ep.26 懇願
しばらく後、日が落ち始めたため三人は公園を後にし、帰宅すべく通りを歩いていた。
3人とも家の方向が同じなため、一番近い琴乃の家を目指し一緒に歩いている。
(でも琴乃さんには本当に驚かされます。まさかこの短時間で空中移動までモノにしてしまうなんて)
「落ちたら怖いからあんまり高い所は行かないけどね」
ティオリアが褒めるも、琴乃は苦笑いで返す。
琴乃は魔法の練習を始めるとメキメキと上達し、身体強化はすぐに発動、その後ティオリアから少しレクチャーを受けただけで空を飛び始めた。
そのあまりの成長速度に、ティオリアから直々に"天才"だと言われた。
「ティオリア、俺にはすぐに『飛べ!』って言ってなかったか? さっきまでの話聞くと飛ぶのって難しいんじゃねぇの?」
巨大ガラスとの戦闘時、ティオリアから雑に飛べと言われていたヒロ男が確認すると…。
(あんな高出力の身体強化を使っていて飛べない方が異常なんですよ? 普通なら出力を上げる過程で勝手に身体が浮遊し始めるはずなんですからね?)
「まじかよ。なんで俺飛べないんだ?」
(私が聞きたいくらいですよ)
困惑と呆れの混じった声色で話すティオリア。
「たぶんだけどさ、おーがは"物理"に囚われすぎなんだと思うよ? 人が飛ぶわけない、光線なんて出るはずない、そういう現実的な視点が障壁になって魔法を妨害してるんじゃないかな。実際椎名さんの光線見たら懐中電灯使えただろ?」
「つまり…、空飛ぶ椎名をひたすら思い浮かべて飛ぶイメージをすれば飛べる…?」
「え…きもい…。私でイメージしないで」
「どおすりゃいいんだよおおお!」
仲良く(?)話しながら歩を進める三人。
するとコーセーがティオリアに質問をし始める。
「そういえばティオリアさん、今回のラベスは二体現れたって言ってたよね? 動画では一体しかいなかったけど、すぐに倒せたんだ?」
(…いえ、一体は私たちが到着する前に消えました。おそらくゼノウィータの仕業です)
「? ゼノウィータがラベスを倒したの? ゼノウィータってラベスを生み出すって話じゃなかった?」
琴乃が不思議そうに聞き返す。
ティオリアが、少し深刻な雰囲気になり続きを話し始めた。
「推測ですが、今回ゼノウィータはヤクザという反社会組織の拠点に攻め入り、二人をラベス化させ、拠点内の人を吸収させた。そして頃合いを見て魔力量の多い方のラベスをゼノウィータが吸収し魔力を回収、もう一体を残して離脱した。その残った一体を私たちが倒した、という流れだと思います」
それを聞き、ヒロ男が動揺し始める。
「ちょ、ちょっと待てよ! それって…、残り半分の人はゼノウィータに食われてるってことか!? 助けに行かねぇと!」
(無理です。あの時私は周囲の魔力を細かく索敵してたのですが、ゼノウィータの気配は全くありませんでした。おそらくラベスを吸収した後、早々に逃げてしまったのでしょう。それに移動中も話しましたが、一度隠れたゼノウィータはかなり接近しないと感知できません)
ティオリアから語られる残酷な現実。つまり、今回吸収されたヤクザたちはもう助けられないのだ。
「くそっ!!!」
どがっ!
ヒロ男が電柱を殴る。その拳からは少し血が滲んでいる。
一気に空気が重くなった。
ヒロ男は悔しそうな悲痛な表情を浮かべ、コーセーは悲し気な残念そうな表情を浮かべる。
琴乃だけは冷静に、あるいは冷徹に事態を整理していた。
(今回襲撃されたのはヤクザの拠点。犠牲もおそらくヤクザだけ。社会的に見ればむしろ掃除されて綺麗になってる。でもこれは善悪で人の価値を分ける視点。根っからのヒーロー思考のヒロ男くんには受け入れられないだろうね)
そして思ったことをティオリアに聞いてみる。
「ティオリアさん、たぶんだけど、ゼノウィータの動き方、今後変わるよね?」
(えぇ、間違いなく。今回の戦闘ですでに兆候が出ています。最初の人型、次の蜘蛛型、そしてカラス型。この三体は『適当に置いておけば魔力を回収できる』というような、雑な"楽観"のような雰囲気がありました。でも最後の人型は明らかに意図を持って配置されています)
「ヒロ男くんの動きを、どこかで見てた可能性があるってことだね」
ヒロ男は真剣に琴乃とティオリアの話に耳を傾ける。
(はい。今回でゼノウィータは、『私の姿をした"何者か"が邪魔をしている』と認識したはずです。ラベスを生み出すにはゼノウィータも魔力をかなり消費しますから、私の世界にいた時のように慎重に、狡猾に動き始めるでしょうね…)
「『ティオリアさんの姿をした"何者か"』ってことは、ゼノウィータは変身したおーががティオリアさん本人じゃないってわかるんだ?」
(身のこなしや使ってる魔法が全く違いますから、ゼノウィータなら絶対にわかります。…"私の身体"も持ち歩いてるでしょうしね)
ティオリアがコーセーの質問に丁寧に答えるも、最後の言葉だけ少し別の感情が混じった気がした。
「でも、向こうが目的を持って動き始めたならこっちも動きを読めるようになるよ。うまくすれば先回りして動けるかも」
(えぇ、その通りです。私の世界でもまさにそうやってゼノウィータを追い詰めました。その時は魔導団の皆で協力して何とか…って感じでしたけど、この世界では魔導団の皆はいない…。おーがさん、コーセーさん、琴乃さん、私に知恵を貸してください。ゼノウィータもこの世界の事がまだよくわかっていないはず、それに私が与えたダメージは早々回復できるものではありません。奴が回復し切る前に、この世界が浸食される前に奴を止めたいんです!)
ティオリアの懇願に、ヒロ男が即座に答える。
「当たり前だ!!! 自分勝手に他人を踏み躙るやつを野放しにできるかよ! 絶対に駆除してやる!」
「おーがじゃないけど、俺もゼノウィータは野放しにはできない。後方支援って形で俺も協力する」
コーセーもヒロ男に続く。そして…。
「私も協力する。世界があんなニョロ助だらけになるなんて嫌。皆で協力して親ニョロを駆除しよう」
琴乃も参戦を表明。琴乃は真剣な表情で手をぎゅ…と握りしめていた。
それを見て、ヒロ男が琴乃に声を掛ける。
「意外だな、お前こういうことには首を突っ込まないタイプだと思ってた。椎名、怖いなら無理に参加しなくても良いんだぞ?」
それを聞き、琴乃はじと…とした目でヒロ男を睨む。
「今の流れで『私は協力しません、さようなら』は違うでしょ。それにヒロ男くんは私を勘違いしてる。私は友達から"スリーピング・レオ"って呼ばれてるんだよ?」
「スリーピング・レオ…、"眠れる獅子"か。はは、椎名さんらしいや」
重くなった空気を少しでも和らげるため、コーセーは無理のない範囲で笑顔を見せる。
それを見て、ヒロ男も少し表情を和らげる。
「ふ、眠れる獅子って…、それ女子の呼び名じゃねぇだろ」
「だまれ」
べし
「痛くねぇし」
揶揄うヒロ男に琴乃が回し蹴りを放ち、ヒロ男の筋肉がそれを弾き返す。
三人の顔に柔らかさが戻ってきた。
(皆さん…、ありがとうございます! 協力してがんばりましょう!)
嬉しそうな声色のティオリアの言葉に、三人は頷き合った。




