーが」


 コーセーに"誘導"されたヒロ男は三角座りのまま自身の魔力と向き合い始める。それを見てコーセーはほっと胸を撫で下ろす。


(良かった…、危うく"意地の引き篭もりモード"に入るところだった…)


 ヒロ男は昔から大きな挫折を味わうと家に引き篭もり、挫折の対象に打ち勝つまで自己鍛錬に明け暮れるのだ。

 ヒロ男が一度そうなるとその期間中は親友のコーセーですら連絡が取れなくなる。強くなるのは良いことだが、人間関係を一時立ち切ってしまうのは非常によろしくない。


(今はティオリアさんが一緒だから前ほど心配は無いだろうけど、俺もおーがとは話していたいからな)


 集中し出したヒロ男を優し気に眺め、次にコーセーは突然魔法を使い出した琴乃へ話し掛けに行く。


「椎名さんすごいね。もう魔法使えるようになったんだ?」

「あ、やっ君。やっ君に教えて貰った魔法の使い方で光線出るか試したら出ただけなんだけど…」

(コーセーさんどんな教え方したんですか!? 私の世界でも魔力の扱いを教えたその日に収束砲を使える子なんていませんでしたよ!? しかも無詠唱ですよ!?)


 鼻息が荒そうなテンションで質問してくるティオリア。しかし聞かれたコーセーもよくわかってはいない。


「ティオリアさんに教えて貰ったことをそのまま椎名さんに教えただけなんだけど…。ていうか今の光線ってそんなにすごいの?」

「身体強化のような常時発動型の魔法以外は普通詠唱が必要なんです。それは『これから私は魔法を行使します』という自分への宣言でもあるんです。それを省略するということはつまり息をするように自然に魔法を使ったということです! これがどんなにすごいことかわかりますか!?」


 ティオリアは興奮している。とりあえず、その熱量から琴乃がすごいことをしたというのはわかった。


「椎名さんはすごいことをしたという自覚は?」

「無いよそんなの。それに自分の指から熱線が出るのが息をするくらい自然なことだと思ってる女とか怖すぎない?」

「それは…確かに怖いね」


 琴乃の冷静な意見に思わず苦笑いするコーセー。


(琴乃さんならすぐに身体強化、空中移動、変身まで使いこなせそうです! 今日のカラスくらいなら自分で成敗できますよ!)

「いや…、私は戦うのは無理かな…」


 ティオリアの頭の中ではすでに琴乃を魔導士にする育成計画がスタートしていそうな感じだ。

 それを感じ取った琴乃はすぐに無理だと宣言。

 そしてコーセーもすぐに琴乃の支援に入る。


「ティオリアさん、たぶんこの世界ではラベスと戦えるメンタルを持ってる人はかなり少ないと思うよ」

(そうなんですか?)

「うん。命知らずや蛮勇で突っ込む人は結構居そうだけど、ティオリアさんやおーがみたいに"本当の意味で"戦える人はほぼいないと思う。あとラベスを利用しようとして自滅する人や国もかなり出るだろうね。ちょっと冷たい意見だけど」

(ふむぅ…、この世界は私の世界とは違う問題を抱えてる感じなんですね…。あんなのを利用しようとする神経がわかりませんが、実際私の世界でも昔そういう国がいくつも自滅した歴史がありますから、良からぬことを考える人間はどこにでもいるのでしょうね)


 コーセーの話を聞いて、ティオリアも少し冷静になってきたようだ。


「あ…、でも空を飛んだりとか、変身とかは少し興味あるかも…。さっきの話だと"魂に刻まれた自分らしい姿"になるんでしょ? 私の自分らしい姿ってのがどんな姿なのか見てみたい。…人には絶対見せないけど」


 琴乃が少し恥ずかしそうに言うと、ティオリアがそれを優しく肯定する。


(琴乃さんならきっと素敵な姿に変身できますよ。それに戦わなくても、逃げるために魔法を覚えるのも大切です。さっきコーセーさんにも身体強化魔法の練習をして貰ってましたけど、それがまさに逃げるための練習でしたから。そして空を飛ぶのは身体強化魔法の延長線上の技術です。良ければコーセーさんと一緒に少し練習していきませんか?)

「…うん、やっ君と練習してみる。ティオリアさん、監督よろしくね?」

(はい! まかせてください!)


 ティオリアが元気に返事をすると、琴乃が嬉しそうに微笑む。

 綺麗に話がまとまり、コーセーも安心感から微笑んでいると、突然ヒロ男が話に割り込んで来た。


「コーセー! ティオリア! 光線のイメージができた! なんかできそうな気がするから見ててくれ!」

(ほんとですか!?)

「まじか! 見せてくれ!」


 するとヒロ男は右手の平を斜め下へ向け、魔力を集中させ始めた。


(あれ? 変身しなくて大丈――)


 ティオリアが声を掛けると、ヒロ男の手の平からぴかっと光が照射され、地面を明るく照らし始めた。


「やったぜコーセーティオリア!!! 光線出た!!!」


 はしゃぐヒロ男。しかしその光は地面を明るく照らしている"だけ"だ。


「な、なぁおーが…、お前何をイメージしたんだ…?」

「ガキの頃親父が"懐中電灯"で遊んでくれたの思い出してよ! 椎名が指から出せてたから手の平からも出るじゃねぇかと思ってイメージしてみたぜ!」


 嬉しそうに説明するヒロ男。ティオリアが言葉を捻り出す。


(す、すごいですおーがさん! これで光の出力を上げて行けば敵もジュージュー焼けますね!)

「あぁ! いずれラベスも焼き尽くしてやるぜ!」


 手の平をピカピカさせながら未来の展望を話すヒロ男を眺め、何とも言えない気持ちになるコーセー。


(やさしい光線技だなぁ…。差し詰め"ルミナ☆ライト"ってとこか…)


 そして琴乃は顔を背け笑いを必死に堪えていた。




 しばらく後、日が落ち始めたため三人は公園を後にし、帰宅すべく通りを歩いていた。

 3人とも家の方向が同じなため、一番近い琴乃の家を目指し一緒に歩いている。


(でも琴乃さんには本当に驚かされます。まさかこの短時間で空中移動までモノにしてしまうなんて)

「落ちたら怖いからあんまり高い所は行かないけどね」


 ティオリアが褒めるも、琴乃は苦笑いで返す。

 琴乃は魔法の練習を始めるとメキメキと上達し、身体強化はすぐに発動、その後ティオリアから少しレクチャーを受けただけで空を飛び始めた。

 そのあまりの成長速度に、ティオリアから直々に"天才"だと言われた。


「ティオリア、俺にはすぐに『飛べ!』って言ってなかったか? さっきまでの話聞くと飛ぶのって難しいんじゃねぇの?」


 巨大ガラスとの戦闘時、ティオリアから雑に飛べと言われていたヒロ男が確認すると…。


(あんな高出力の身体強化を使っていて飛べない方が異常なんですよ? 普通なら出力を上げる過程で勝手に身体が浮遊し始めるはずなんですからね?)

「まじかよ。なんで俺飛べないんだ?」

(私が聞きたいくらいですよ)


 困惑と呆れの混じった声色で話すティオリア。


「たぶんだけどさ、おーがは"物理"に囚われすぎなんだと思うよ? 人が飛ぶわけない、光線なんて出るはずない、そういう現実的な視点が障壁になって魔法を妨害してるんじゃないかな。実際椎名さんの光線見たら懐中電灯使えただろ?」

「つまり…、空飛ぶ椎名をひたすら思い浮かべて飛ぶイメージをすれば飛べる…?」

「え…きもい…。私でイメージしないで」

「どおすりゃいいんだよおおお!」


 仲良く(?)話しながら歩を進める三人。

 するとコーセーがティオリアに質問をし始める。


「そういえばティオリアさん、今回のラベスは二体現れたって言ってたよね? 動画では一体しかいなかったけど、すぐに倒せたんだ?」

(…いえ、一体は私たちが到着する前に消えました。おそらくゼノウィータの仕業です)

「? ゼノウィータがラベスを倒したの? ゼノウィータってラベスを生み出すって話じゃなかった?」


 琴乃が不思議そうに聞き返す。

 ティオリアが、少し深刻な雰囲気になり続きを話し始めた。


「推測ですが、今回ゼノウィータはヤクザという反社会組織の拠点に攻め入り、二人をラベス化させ、拠点内の人を吸収させた。そして頃合いを見て魔力量の多い方のラベスをゼノウィータが吸収し魔力を回収、もう一体を残して離脱した。その残った一体を私たちが倒した、という流れだと思います」


 それを聞き、ヒロ男が動揺し始める。


「ちょ、ちょっと待てよ! それって…、残り半分の人はゼノウィータに食われてるってことか!? 助けに行かねぇと!」

(無理です。あの時私は周囲の魔力を細かく索敵してたのですが、ゼノウィータの気配は全くありませんでした。おそらくラベスを吸収した後、早々に逃げてしまったのでしょう。それに移動中も話しましたが、一度隠れたゼノウィータはかなり接近しないと感知できません)


 ティオリアから語られる残酷な現実。つまり、今回吸収されたヤクザたちはもう助けられないのだ。


「くそっ!!!」

どがっ!


 ヒロ男が電柱を殴る。その拳からは少し血が滲んでいる。


 一気に空気が重くなった。

 ヒロ男は悔しそうな悲痛な表情を浮かべ、コーセーは悲し気な残念そうな表情を浮かべる。

 琴乃だけは冷静に、あるいは冷徹に事態を整理していた。


(今回襲撃されたのはヤクザの拠点。犠牲もおそらくヤクザだけ。社会的に見ればむしろ掃除されて綺麗になってる。でもこれは善悪で人の価値を分ける視点。根っからのヒーロー思考のヒロ男くんには受け入れられないだろうね)


 そして思ったことをティオリアに聞いてみる。


「ティオリアさん、たぶんだけど、ゼノウィータの動き方、今後変わるよね?」

(えぇ、間違いなく。今回の戦闘ですでに兆候が出ています。最初の人型、次の蜘蛛型、そしてカラス型。この三体は『適当に置いておけば魔力を回収できる』というような、雑な"楽観"のような雰囲気がありました。でも最後の人型は明らかに意図を持って配置されています)

「ヒロ男くんの動きを、どこかで見てた可能性があるってことだね」


 ヒロ男は真剣に琴乃とティオリアの話に耳を傾ける。


(はい。今回でゼノウィータは、『私の姿をした"何者か"が邪魔をしている』と認識したはずです。ラベスを生み出すにはゼノウィータも魔力をかなり消費しますから、私の世界にいた時のように慎重に、狡猾に動き始めるでしょうね…)

「『ティオリアさんの姿をした"何者か"』ってことは、ゼノウィータは変身したおーががティオリアさん本人じゃないってわかるんだ?」

(身のこなしや使ってる魔法が全く違いますから、ゼノウィータなら絶対にわかります。…"私の身体"も持ち歩いてるでしょうしね)


 ティオリアがコーセーの質問に丁寧に答えるも、最後の言葉だけ少し別の感情が混じった気がした。


「でも、向こうが目的を持って動き始めたならこっちも動きを読めるようになるよ。うまくすれば先回りして動けるかも」

(えぇ、その通りです。私の世界でもまさにそうやってゼノウィータを追い詰めました。その時は魔導団の皆で協力して何とか…って感じでしたけど、この世界では魔導団の皆はいない…。おーがさん、コーセーさん、琴乃さん、私に知恵を貸してください。ゼノウィータもこの世界の事がまだよくわかっていないはず、それに私が与えたダメージは早々回復できるものではありません。奴が回復し切る前に、この世界が浸食される前に奴を止めたいんです!)


 ティオリアの懇願に、ヒロ男が即座に答える。


「当たり前だ!!! 自分勝手に他人を踏み躙るやつを野放しにできるかよ! 絶対に駆除してやる!」

「おーがじゃないけど、俺もゼノウィータは野放しにはできない。後方支援って形で俺も協力する」


 コーセーもヒロ男に続く。そして…。


「私も協力する。世界があんなニョロ助だらけになるなんて嫌。皆で協力して親ニョロを駆除しよう」


 琴乃も参戦を表明。琴乃は真剣な表情で手をぎゅ…と握りしめていた。

 それを見て、ヒロ男が琴乃に声を掛ける。


「意外だな、お前こういうことには首を突っ込まないタイプだと思ってた。椎名、怖いなら無理に参加しなくても良いんだぞ?」


 それを聞き、琴乃はじと…とした目でヒロ男を睨む。


「今の流れで『私は協力しません、さようなら』は違うでしょ。それにヒロ男くんは私を勘違いしてる。私は友達から"スリーピング・レオ"って呼ばれてるんだよ?」

「スリーピング・レオ…、"眠れる獅子"か。はは、椎名さんらしいや」


 重くなった空気を少しでも和らげるため、コーセーは無理のない範囲で笑顔を見せる。

 それを見て、ヒロ男も少し表情を和らげる。


「ふ、眠れる獅子って…、それ女子の呼び名じゃねぇだろ」

「だまれ」

べし

「痛くねぇし」


 揶揄からかうヒロ男に琴乃が回し蹴りを放ち、ヒロ男の筋肉がそれを弾き返す。

 三人の顔に柔らかさが戻ってきた。


(皆さん…、ありがとうございます! 協力してがんばりましょう!)


 嬉しそうな声色のティオリアの言葉に、三人は頷き合った。




 その後、琴乃の家に着いた三人は連絡先を交換し合ってから別れ、ヒロ男とコーセーも自宅に到着して軽く別れの挨拶を交わし、それぞれの家へ入っていった。


「…、親父はまだ帰ってねぇか」


 暗い家の中を見てヒロ男が零す。


(お母さまがいます! ほら! ただいまって言わないと!)

「わかったわかった、ちょっと待ってろ」


 ティオリアに促され、急ぎ早に靴を脱ぎ仏壇のある部屋へ。


「…ただいま母さん」

(お母さま! ただいま帰りました!)


 そしてヒロ男は仏壇の前に座り、じ…と写真の中の母の顔を見つめた。

 ティオリアは不思議に思ったが、邪魔をしないように大人しく待つ。


 少しの間そうしていると、ヒロ男は一度ス…と目を閉じ、少し息を吐く。

 目を開き、立ち上がってキッチンへ向かった。


(お母さまに何をお話したんです?)


 夕飯の準備を始めたヒロ男にティオリアが質問する。


「戦いの事、…もしかしたら、"そっちに行くかもしれない"って事」


 食材を物色しながらヒロ男は話す。


(……お母さまは、何て言ってました?)


 食材をシンクの隣に置き、ヒロ男はニッと笑った。


「殴られた」


 そしてヒロ男はまな板と包丁の準備を始める。


(………ぷっ、おーがさんのお母さまはお強いんですね)

「あぁ、そりゃつえぇさ。あの親父が尻に敷かれてたくらいだからな」


 食材を切りながら、ヒロ男は嬉しそうに微笑んだ。




 夕飯を作り終え、父の分にラップを掛け、自分の分だけさっさと食べ終えた。そして軽くシャワーを浴び、自室へ入ったヒロ男。

 視界の端にベッドが映り込み、不意に"あること"を思い出す。


「あ、ティオリアの夜の暇つぶし考えてなかったな…」

(あー! そうです! おーがさん何か考えて!)


 魂だけの状態故に眠気が来ないというティオリア。彼女は今日の朝、ヒロ男が寝ている間の暇つぶし案を要求していたのだ。


「んー…、こういう時はコーセーに聞くに限る」


 そう言ってスマホを操作しコーセーに電話を掛けるヒロ男。


『もしもし、おーが? どうした?』

「おう、知恵を貸してくれ。今そっち行って大丈夫か?」

『あぁ、今窓開ける』


 ヒロ男が窓を開けると、対面のコーセーの部屋の窓も開いた。


「よっと」


 ヒロ男は慣れた様子で屋根を渡り、コーセーの部屋へ入った。


「いらっしゃい。何を聞きたいんだ?」

「ティオリアの暇つぶしについて」

「……暇つぶし?」


 首を傾げるコーセーに軽く事情を説明すると、コーセーは「なるほど」と頷いた。


「ティオリアさんは物に触ったり干渉できたりは…」

(できません。できればおーがさんの部屋を物色してました)

「やめて!???」


 とんでもない事を言い出すティオリアにヒロ男は全力で制止を掛ける。


「んー、じゃあおーがが寝る前にティオリアさんが"見れる形"にしないといけないのか。しかも一晩で見切れない量を…」

(何か案ありませんか…? 昨日の夜は本当に暇で暇で大変だったんです)

「だから廊下を通った親父に話し掛けに行ったんだな…」


 ヒロ男は昨日の深夜に父に自己紹介を済ませていたティオリアの行動理由を察した。


「ははは…、もうおじさんにも挨拶してたんだ…。ティオリアさんってだいぶアクティブだよね」

(三カ月間お世話になりますからね! 挨拶は大事です!)


 ティオリアの返答を聞き苦笑いのコーセー。ヒロ男は額に手を当てため息を吐いている。


「とりあえず、夜の暇つぶしは動画鑑賞くらいしか思い付かないな。朝まで再生が止まらないように1話から最終話まで自動再生にして…。おーが、寝る時に光と音があっても大丈夫か?」

「問題ない。そういうのあんまり気にならないタイプだし、いざとなったら耳栓とアイマスク使う」

「よし。ティオリアさん、寝る時だけノートPC貸すからこの中から観たい作品選びなよ」


 そう言ってPCで動画サイトを開き、作品群をティオリアに見せる。


(わぁー! ありがとうございますコーセーさん!)


 そしてティオリアが作品を選んだ後、ヒロ男とコーセーは揃ってヒロ男の部屋へ移動。コーセーがノートPCをセッティングし、自室へ戻って行った。

 画面では『魔法少女リ〇カルな〇は』というロゴが映りOPテーマが流れ始める。


「ティオリア、何でこれ選んだんだ?」

(魔法少女というのがどういうものなのか気になりまして。あとお昼にチラッとこの作品の技を見た時に私の魔法の参考になりそうな気配を感じました)

「ふーん…」


 さっさと寝ようと思っていたヒロ男だったが、そういえばヒロ男自身も"魔法少女とは何なのか"を詳しく知らない事に気が付いた。

 せっかくなのでティオリアと二人でその作品を視聴することにし、ベッドを背もたれに床に座り作品を眺め始めた。




 一方、自室に戻ったコーセーは机に着き、ノートを広げゼノウィータの行動予測をつらつらと箇条書きにしていた。

 ある程度書き出し、ペンを止め、ペン先でトントンッとノートを叩く。


(いくつか考えられるけど、一番可能性が高いのは『魔法少女ティアの正体を探る』かな。ティオリアさんの話ではゼノウィータはかなり深刻なダメージを受けている。おそらく本体は動かない。でも下手にラベスを放っても倒されるのは学習したはず。ラベスを生み出すのにも魔力というコストが必要。なら使うのは確実に魔力を回収できる場面に限定される)


 ペンを指の上でクルクルと回す。


(もし次にラベスが現れたら、おーがは"場"に苦労させられるかもな…。俺や椎名さんも巻き込まれる事を想定しておかなきゃならないかも…)


 ペンをポイっとノートの上に投げ出し、腕を組む。


(俺も身体強化魔法は使えるようになったし、椎名さんは空も飛べるようになった。敵に捕まっておーがの足を引っ張らないようにだけ気を付けよう。椎名さんは攻撃魔法を使えるけど、"戦えるのはおーがだけ"なんだ)


 そしてコーセーはノートを閉じ、心を落ち着け、魔力を操作する練習を開始した。




 琴乃は自室の真ん中に座り、三つの魔力の光球を自分の周りにクルクル回転させていた。


(……何やってんだ私)


 寝る前にティオリアから教わった魔法の復習をしていたら、不意に「魔力の光球とか出せるかな?」と思い立ち、試したら成功。何となく嬉しかったので数を増やし飛ばして遊んでいたのだ。

 しかし一度自分を客観視してしまうと現在の自分の行動がどうにも受け入れられず、ぱっと光球を消し、ため息を吐く。


(でも、敵の次の動きを考えたら、たぶん私とやっ君も戦いに巻き込まれる可能性が高い。次じゃなくても、いずれは絶対に戦うことになる…)


 自分の腕を抱き、震える身体を静めようとする。


(怖い…。だけど、もう犠牲が出てる…。最低でも自衛ができるくらいには戦えないと、皆の足を引っ張っちゃう…)


 公園でのティオリアの言葉が思い起こされる。


『(琴乃さんならすぐに身体強化、空中移動、変身まで使いこなせそうです! 今日のカラスくらいなら自分で成敗できますよ!)』


 ティオリアはだいぶ自分を買い被っているなと、苦笑いを浮かべる。


(無理だよ、私は戦えない。ニョロ助を思い出しただけで震えが止まらないんだから、目の前にいたら絶対身体が動かない。………でも、"変身"か…)


 ゆっくりと立ち上がり、姿見の前に立つ。


『(琴乃さんならきっと素敵な姿に変身できますよ)』


 またティオリアの言葉が思い起こされる。

 自分らしい姿ってどんな感じだろうとぼんやり考えながら、姿見に映る自分を見る。

 姿見の中の琴乃が不安そうな表情で見つめ返してくる。

 それを見て、琴乃はまた苦笑いを浮かべる。


(きっと、こういう不安を持ってるうちは変身できないだろうね。直感だけど、そんな確信があるよ)


 琴乃は姿見に背を向け、再びティオリアに教えて貰った魔法の復習を始めた。




 夜の街。

 連日の化け物事件の影響でいつもよりは人通りは少ないが、それでも駅前や繁華街では多くの人で賑わっていた。


 その様子を廃ビルの中の上階から眺める一つの影。

 人の頭部と右腕に、細い触手が束になって辛うじて人の形を保った他の部位がくっ付いている。


「ん…」


 その触手の束の中から声が漏れる。

 触手の束の中に取り込まれたふわっとした衣装を着た一人の少女。その少女の肌には白い触手が貼り付き、魔力を吸い上げている。


「……、やはり回復が遅いな、肉体だけではこんなものか。しかしその辺の奴よりは回収効率が良いのも事実、手放すのは惜しい」


 少女に向いた意識をス…と外し、再び街の様子を眺める。

 通りを歩く人の多くは手に長方形の板を持っている。影は、"それ"を注意深く観察する。


「……、この世界の情報端末か…」


 影は目を細め、フィッと身を翻し、廃ビルの奥へ消えた。

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