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ルミナ☆オーバードライブ  作者: コルミ
第7話 子猫の覚悟(アニマ・リベロ)
34/67

ep.34 恐怖

「琴乃、遠くで嫌な気配が二つ現れたぞ。ラベスというやつではないか?」


 突然そのようなことを言い出すノワールに椎名《しいな》琴乃《ことの》は顔を引き攣らせながら答える。


「へ、変な冗談言わないで。何で貴方がそんなのわかるの?」

「知らん。とにかく感じるのだ。…かなりの速さで移動してるな。人を襲わずに移動しているところを見ると、どこか目的地があるのやもしれん」


 冷静な声色で状況を説明するノワール。琴乃の表情に恐怖が浮かぶ。


「…、だ、大丈夫、ティオリアさんも察知してるはずだ。すぐに対処してくれると思うよ」


 コーセー(夜久輝星)は必死に笑顔を作り、琴乃を励ます。


「……、二人とも、すぐ移動しろ。奴らが二手に分かれた。一体がこちらに向かって来ている。このスピードじゃすぐに目の前に現れるぞ」

「ひ…」


 琴乃の口から小さな悲鳴が漏れる。肩がカタカタと震えている。

 コーセーはそれを見てすぐに行動を開始。広げていたノートを琴乃のカバンに入れ、黒猫ぬいを取っ手から外して握りしめ、琴乃の手を取って立ち上がる。


「行くよ椎名さん! なるべく遠くへ逃げるんだ!」

「う…うん…」


 コーセーに手を引かれ、琴乃はゆっくりと立ち上がる。しかし…。


「きゃあああああ!」「なんだあれ!」「逃げろおお!」「でかいぞ!」


 遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 二人がその声の方を見ると、そこには巨大な野犬が仁王立ちし、周囲をキョロキョロ見渡す姿があった。伸ばした首の先は人の頭を優に超える高さにある。とんでもないサイズだった。


(でかい…! あんなのが暴れたらこの辺がめちゃくちゃになる…!)


 ちらっと琴乃を見る。琴乃は恐怖で顔を歪め、ガタガタと身体を震わせている。


(抱えて逃げる…、いや、俺の筋力じゃ咄嗟に動けなくなる。身体強化魔法を使えばいけるか…、ダメだ、ティオリアさんの話じゃラベスは魔力に反応する。きっと魔法を使ったら狙いを定めて追って来る。……追って来る…か)


 早くなる鼓動に引っ張られ焦らないように、冷静に、ゆっくり息を吐く。そして琴乃に声を掛ける。


「椎名さん、俺、あの犬がこっちに来ないように誘導してくるから、動けるようになったらすぐに走って逃げて。魔法は使わないようにね、きっと魔力に反応して追って来るから」

「やっ君!?」


 琴乃が驚愕の表情でコーセーを見るが、コーセーは覚悟が決まった表情をしている。止めても行く気だろう。


「輝星よ。生き残る算段はあるのか?」

「わからないよそんなの。俺は喧嘩みたいなのはしたこと無いんだから。でも足だけは自信あるから、おーが(日色凰我)が来るまで全力で逃げ回るさ」


 コーセーは苦笑いを浮かべつつ琴乃の手を優しく離し、その手に黒猫ぬいを持たせる。


「ノワール、椎名さんをよろしく。じゃ、椎名さん、行ってくる」


 そしてコーセーは巨大犬のところへ走り出した。


「やっ君!!! やだ! 行かないで!!!」


 手を伸ばすが、足に力が入らず動けない。

 遠くでは巨大犬がうろうろと動き出し、スマホで動画撮影していた野次馬を追い回し始めていた。

 コーセーがそこに石を投げ、巨大犬の注意を自分に向けるとこれ見よがしに身体強化魔法を発動。魔力で巨大犬の誘引を狙う。

 巨大犬はコーセーの誘いに乗り、凄まじい速さでコーセーを追い回し始めた。

 身体強化魔法を使ったコーセーは人間離れした動きで巨大犬を躱すが、全く余裕が無い。あのままではすぐに捕まってしまう。


「琴乃よ、いつまでそうしているつもりだ? 逃げるなり加勢するなりしたらどうだ」

「そ、そんなこと言ったって…。あ、足が…動かない…」


 ガクガク震える足は辛うじて直立を維持しているが、少しでも動けば崩れるように転倒してしまう。


「このままでは輝星は死ぬぞ。黙って見ているつもりか?」

「やだよ…!!! そんなの…見たくない…!!! でも…でも…!」


 琴乃の瞳に涙が浮かぶ。

 その潤んだ瞳にコーセーが巨大犬に殴られ転倒し、巨大犬が歩み寄ろうとする光景が映る。


「やめてええええ!!!!!」


 琴乃は咄嗟に身体強化魔法を全力で使い、周囲に強い魔力を振り撒いた。

 巨大犬はすぐさまその魔力に反応し、琴乃を凝視する。


「し、椎名さん…! 何で…!」


 コーセーも琴乃の魔力を感じ、あんなに震えていたのに自ら巨大犬の注意を引いたことに驚愕した。


「ひ…」


 ゆっくり近づいてくる巨大犬に威圧され、ついにぺたんと座り込んでしまう琴乃。頬には涙がぼろぼろと伝う。


 すると握っていた黒猫ぬいがスィーと浮遊し、琴乃の目の前まで上がってきた。


「……琴乃よ、がんばったではないか。お前の覚悟、確かに感じたぞ。我も本気を出そうではないか」


 そして近くまで来ていた巨大犬の目の前にスィッと飛んで割り込む。

 次の瞬間、ぶわああああ!!!と、黒猫ぬいから凄まじい威圧感が放たれ、巨大犬に叩きつけられた。


「ぐぅ…!」


 威圧感を叩きつけられた巨大犬は尻尾を下げ後退し、とんでもない威圧感を放つぬいぐるみを警戒し、様子を窺う。


「ふははははは!!! 見てみろ琴乃よ!!! お前の中の"野生"に犬っころが怯えているぞ!!!」

「…え…? え…?」

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