ep.27 殴られた
その後、琴乃の家に着いた三人は連絡先を交換し合ってから別れ、ヒロ男とコーセーも自宅に到着して軽く別れの挨拶を交わし、それぞれの家へ入っていった。
「…、親父はまだ帰ってねぇか」
暗い家の中を見てヒロ男が零す。
(お母さまがいます! ほら! ただいまって言わないと!)
「わかったわかった、ちょっと待ってろ」
ティオリアに促され、急ぎ早に靴を脱ぎ仏壇のある部屋へ。
「…ただいま母さん」
(お母さま! ただいま帰りました!)
そしてヒロ男は仏壇の前に座り、じ…と写真の中の母の顔を見つめた。
ティオリアは不思議に思ったが、邪魔をしないように大人しく待つ。
少しの間そうしていると、ヒロ男は一度ス…と目を閉じ、少し息を吐く。
目を開き、立ち上がってキッチンへ向かった。
(お母さまに何をお話したんです?)
夕飯の準備を始めたヒロ男にティオリアが質問する。
「戦いの事、…もしかしたら、"そっちに行くかもしれない"って事」
食材を物色しながらヒロ男は話す。
(……お母さまは、何て言ってました?)
食材をシンクの隣に置き、ヒロ男はニッと笑った。
「殴られた」
そしてヒロ男はまな板と包丁の準備を始める。
(………ぷっ、おーがさんのお母さまはお強いんですね)
「あぁ、そりゃ強ぇさ。あの親父が尻に敷かれてたくらいだからな」
食材を切りながら、ヒロ男は嬉しそうに微笑んだ。
夕飯を作り終え、父の分にラップを掛け、自分の分だけさっさと食べ終えた。そして軽くシャワーを浴び、自室へ入ったヒロ男。
視界の端にベッドが映り込み、不意に"あること"を思い出す。
「あ、ティオリアの夜の暇つぶし考えてなかったな…」
(あー! そうです! おーがさん何か考えて!)
魂だけの状態故に眠気が来ないというティオリア。彼女は今日の朝、ヒロ男が寝ている間の暇つぶし案を要求していたのだ。
「んー…、こういう時はコーセーに聞くに限る」
そう言ってスマホを操作しコーセーに電話を掛けるヒロ男。
『もしもし、おーが? どうした?』
「おう、知恵を貸してくれ。今そっち行って大丈夫か?」
『あぁ、今窓開ける』
ヒロ男が窓を開けると、対面のコーセーの部屋の窓も開いた。
「よっと」
ヒロ男は慣れた様子で屋根を渡り、コーセーの部屋へ入った。
「いらっしゃい。何を聞きたいんだ?」
「ティオリアの暇つぶしについて」
「……暇つぶし?」
首を傾げるコーセーに軽く事情を説明すると、コーセーは「なるほど」と頷いた。
「ティオリアさんは物に触ったり干渉できたりは…」
(できません。できればおーがさんの部屋を物色してました)
「やめて!???」
とんでもない事を言い出すティオリアにヒロ男は全力で制止を掛ける。
「んー、じゃあおーがが寝る前にティオリアさんが"見れる形"にしないといけないのか。しかも一晩で見切れない量を…」
(何か案ありませんか…? 昨日の夜は本当に暇で暇で大変だったんです)
「だから廊下を通った親父に話し掛けに行ったんだな…」
ヒロ男は昨日の深夜に父に自己紹介を済ませていたティオリアの行動理由を察した。
「ははは…、もうおじさんにも挨拶してたんだ…。ティオリアさんってだいぶアクティブだよね」
(三カ月間お世話になりますからね! 挨拶は大事です!)
ティオリアの返答を聞き苦笑いのコーセー。ヒロ男は額に手を当てため息を吐いている。
「とりあえず、夜の暇つぶしは動画鑑賞くらいしか思い付かないな。朝まで再生が止まらないように1話から最終話まで自動再生にして…。おーが、寝る時に光と音があっても大丈夫か?」
「問題ない。そういうのあんまり気にならないタイプだし、いざとなったら耳栓とアイマスク使う」
「よし。ティオリアさん、寝る時だけノートPC貸すからこの中から観たい作品選びなよ」
そう言ってPCで動画サイトを開き、作品群をティオリアに見せる。
(わぁー! ありがとうございますコーセーさん!)
そしてティオリアが作品を選んだ後、ヒロ男とコーセーは揃ってヒロ男の部屋へ移動。コーセーがノートPCをセッティングし、自室へ戻って行った。
画面では『魔法少女リ〇カルな〇は』というロゴが映りOPテーマが流れ始める。
「ティオリア、何でこれ選んだんだ?」
(魔法少女というのがどういうものなのか気になりまして。あとお昼にチラッとこの作品の技を見た時に私の魔法の参考になりそうな気配を感じました)
「ふーん…」
さっさと寝ようと思っていたヒロ男だったが、そういえばヒロ男自身も"魔法少女とは何なのか"を詳しく知らない事に気が付いた。
せっかくなのでティオリアと二人でその作品を視聴することにし、ベッドを背もたれに床に座り作品を眺め始めた。




