ep.44 リスペクト
(よし!!! やっぱルミナ☆ストライクが一番しっくり来るな!!!)
(…えぇ、まぁ、一番おーがらしい魔法よね…)
満足気なヒロ男に何とも言えない声色で返すティオリア。
そんなヒロ男のところに琴乃がノワールを引き連れて歩いてきた。そして琴乃はヒロ男の胸元に人差し指を置き、グリグリグリグリと捻じり始める。
「ルミナ☆ストライク禁止って言ったでしょ!? 何やってるの!? 丸見えなのよ! もっと人目を気にして!」
琴乃は以前、ルミナ☆ストライクを使うことでスカートの中身が丸見えになる事を問題視し、写身を使わせているティオリアのためにルミナ☆ストライク禁止を言い渡していたのだ。今回それを破った事にだいぶご立腹のようだ。
「お、落ち着けしい――ルナちゃん。ほら、ここには私たち以外居ないから大丈夫だよ――」
「ティアさーーーーん!!! 今回もかっこ良かったよーーーー!!!」
「………嘘だろ……」
怒る琴乃を宥めるため人目が無いことを伝えようとしたら、遠くからいつもの馬鹿の声が聞こえてくる。
ヒロ男と琴乃が声の方を見ると、馬鹿が隣の建物の上でスマホ片手に嬉しそうに手を振っている。
すると馬鹿の後方からもう一人、息を切らした男が現れた。
「はぁ! はぁ! くそっ! 間に合わなかったか! あ、リーダー! もしかしてルナちゃんも撮れた!?」
「ふふん、小田よ、僕を誰だと思ってる? 当然ばっちりさ!☆」
「さすがリーダー! 最高だぜ!」
落下防止用の柵の向こうで二人の馬鹿が楽しそうに話している。琴乃はそんな様子を目を点にして口をパクパクさせながら眺めている。
「ふん、昨日絡んで来た小僧か。性懲りも無くウロウロしおって」
ノワールがため息を吐く。後から来た男の事を知っているようだ。
(ティオリア…、あの馬鹿いつから居たかわかるか…?)
(いえ…、全然気が付きませんでした…。私たちがここに来てからあまり時間も経ってませんし、仮に下で私たちを見つけて建物を上って来たにしても、今目の前にいるのが信じられません…。速すぎます…)
ティオリアが本気で驚愕している。魔法を使えるならいざ知らず、奴らはこの世界の一般人。魔法など使えるはずもない。つまり奴らは己が身の力一つでそこまで辿り着いたのだ。
それを思うと、ヒロ男は目の前の馬鹿どもに不思議なリスペクトを感じた。動機はどうあれ、自身の限界に挑戦し、仲間と喜びを分かち合う。部活に命を懸ける学生たちと彼らの何が違うというのか。彼らも立派なスポーツマンだったのだ。
「……、ノワール、あの人たちこっちに連れて来て貰っていいですか?」
「え゛?」「む? 何故だ?」
ヒロ男がノワールに頼みごとをすると琴乃がすごい声を漏らし、ノワールは不思議そうに聞き返す。
「仕事を頼もうと思って」
「ふむ? まぁ我は構わぬが…」
ふわっと柵を跳び越え、隣の建物へ移動するノワール。琴乃はススス…とその場から後ずさり距離を確保する。
するとすぐにノワールが戻って来た。背に馬鹿を乗せ、口に小田を咥えている。ノワールが二人を降ろすと丁度その時、近くで爆散したラベスの魔力が集まり出し、全裸の男が一人再構成され転がった。
ヒロ男はそれを確認すると馬鹿に話し掛ける。
「今回も貴方には驚かされましたよ。まさかこの短時間で屋上に現れるとは…」
「ふっ、ティアさんのいるところにならどこにでも行くよ☆」
格好付けて気色悪いことを言う馬鹿。そんな馬鹿に、ヒロ男は無表情をキープし、仕事を頼む。
「実は私たち、あまり人と関われなくて。なので今そこに転がった人を頼んでいいですか? それと警察が私たちを探してるみたいなので、あんまりそちら方面に情報を渡さないでいただけると"嬉しい"です」
「!!! わかったよ! ティアさんの頼み、しかと受け取ったよ!」
"推し"を喜ばせたい一心で無邪気に頼みごとを引き受ける馬鹿。その後ろの小田という男も両手でガッツポーズし、力強く頷いている。
「…、じゃあ頼みましたよ。ノワール、行きましょう」
「うむ、二人とも乗れ」
ノワールはヒロ男と琴乃を背に乗せるとぴょんぴょんと建物を跳び移り、馬鹿コンビの前から離脱した。




