ep.28 想いと思惑
一方、自室に戻ったコーセーは机に着き、ノートを広げゼノウィータの行動予測をつらつらと箇条書きにしていた。
ある程度書き出し、ペンを止め、ペン先でトントンッとノートを叩く。
(いくつか考えられるけど、一番可能性が高いのは『魔法少女ティアの正体を探る』かな。ティオリアさんの話ではゼノウィータはかなり深刻なダメージを受けている。おそらく本体は動かない。でも下手にラベスを放っても倒されるのは学習したはず。ラベスを生み出すのにも魔力というコストが必要。なら使うのは確実に魔力を回収できる場面に限定される)
ペンを指の上でクルクルと回す。
(もし次にラベスが現れたら、おーがは"場"に苦労させられるかもな…。俺や椎名さんも巻き込まれる事を想定しておかなきゃならないかも…)
ペンをポイっとノートの上に投げ出し、腕を組む。
(俺も身体強化魔法は使えるようになったし、椎名さんは空も飛べるようになった。敵に捕まっておーがの足を引っ張らないようにだけ気を付けよう。椎名さんは攻撃魔法を使えるけど、"戦えるのはおーがだけ"なんだ)
そしてコーセーはノートを閉じ、心を落ち着け、魔力を操作する練習を開始した。
琴乃は自室の真ん中に座り、三つの魔力の光球を自分の周りにクルクル回転させていた。
(……何やってんだ私)
寝る前にティオリアから教わった魔法の復習をしていたら、不意に「魔力の光球とか出せるかな?」と思い立ち、試したら成功。何となく嬉しかったので数を増やし飛ばして遊んでいたのだ。
しかし一度自分を客観視してしまうと現在の自分の行動がどうにも受け入れられず、ぱっと光球を消し、ため息を吐く。
(でも、敵の次の動きを考えたら、たぶん私とやっ君も戦いに巻き込まれる可能性が高い。次じゃなくても、いずれは絶対に戦うことになる…)
自分の腕を抱き、震える身体を静めようとする。
(怖い…。だけど、もう犠牲が出てる…。最低でも自衛ができるくらいには戦えないと、皆の足を引っ張っちゃう…)
公園でのティオリアの言葉が思い起こされる。
『(琴乃さんならすぐに身体強化、空中移動、変身まで使いこなせそうです! 今日のカラスくらいなら自分で成敗できますよ!)』
ティオリアはだいぶ自分を買い被っているなと、苦笑いを浮かべる。
(無理だよ、私は戦えない。ニョロ助を思い出しただけで震えが止まらないんだから、目の前にいたら絶対身体が動かない。………でも、"変身"か…)
ゆっくりと立ち上がり、姿見の前に立つ。
『(琴乃さんならきっと素敵な姿に変身できますよ)』
またティオリアの言葉が思い起こされる。
自分らしい姿ってどんな感じだろうとぼんやり考えながら、姿見に映る自分を見る。
姿見の中の琴乃が不安そうな表情で見つめ返してくる。
それを見て、琴乃はまた苦笑いを浮かべる。
(きっと、こういう不安を持ってるうちは変身できないだろうね。直感だけど、そんな確信があるよ)
琴乃は姿見に背を向け、再びティオリアに教えて貰った魔法の復習を始めた。
夜の街。
連日の化け物事件の影響でいつもよりは人通りは少ないが、それでも駅前や繁華街では多くの人で賑わっていた。
その様子を廃ビルの中の上階から眺める一つの影。
人の頭部と右腕に、細い触手が束になって辛うじて人の形を保った他の部位がくっ付いている。
「ん…」
その触手の束の中から声が漏れる。
触手の束の中に取り込まれたふわっとした衣装を着た一人の少女。その少女の肌には白い触手が貼り付き、魔力を吸い上げている。
「……、やはり回復が遅いな、肉体だけではこんなものか。しかしその辺の奴よりは回収効率が良いのも事実、手放すのは惜しい」
少女に向いた意識をス…と外し、再び街の様子を眺める。
通りを歩く人の多くは手に長方形の板を持っている。影は、"それ"を注意深く観察する。
「……、この世界の情報端末か…」
影は目を細め、フィッと身を翻し、廃ビルの奥へ消えた。




