ep.33 ルミナ☆バスター
通りでは"巨大な野犬"が爆走していた。
「なんだあれ!?」「やばいぞ!」「逃げろ!」「きゃあああ!」
それを見た人々の悲鳴が響く。
巨大な野犬はただひたすらに走る。どこか目的地があるかのようだ。
そんな巨大犬の横っ面に一人の少女が跳び蹴りをお見舞いする。
「はあああああ!!!」
ボゴン
「ぎゃん!」
どしゃあああと転倒して滑っていく巨大犬。幸い巻き込まれた人はいないようだ。
「皆さん!!! 今のうちに逃げてください!!!」
少女…変身状態のヒロ男が声を上げ、周囲の人々に逃げるように促す。
そして今し方の飛び蹴りをティオリアに謝罪する。
(悪いティオリア、今回はスカート気にしてる余裕は無い)
(気にしないで。人が死ぬくらいならいくらでも見せる)
その即答にヒロ男は、強ぇ女だな、と心の中で微笑む。
「ティアちゃん?」「今バズってる動画の?」「え? 本物なの?」
変身状態のヒロ男を見て、周囲の人々はざわざわし出し、スマホを取り出す輩まで現れ始める。その光景にヒロ男はイラっとした。
「死にたい人だけ残ってください!!! 周りを気にして戦えるほど私は器用じゃありません!!!」
そして足元の小石を拾い、起き上がろうとしている巨大犬目掛けて投石した。
「ルミナ☆スロー!!!」
ビュンッ!と放られた小石は巨大犬の足元に"着弾"し、ボガアアアン!と地面にクレーターを作り出した。
それを目の当たりにした人々が一斉に逃げ出す。
「逃げろおおお!」「まじで死ぬぞおおお!」「助けてえええ!」
(よし、それでいい)
逃げる群衆を微笑んで見送り、ヒロ男は改めて巨大犬へ向き直る。
(犬型…、ゼノウィータがよく使っていたタイプね。本当に動き方を変えてきたみたい)
ティオリアの声に緊張が滲んでいる。ゼノウィータの行動の変化に警戒を強めているようだ。
(ティオリア、あれの注意点は?)
(単純に速いわ。口でも前足でも触手でも、捕まったら即アウトだと思って)
(…なるほど、了解だ!)
ヒロ男は足元の小石を持てるだけ持ち、次々に投石を開始。
「ルミナ☆スロー! ルミナ☆スロー!! ルミナ☆スロー!!!」
「がう!!!」
バスンッ! バスンッ! バスンッ!
巨大犬は投石を躱そうとするがとんでもない飛来スピードのため全て命中。
しかし小石は巨大犬の体表を抉り、めり込んではいるが、言わば触手の塊であるラベスには大したダメージになっていないように見える。
「があううう!!!」
巨大犬は避けるのを諦めヒロ男に跳び掛かろうと突進し、ヒロ男は十分に距離を確保しそれを回避。ふわ…と信号機の上へ着地する。
(昨日のヤクザラベスより少し遅いくらいか…。でものし掛かられたりしたらそのまま奴に取り込まれてジ・エンド。なるほど、ティオリアが近接が危険だと口酸っぱく言う理由がよくわかるな)
(やっと理解したわね。それでどうするの? このまま投石を続けてもラベスは倒せないわよ?)
巨大犬は「がう!!!」と信号機へ跳び掛かり、メキメキと信号機を破壊し倒していく。
ヒロ男はふわ…と跳躍し、更に高い案内標識の上へ着地。信号機を噛み噛みしている巨大犬を見下ろす。
(……、ティオリア、俺、もっと魔法の…"心の力"ってやつを信じてみようと思う)
(え…いきなりどうしたの?)
何やら悟りを開いたかのような事を言い出すヒロ男にティオリアが困惑する。
(昨日一緒に観たアニメの技を真似してみようと思う。深いことは考えず、見たままをイメージしてみるよ)
(ちょっと待って、言ってることは今まで私が言ってきた事だから嬉しいんだけど、今このタイミングで言われるとすごく嫌な予感が…)
ティオリアが心配を口にするが、ヒロ男はそのまま魔力を操作し集中し出す。ヒロ男の身体の周囲に魔力の粒子が現れ、キラキラと光を放ってヒロ男に集まっていく。
「ルうううミいいいナあああああああ☆!!!」
両手の平を巨大犬へ向け、手の平の前に魔力が急速に収束していく。そしてヒロ男の身体がふわぁ…と宙に浮き、足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。
(おーがが…! 浮いた…!!!)
ティオリアが驚きの声を上げると同時にヒロ男が叫ぶ。
「バスタあああああああああああ!!!!!」
ドガアアアアアア!!!とヒロ男の両手から巨大な魔力の奔流が放たれ、巨大犬を一瞬で飲み込み、ドガアアアアアアン!!!と大爆発を起こした。
しかしその爆発のエネルギーは周囲に拡散することはなく、光の柱となって上空へ放出された。
ヒロ男はふわ…と案内標識の上へ降り、どこか満足そうな表情で爆心地を眺める。
そしてその美しい立ち姿と表情を、スマホを持った馬鹿が斜め下からばっちり撮影していたのだった。
(ティオリア、どうだ? 魔力の収束砲、これでばっちりだろ?)
(え? あ、えーと…)
どこか達観したような雰囲気のヒロ男。そんなヒロ男に意見を求められ、ティオリアは困惑する。
((おーがが収束砲を使えたのは素直に嬉しい…、でも威力が化け物過ぎるんだけど…。少なく見積もっても一個隊で協力して使う戦術魔法クラス…、いったいどうやってこんな出力を…。いえ、それよりも個人でこんな出力の魔法を使ったらあっという間に魔力が枯渇してしまう…、この魔法は使わせない方が良い。でも…、おーががせっかくがんばって形にした魔法よ? それを否定することなんて…))
ヒロ男にどう返事をするか悩んでいると、ヒロ男は少し残念そうな表情をした。
(そうか、何か問題があるんだな? 今回はうまくいったと思ったんだが、やっぱり魔法は難しいな…)
(ち、ちがっ! 違うの! ばっちりよ! 収束砲としては完璧! 私の世界でも運用したいレベルの素晴らしい魔法よ! で、でも…その…ちょ~っと威力が強過ぎるっていうか――)
ティオリアが必死にヒロ男を励まそうとしていると、ヒロ男が立つ案内標識の下から声が掛かった。
「ティアさん! お疲れ様! すごい必殺技だったね! びっくりしちゃったよ!」
(あ、マジかよ…。あの馬鹿また現れやがった)
いつもの馬鹿だった。今回も笑顔でスマホを構えている。
「また貴方ですか! いい加減にしないと死にますよ!?」
「大丈夫! "遺書"持ち歩いてるからね☆!」
グッと親指を立てる馬鹿。ヒロ男は額に手を当ててため息を吐く。
(移動するぞティオリア。もう一匹のラベスをさっさとぶっ倒さないと)
(あ…、えぇ…、そうよね…! もう一匹は…、今は移動してない。たぶん街中で暴れてるわ! 急ぐわよおーが!)
(おう!)
ヒロ男はダッと跳躍し、建物の屋根へと跳び移る。そして急いで街中へ走り始めた。
「ティアさん!!! いつも応援してるよ!!! がんばってねー!!!」
後方で叫ぶ馬鹿を無視し、ヒロ男はグン!と加速した。
(…? おーが? 飛ばないの? さっき飛んでたじゃない)
走るヒロ男に疑問を投げるティオリアだったが…。
(偶然だ。何で浮いたのかわからん。今は急いでるからそんな不確実なもんには頼れん。だからいつも通り走る!)
ヒロ男から返って来た返事はいつも通りのヒロ男で、そんなヒロ男の不器用さにティオリアはため息を吐いた。




