ep.39 飛ぶ…とは…?
朝、コーセーこと夜久輝星(愛称:やっ君)は学校へ行くため玄関の扉を開ける。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい! 気を付けてねー!」
母親と挨拶を交わし、通りに出る。
そこには見知ったいつもの人物が一人歩いていた。
「おはようおーが、ティオリアさん」
二人に挨拶をする。
「……おはようコーセー」(おはようございますコーセーさん)
おーがこと日色凰我(愛称:ヒロ男)と、ヒロ男の身体の中に居候している異世界人、ティオリア・クラルスが挨拶を返す。
「……、おーがどうした? そんな渋い顔して…」
ヒロ男は朝っぱらからとても渋い顔をしていた。
(さっきまでおーがさんと空の飛び方について話してたんですよ。そしたら表情がどんどんこんな風に…)
「おーが…」
憐れむようにヒロ男を見るコーセー。
とりあえず学校へ向けて歩き出し、話を聞いてみる。
「光線はある程度出せるようになっただろ? その要領でイメージしてみれば良いんじゃないのか?」
そう、昨日の緑地公園での練習のおかげでヒロ男はやっと手頃な遠距離攻撃、『ルミナ☆レーザー』を習得することができた。懐中電灯的な光の『ルミナ☆ライト』を光線と言い張っていた一昨日とは違い、今のヒロ男はイメージの質が"物理至上主義"から卒業しつつあるのだ。
そのイメージのまま、物理に引っ張られずにいられれば空を飛ぶことはそんなに難しくないはずなのだが…。
「…、飛ぶって…、いったい何なんだ…」
ヒロ男はまた物理の呪縛に囚われていた。
(私としては魔力を全く使わずに飛んでるというこの世界の"飛行機"の方が信じられませんけどね。怖すぎですよ。落ちちゃいますよ)
「へー、異世界人の感覚だとそうなるんだね。まぁ確かに、あんな鉄の塊が空を飛んでるって冷静に考えるとすごいことだよね」
過去の偉人たちが磨き上げてきたこの世界の航空技術。ティオリアの感想を聞き、改めてその偉大さを再認識する。
「そうだよ。飛ぶには"揚力"が必要なんだ。何でそれ無しで飛べるんだよ。魔法っていったいどうなってるんだよ…」
ヒロ男は頭を抱えた。
「ヒロ男くんって…ばか?」
合流した椎名琴乃がドストレートにヒロ男を罵倒する。
ヒロ男はまた渋い顔をする。
「難しく考えすぎ。魔力を操作する、浮くイメージをする、そうすれば飛べる。なんでこれができないわけ?」
(琴乃さん…、少し手加減してあげて…)
言葉のナイフでヒロ男を切り刻む琴乃に手心を求めるティオリア。コーセーは隣で苦笑いを浮かべる。
「ふははははは! 凰我よ! 頭を空っぽにするのだ! お前は見た目通りバカなのだから考えるだけ無駄だ!」
「てめぇ言いやがったなノワール!!! 誰が見た目通りバカだふざけんじゃねぇ!!!」
ヒロ男が琴乃のカバンに乗っていたノワールを掴もうとすると、ノワールはスィッっと飛んで躱し、そのままびゅんびゅんとヒロ男の周りを飛び回る。
「ほぉら空飛ぶ我が羨ましいか! ふははははは!」
「うがああああ!!!」
腕を振り回し、ぴょんぴょん跳ねてノワール捕まえようとするヒロ男。しかし空飛ぶノワールを捕まえることはできない。
コーセーはその光景を苦笑いのまま眺め、合流してから気になっていた事を琴乃に尋ねる。
「そういえば椎名さん、ノワールの入れ物もう完成したんだね」
琴乃の男性性の人格であるノワール。琴乃はその人格をキーホルダーの小さな黒猫ぬいぐるみにぶち込んでいた。しかし今のノワールは子猫サイズのリアルな動きをする黒猫ぬいぐるみにアップデートされている。
「うん。私、手芸得意なんだ。"ノワールの移動"も問題無くできたし、これであの黒猫ぬいのキーホルダーも安全」
「はは、良かったね」
昨日までノワールが入っていた黒猫ぬいは琴乃のお気に入りだという。ノワールが喋る度に琴乃が殴っていたので、琴乃はこのままでは黒猫ぬいがすぐボロボロになってしまうと嘆いていたのだ。
今ノワールが入っている『リアル可動式子猫サイズ黒猫ぬい』はおそらくかなり頑丈に作られているはずだ。これで琴乃も気兼ねなく殴れることだろう。
ぽん
「ふふん、凰我よ。地べたを這い蹲る気分はどうだ? お前が飛べるようになったらまた追いかけっこの相手をしてやろう」
「はぁ…! はぁ…! くそっ…! くそぅっ…!」
ノワールは琴乃の頭に着地しヒロ男を煽る。煽られたヒロ男は息を切らして両手を地面につけ崩れ落ちている。
「……私が言うのもなんだけど、ノワール、少し手加減してあげて?」
「む? 仕方ないな。この遊びは今回で終わりにするか」
揃って強者ムーブを取る琴乃とノワールにヒロ男が叫ぶ。
「畜生!!! お前ら覚えてろよ!? 絶対飛べるようになって見返してやるからな!? そしてノワール! お前は真っ先に地面に叩きつけてやる!」
「ふははははは! 楽しみにしておるぞ凰我よ!」




