ep.30 我が名はノワール!
うるさい黒猫ぬいに、琴乃は額に手を当て再びため息を吐く。
(え、えーと…。ノワールさん? 貴方は何者ですか?)
困惑しつつもティオリアは何とか質問を絞り出す。
「うむ、我は琴乃の覚醒した魔力によって深層心理から分離した、琴乃の"男性性"の人格である。こやつ、せっかく魔法が使えるようになったというのに"力"を怖がって震えておったのよ。それを我と言う人格として分離して"力"の制御権を我に押し付けておるのだ。"我ながら"困ったやつよ」
「…あんまり余計な事言うと首千切っちゃうよ?」
「ふはははは! 貴様がぬいぐるみなんぞに封印してくれたおかげで痛みなど感じぬわ! 我を痛めつけたいのなら素直に我を身体に戻すのだ!」
「絶対嫌」
言い合いをする琴乃と黒猫ぬい。ティオリアはその言い合いの中身から、黒猫ぬいに封印されているというノワールの状態を推測する。
(えーと…、琴乃さんとノワールさんの間に薄っすらと魔力パスが見えます。それにここまで感情表現豊かな人格が入ってるというのにこのぬいぐるみからはそこまで強い気配を感じません。たぶんですけど、ノワールさんの大元の人格は琴乃さんの中にしっかりあって、このぬいぐるみから出力される形に経路が固定化されているのでは…)
その説明を聞き琴乃が首を傾げる。そしてノワールは…。
「何!? 魔力パスが繋がっているということはつまり…!」
何か思い付いたような事を言ったかと思えば、次の瞬間黒猫ぬいはふわふわと空中を浮遊し出した。
その光景にヒロ男とコーセーは絶句する。
「あ! クロ助降りて来い!」
「ふはははは! これはこれで面白いかもしれんな! 琴乃よ! 我はこのままでも良いかもしれんぞ!」
笑いながらひゅんひゅん飛行する黒猫ぬいに、琴乃は右拳を握りしめプルプルと震える。
「いい加減にしろ!!!」
琴乃は覚えたばかりの身体強化魔法と空中移動を使い、一瞬で空中の黒猫ぬいに接近。黒猫ぬいを鷲掴みにしてシュタッと地面に降りてきた。
「ふむ、捕まってしまったか。さすが琴乃だと言っておこう」
「これ以上好き勝手したら水入りの瓶詰めにして放置してやるから」
「おい! それは非道が過ぎるのではないか!?」
「嫌なら迷惑掛けないで」
凄まじい殺気を放ち黒猫ぬいを握り締める琴乃。
「わ、わかった。少し調子に乗り過ぎたようだ。大人しくぬいぐるみに徹するとしよう」
「それでいい」
大人しくなった黒猫ぬいを手に乗せ、「ふぅ…」とため息を吐く。
「で、ティオリアさん、こいつどう思う?」
スパッと空気を切り替えて最初の質問へ戻る琴乃。
若干まだ混乱しているティオリアだったが、何とか口を開く。
(お話を聞く限り、ノワールさんは琴乃さんの分身みたいな存在ですよね。しかも同じ精神を共有してますから、あまり喧嘩せず仲良くした方が良いと思います。ノワールさんと喧嘩するってことは、自分自身を傷つけるのと変わりませんから。おそらく喧嘩が続くと琴乃さんの人格にも影響が出ると思います)
「……、なんて厄介な…」
ティオリアの見解を聞いた琴乃は苦々しい表情で黒猫ぬいを見る。
(ノワールさんもあまり琴乃さんを困らせないでください。琴乃さんあっての貴方なんですからね?)
「う、うむ…、わかった。助言感謝する…」
そして琴乃はため息を吐きながら黒猫ぬいをカバンの取っ手にぶら下げた。
「む? "ここ"で良いのか?」
「私に"自傷"の趣味は無い。できるだけ優しくする。……今まで雑に扱ってごめんね」
「……、…フ、さすが琴乃よ。本質を掴むのが早い。我もすまなかった。これから互いに協力してやって行こうではないか」
互いに謝罪し合う琴乃とノワール。
そして未だ固まっているヒロ男とコーセーに声を掛ける。
「行こ? 遅刻しちゃうよ?」
「あ、うん」「お、おう…」
琴乃に促され、三人並んで通りを歩き始めた。
「えーと…、ノワール? 俺『日色凰我』、よろしくな」
「あぁ名乗らずとも良いぞ? 我は分離するまでの琴乃の記憶を共有している。凰我よ、よろしく頼む。輝星とティオリアもな」
「うん、よろしく…」(よろしくお願いします)
ここで琴乃が口を挟む。
「ねぇノワール、一応言っておくけど、"余計な事"言わないでよ?」
「フ、わかっている。野暮なことはせん」
こうして何とも言えない雰囲気のまま、三人は学校へ向かうのだった。




