ep.32 魔法っていったい…
「サンキューヒロ男、今回も助かった。また頼むな」
「おう! いつでも声掛けてくれ!」
ヒロ男が校庭で陸上部員の男子生徒と拳を合わせ合う。男子生徒の後ろには十数人の部員が集まっていた。
「あ! それと"ティアちゃん"もがんばって! 俺らも応援してるから!」
(あ、はい、ありがとうございます。皆さんも練習頑張ってください♪)
ティオリアの声が部員全員に届けられると、「おっしゃああああ!」やら「やるぞおらああああ!」などと声が上がり、部員たちは揃って走っていった。
ヒロ男はそんな彼らを苦笑いで見送り、急ぎ早に校門へ歩き出す。
(ティオリア、すっかり大人気だな)
(ははは、ちょっと恥ずかしいですけど、応援は素直に嬉しいですね)
SNSの動画の件と、昨日の校庭での戦闘でティオリアの存在はすでに学校中に認知されていた。
声だけの存在なので、いきなりティオリア目当てでヒロ男に突撃してくるような馬鹿は今のところいないが、ヒロ男のクラスメイトは黙っているティオリアにも自然に話し掛けるため、先ほどのような意図しない激励が発生し、生徒たちのモチベーションを爆上げさせていた。
ちなみに先ほどヒロ男とグータッチしていたのがヒロ男のクラスメイトである。
(それにしてもおーがさん、本当に身体能力おばけですね。野球部での投球勝負とバッティング勝負。サッカー部での1on1。それに陸上部での各種目勝負。全部圧倒してたじゃないですか。身体強化魔法を使ってないのが信じられません。昨日おーがさんが"良く思わない先輩や先生がいた"と話してましたけど納得しました。あれは確かに嫉妬や妬みを向けられても仕方ありません)
今日初めてヒロ男の部活動助っ人を見学したティオリアが感嘆の言葉を贈る。そしてその圧倒的な身体能力故にしてきた苦労にも理解を示した。
(さんきゅ。まぁ真剣に一つの部活に向き合ってるやつから見たら俺の行動は邪道もいい所だろうからな。イラつくのもわかるよ。でも"それも含めて"俺みたいなのがいる意味があると思うんだ。スポーツのそういうイラつきってさ、突き詰めると"焦り"から来てるからな)
(焦り…ですか?)
歩きながらティオリアの質問に答える。
(『もっと良い結果が出したい』『もっとやれるはずだ』みたいな事を考えてるとこに俺みたいなのが現れて、自分がぶつかってる壁の向こう側でパフォーマンスを発揮してたらそりゃ絶望するさ。本当はそういうのって大会とかで味わう挫折なんだけど、フラフラしてる俺ならさっさとそいつの壁を認識させてやれる。壁と向き合うタイミングが早ければ、それだけ肉体的にも精神的にも自分と向き合える時間が増える。そういう意味では俺へのヘイトも悪い事ではないのさ)
(…おーがさん、貴方って人は…)
心の中でため息を吐くティオリア。
昨日ヒロ男が自身の目標のために部活動の助っ人をやっているという話を聞いたが、そこに自己犠牲的なヒール役をも内包していることに呆れ、感嘆した。
日色凰我という男はどこまでも不器用で、そして真っ直ぐなのだ。
(ま、偉そうに言ってるが、俺も現在進行形で壁にぶつかってるけどな。とてつもないでっけぇ壁に…)
(…察しはつきますが一応聞いてあげます。何に悩んでるんですか?)
(光線がわからない…)
(はぁ…)と、ティオリアは今度はわかるようにため息を吐く。
(俺は光線ってのは"光の線"だと思ってた。だから昨日手から光が出た時すごく嬉しかったし、レーザービームみたいに出力を上げて行けば敵も倒せるって思ってたんだ。だけど昨日アニメを見てて思った。何故魔法が当たった箇所が爆発するんだ。演出だよな? そうだと言ってくれ)
(えーと、おーがさん、私もルミナ☆シュートという砲撃魔法はよく使ってましたけど、着弾地点はしっかり爆発してましたよ)
それを聞いたヒロ男は驚愕の表情を浮かべる。
(なんてことだ…。ティオリア、教えてくれ、魔法っていったい何なんだ…?)
(はぁ、仕方ありませんね。コーセーさんたちと合流するまで私の世界の魔法史について教えてあげますから、頭空っぽにして聞いててください)
(魔法史…)
変な顔になるヒロ男にティオリアが釘を刺す。
(良いですか? 深く考えないでください。頭空っぽですよ? わかりました?)
(わ、わかった。ただただ聞く。無心になる)
(よろしい。ではいきましょう。そもそも魔法というのは――)
こうしてティオリア先生の魔法史の講義が始まり、ヒロ男は歩きながら、それをラジオの様にひたすら頭に流し込んでいった。
無心で歩くヒロ男。頭の中では美しい声の魔法史ラジオが流れる。
コーセーとの待ち合わせ場所まで丁度半分くらいのところまで来ただろうか。まだまだ魔法史ラジオを楽しめそうだ。
しかしそのラジオ放送は唐突に終わりを告げる。
(…!!! おーが! ラベスが現れた! 二体よ! 学校の方角へ向かってる!)
(なんだと!?)
それを聞いたヒロ男はすぐに身体強化魔法を発動。跳躍して民家の屋根へ跳び移る。
(おーが、貴方変身しないでも身体強化を…!)
(魔力の扱いが少しわかってきたからか、今まで無意識に使ってたこれも意識的に使えるようになった。でも…)
屋根を走って跳躍するも、変身状態より明らかに出力が低い。身体の重さも相まって飛距離が出ないし、屋根へのダメージも心配だ。
(ティオリア、変身だ! 屋根踏み抜いちまう!)
(わかった! いくわよおーが!)
跳躍したヒロ男が空中で光に包まれる。そして光の中から『魔法少女ティア』がその姿を現し、ふわ…と屋根に着地。すぐさま大跳躍し、凄まじいスピードで家々の屋根を蹴り、走り抜けていく。
(よし! これならすぐに――)
(待って! ラベスが二手に分かれた! 一体が街中に向かってる!)
(なんだって!?)
足を止めるヒロ男。街中にはコーセーと琴乃がいる。助けに行きたいが、しかし学校へ向かっているラベスも放置はできない。
ギリ…と歯を噛みしめる。
(……、おーが…! 学校方面のラベスを先に処理するわよ…!)
(だが…! コーセーたちが…!)
(あの二人は身体強化魔法を使えるわ…! きっと、逃げ切れると思う…! 信じましょう…!)
ヒロ男は目をグッと閉じ、キッと目を開き学校方面へ走り出す。
(即行でぶっ倒して助けに行くぞ!)
(えぇ!)




