ep.48 情報整理
「…ねぇティオリアさん、疑似さんの戦闘能力ってどんなものかな。ティオリアさんの記憶をベースに作られてるってことは魔法の知識がすごそうなんだけど」
コーセーがティオリアに尋ねる。もしかするとあの疑似ティオリアと戦うことになるかもしれない。もし"あれ"にティオリアと同程度の実力があるとしたら、今のヒロ男たちで勝てるとは思えなかった。
(あぁ、それについては全く心配ありませんよ。疑似人格が使う魔法はクソ雑魚です。知識がいくらあろうが関係ありません。"心がありませんので")
「心が無い?」
(はい。飽く迄も"疑似"なので、本物じゃないんですよ。『魔法は心の力』、心が無ければ力は出せません)
ティオリアから有益な情報が得られた。それが本当なら、油断しなければ家族への被害も出さないで済むかもしれない。
「なら今から外にいる疑似ちゃんをとっ捕まえて来ようぜ。むざむざとゼノの所に帰すのも癪だしよ。ティオリアの身体を今返して貰おう」
ヒロ男が立ち上がり腕をグルグル回す。
(それは止めた方がいいです)
「は? なんでだよ」
ヒロ男の提案をばっさり却下するティオリア。ヒロ男が首を傾げる。
(疑似人格は製作者に絶対服従です。そして弱いと言っても魔法は使えます。しかも作られた疑似人格はそう簡単には消すことはできません。なので縄で縛り付けても部屋に閉じ込めても、暴れて逃げてしまうと思います。私が身体に戻って疑似人格を押さえ付ければ安全かもしれませんが、私はおーがさんの身体から離れたくありません。おーがさんが死んでしまいますから)
二週間前、ヒロ男とティオリアが初めて会った日、ヒロ男は肉体が瀕死状態、ティオリアの魂は消耗し風前の灯だった。そんなヒロ男の肉体をヒロ男とティオリアの二つの魂が支えることで、ヒロ男はギリギリ死なずに日常生活を送れているし、ティオリアの魂も少しずつ回復させることができている。
ティオリアがヒロ男の身体から出るということ、それはそのままヒロ男の死を意味する。
「…つまり、黙って見てろってことか…」
(そうです。現状、私たちには疑似ちゃんを繋ぎ止める術がありません)
「…くそ…っ」
ヒロ男は悔しそうに座り、ボスッとノワールの背中を殴る。
「………、……でも、ティオリアの身体が無事で…生きてて良かった…」
(…おーがさん…)
長い間を置いて、ヒロ男が呟く。
「いずれ絶対に奪い返す。だから…、待っててくれ」
(……、はい…。信じてます)
しっとりとした雰囲気になり、コーセーの部屋は沈黙に包まれる。
タイミングを見計らい、コーセーが口を開く。
「…さて、じゃあ現状の整理をしようか。俺たちは毎日一体ずつラベスを倒してた。その間おーがはルミナ☆キャノンとかいう魔法を編み出して、椎名さんには専属の追っかけがついた。そしてラベス撃破地点は少しずつ家に近づいていた。更に疑似さん…ちゃんでいいか…、疑似ちゃんが現在進行形で家の前にいる。諸事情で手が出せないから疑似ちゃんについては現状維持。皆何か補足ある?」
「はい…。私に追っかけが付いた云々は言う必要無いと思う…」
琴乃が微妙に嫌な顔をしながら手を上げ、発言。
「いや、琴乃よ。奴は意外と良く働くぞ? 奴がいなかったら全裸で横たわる人間はどうするつもりだ。まさか放置してくるなどとは言うまい?」
「むぅ…、でも勝手に動画撮って投稿してるし…」
「必要経費だとでも思っておけ! ふははははは!」
「納得できない…」
そう、ヒロ男に『馬鹿』という追っかけが付いているように、琴乃にも『小田』という追っかけが爆誕していた。彼らの行動力は凄まじく、ヒロ男が戦闘すれば馬鹿が、琴乃が戦闘すれば小田がという様に、的確にそれぞれの推しの前に姿を現し、動画を撮影していくのだ。
しかしラベスを倒した後に残される全裸の人間のケア(?)を彼らに丸投げしているが、その働きが思いの外優秀で、少なくとも二週間前のラベス初出現後の全裸男がニュースになった後はそのような話は広まっていない。
(犬型ラベス以降の雑魚…、もしかすると釣り餌だったのかもしれませんね)
琴乃の不満をスルーし、今度はティオリアが発言。
「…そうか、魔法が使えるってことは空も飛べる。ラベスで釣って、上からおーがたちの戦闘を観察。あとはそのまま見てれば家の場所なんてすぐわかる」
「ってことは…、かなり前から私たちの情報が親ニョロゼノ助に渡ってるって事にならない? 家の位置だけじゃなくて変身前の姿も。なんで襲撃してこないんだろ…」
コーセーが情報を整理し、琴乃が疑問を上げる。
(おそらく、"今は勝てない"と考えているのではないかと。ゼノウィータはかなり慎重な性格をしてます。自分の受けているダメージ、おーがさんと琴乃さんの戦闘能力、それらを計算して、今は情報を集め、力を蓄える時期だと考えているんだと思います。最近の雑魚もそういう視点なら納得できます。あの程度のラベスを作るなら犬型より遥かに低コストでしょうから)
ティオリアがゼノウィータの心理を推測する。
「つまり、"いつかは"襲撃してくるってことだね。それがいつ頃かわからないのは不気味だけど…」
(その時期はゼノウィータがこの世界を"どう見ているか"でかなり変わると思います。皆さんと二週間過ごした私の感覚で言えば、ゼノウィータが私の感知が届かない場所でラベスを使えばあっという間に戦況はゼノウィータ側に傾きます。でも現状ゼノウィータはそうしていない。つまりこの地域に留まっておーがさんと琴乃さんを倒す方が現実的だと判断しているんです。"ここ"に私たち側とゼノウィータ側で"情報のズレ"が発生しています)
その話を聞きヒロ男が腕を組んで唸る。
「う゛~ん、確かに、最近の雑魚ですらこの世界じゃ相当な脅威だ。警察はもちろん、自衛隊だって対処できないかもしれない」
(おそらく対処は不可能でしょうね。雑魚と言ってもラベスです。魔力障壁を常時展開している上、肉体も魔力で強化されています。こちらも魔力をぶつけないと相殺できません。話に聞くこの世界の武器は全て物理攻撃仕様。魔力障壁は貫けないでしょう)
「……その話を聞くとおーがの投石攻撃…『ルミナ☆スロー』だっけ? あれって相当頭おかしい事やってるよな…」
「頭おかしいとか言うな。石に魔力をコーティングした"半魔力弾"だって言ってるだろうが」
ラベスの重要な生態の話が何故かヒロ男のディスに流れていく。確かに小石を投げるだけの『ルミナ☆スロー』でラベスの体表を貫通させるなど普通に考えれば常軌を逸している。




