ep.35 アニマ・リベロ
突然いきり出したノワールと、そのノワールを警戒する巨大犬に困惑する琴乃。
「琴乃よ、よく見ろ。怖いのはお前だけか? この犬っころも怖がっているぞ? 向こうで転がっている輝星も恐怖を感じつつもお前を逃がそうと戦ったのだぞ? そしてさっきお前も恐怖を感じながら輝星のために力を使ったではないか。ふはははは! 皆同じことをしておるな!」
ノワールの独特の言い回しに少し混乱しそうになるが、言わんとしていることは何となくわかってきた。
「琴乃、恐怖を感じるのは自然なことだ。だが飲まれるな。恐怖に飲まれさえしなければ、お前はこんな犬っころに負けはせん。こいつが怯えているこのノワール様は"琴乃の一部でしかない"のだからなぁ!」
ノワールの自信満々な態度に、ほんの少し気力が戻ってくるのを感じる。
ぐっと足に力を込め、立ち上がる。
「ぐす…、わかった…。少し…がんばる。どうすれば良い?」
「魂を開放しろ。理性で押さえつけている力を解き放つのだ。やり方は琴乃の心がすでに知っている」
それを聞き、琴乃は目を閉じる。そして両手を胸元に当て、呟いた。
「コード:アニマ・リベロ」
その瞬間、琴乃は光に包まれる。光が消えるとそこには黒地に紫があしらわれたドレスのような衣装に身を包んだ琴乃が立っていた。手には紫の大きな宝石が輝く黒い大杖を持ち、髪先が紫色に発光している。
そして琴乃は大杖を黒猫ぬいに向け、詠唱した。
「コード:レオ・リーベル」
すると今度は黒猫ぬいが光に包まれる。その光はどんどん大きくなり、光が消えると巨大な漆黒の獅子がニヤついた表情で巨大犬を見下ろしていた。獅子の体毛の毛先も琴乃の髪と同じように紫色に発光している。
「ふははははは!!! 喧嘩を売る相手を間違えたな犬っころよ!!! 琴乃は貴様が食えるほど安い女ではないわ!!!」
楽しそうに吠えるノワールの後ろで琴乃はふわぁ…と浮遊し始め、上空から巨大犬へ大杖を向ける。
すると大杖の先端に魔力が収束し、ビュバアアアア!と光線が放たれる。
「がう!?」
バレーボール大ほどの太さのその光線を巨大犬はギリギリで躱す。光線は地面に当たりドガアン!と爆発を起こす。
巨大犬はそのままノワールから距離を取ろうとするが…。
「逃がさんよ!!!」
バゴン!と、巨大犬を猫パンチで弾き飛ばし、巨大犬はゴロンゴロンと転がっていく。
そこへ琴乃は容赦なく攻撃を加える。
「足を潰す…!」
巨大犬に向けた大杖の周りに魔力が収束し、ズバアアア!とショットガンの様に幾重にも光線が放射される。
それは転がる巨大犬にズバババババと降り注ぎ、その身体に穴を開け、ボガアン!と爆発し、巨大犬の四肢を弾け飛ばしていく。
「が、ぐがああ!」
身体に穴を開けられ、四肢を飛ばされた巨大犬は藻掻きながら、足の傷口から触手をニョロニョロ伸ばし足を再生させようとする。
それを顔を顰めながら確認した琴乃が声を上げる。
「ノワール!」
「おうよ!」
琴乃に呼ばれたノワールは空中を駆け、琴乃のすぐ後ろへ陣取る。そして琴乃は両手で大杖を支えて巨大犬へ向け、詠唱を開始。
「コード:ルナティック!」
大杖の先端に大きな魔法陣が出現。ノワールが続く。
「闇夜に輝くは白銀の月、月光で目覚めし狂気がマナを躍らせ、我らが血肉を沸騰させる―――」
ノリノリで恥ずかしい中二病フレーズを唱えるノワール。琴乃は何とも言えない顔でそれを聞くが、詠唱に合わせ、魔法陣には凄まじい量の魔力が収束していく。
そしてノワールが満足したタイミングで二人が叫ぶ。
「「ルナ・ラディウス・マグナ!!!」」
ドガアアアアアア!!!と魔法陣から巨大な魔力の奔流が放たれ、巨大犬を一瞬で飲み込み、ドガアアアアアアン!!!と大爆発を起こした。
しかしその爆発のエネルギーは周囲に拡散することはなく、光の柱となって上空へ放出された。
「ふん!!! さすが琴乃だ!!! アフターケアもばっちりだな!!!」
「当然。…ノワール、少し声のボリューム落として」
「ふははははは!!! 細かいことは気にするな!!! 勝利の余韻をもっと味わわせろ!!!」
ノワールは琴乃にすり寄り、琴乃はノワールの鬣をもふもふしながら、キラキラ光る光の柱を眺めた。




