ep.20 椎名琴乃
二人に見つかった琴乃はてててーと近くにやってきた。
そして二人にペコっとお辞儀をした。
「二人とも、今日は助けてくれてありがとう。私気絶しててお礼言えなかったかったから、さっきやっ君の家に行ってきたの。でも誰も居なくて…。帰ろうとしたら歩ている二人を見つけてね、尾行しちゃった」
「尾行って…」
さらっと怖いことを言う琴乃。ちなみに『やっ君』というのはコーセーの学校での愛称である。
(変です。歩いてた時おーがさんは変身してません。この子おーがさんのことわかってるんじゃ…)
(いや、誰かから俺が変身できるって聞いてたんだろ。普通のやつはそんな話信じないけど、椎名は昔からぽやぽやしてるからな)
(いえ…、もっと根本的な違和感と言いますか…)
琴乃の言葉に何か引っ掛かりを覚えたティオリア。ヒロ男と脳内会議をしてみる。
しかしヒロ男の反応は楽観的だ。椎名琴乃は小学校からの付き合いなのだ。彼女の独特な性格はヒロ男もよく知っている。
なのでヒロ男は『魔法少女ティア』として対応する。
「貴方も無事で良かったです。捕まった時はどうなることかと思いました」
「……ヒロ男くん何その話し方…、きしょいよ…?」
「はい!????」
ドストレートにきしょいと言われショックを受けるヒロ男。
(あの…、やっぱり気付かれてますよね…?)
(いやいやいやいや! 何でわかるんだよ! 見た目完全に女子だぞ!? 身長まで変わってるんだぞ!?)
「な、何を言ってるんですか…? 私はティアという者で――」
「やっ君がさっき貴方の事『おーが』って呼んでた。それに話し方もやっ君が女の子にする話し方じゃなかった。やっ君があの話し方をするのはヒロ男くんだけ」
「……っっっ!!!」
驚愕の表情を浮かべるヒロ男。ちらっとコーセーを見ると、コーセーは両手を合わせ「すまん!」と頭を下げていた。
ヒロ男は土下座した。
「後生だ椎名! 俺がこの姿になってることは誰にも言わないでくれ!」
「え…? でも教室で変身したって聞いたよ?」
("設定"があるんです。おーがさんの心を守るための大切な設定が)
ティオリアが堪らず助け船を出す。突然頭に響いた声に琴乃は目を丸くする。
「おー…!、これが噂のテレパシー…! 貴方が本物のティアさん?」
(初めまして椎名さん、私はティオリアと言います。ティアという名はおーがさんが変身したこの姿の通称みたいなものです)
「初めましてティオリアさん。へー、ティアって名前も"設定"の一部って訳だね。その設定の中身とか、ヒロ男くんがこんなことになってる理由とか、もろもろ聞いても大丈夫?」
(えぇ、今回は不可抗力でバレてしまったのでお話しますね。でもくれぐれも他言無用でお願いします)
「わかった。口は堅い方だから安心して」
そしてティオリアの話が始まろうという時に、ヒロ男がぼそっと零す。
「(口は堅いのかも知れねぇけど、いざ開いたらナイフじゃねぇか…)」
「何か言った?」
「いえ何も」
ヒロ男は大人しく正座し、ティオリアが琴乃にこれまでのことを説明するのを聞くのだった。
「なるほど、化け物が出て、ヒロ男くんが死に掛けてティオリアさんがフュージョンして大勝利。でもその時に撮られた動画が拡散したことでデジタルタトゥーを警戒。魔法少女ティアという偶像を生み出し、ティオリアさんの教室での演説で"設定"を強固なものにした、と」
(えーと…、たぶんそれで合ってます)
「言い回しが独特だが概ね合ってるぞ」
「うむ…」と頷く琴乃。そしてヒロ男に哀れみの視線を向けてくる。
「ヒロ男くん…、貴方はもうちょっと命の恩人に対して敬意を払った方が良いと思う…。ティオリアさんの身体で触手に絡まれに行ったりスカートでラ〇ダーキックしたり…、私はティオリアさんの心の方が心配…」
(椎名さん…、優しい…)
「ティオリアさん、私の事は『琴乃』でいいよ。何かあったらすぐ私に言って。このろくでなしにデコピンくらいお見舞いしてやるから」
(わかりました! ありがとうございます! 琴乃さん!)
「ろくでなし…」
琴乃の辛辣な言葉に渋い表情のヒロ男。しかし変身状態のヒロ男はそんな表情ですら可愛らしく見えてしまう。琴乃はそこに喝を入れる。
「ヒロ男くん、貴方が『魔法少女ティア』として戦うなら"見せ方"をちゃんと考えて。女の子はただがんばれば良いって訳じゃないの。貴方の見せ方一つでティアちゃんの価値がプラスにもマイナスにもなるの。触手に絡まれるなんて論外。……まさかとは思うけど、おっぱい触ったりしてないよね…?」
「ぶっ!」
琴乃の鋭い言葉にヒロ男が噴き出す。それを見て琴乃が目を見開く。
「触ったの!? サイテー! この人でなし!」
「ぐぐ…、触ったこと自体は事実だから言い訳できん…」
(琴乃さん! そのことについてはもう話はついてますので! 大丈夫ですので!)
「椎名さん落ち着いて!」
ヒロ男に掴み掛かりそうな勢いの琴乃を何とか宥めるティオリアとコーセー。
しかしその時、ティオリアが遠くで嫌な気配を感知した。
(おーがさん! ラベスです! しかも二体!)
「何!? どこだ!?」
(この方角は…街中ですね…! 急ぎましょう!)
それを聞き、すぐに正座からパッと立ち上がるヒロ男。
「悪いコーセー! あと椎名も! 文句は後でゆっくり聞くから!」
「あ! おーが! 無理するなよ!?」
「わかってるよ!」
「スカートは死守!」
「わ、わかってるよ!」
各々から言葉を貰い、ヒロ男は街中を目指し大きく跳躍していった。
「……行っちゃった」
ヒロ男が跳んで行った方角を見つめ呟く琴乃。
「ヒロ男くんも、ティオリアさんも、怖くないのかな」
「…怖いと思うよ。でも、ヒロ男は自分が死ぬとしても、人助けを止めないと思う。ティオリアさんもね。あの二人似てるとこあるんだよ」
「そう…なんだね…」
琴乃は今日の事件のことを思い出す。
巨大なカラスが目の前に現れて、それから伸びるニョロ助に捕まって。
コーセーが助けに来てくれたけど一緒に捕まって、食べられそうになって…。
終始錯乱して叫んでばかりだった自分が恥ずかしくもあるが、では錯乱していなかったらあの恐怖に耐えられたか、と聞かれればそれはNOだ。あの恐怖はそう簡単に耐えられるものではない。
それがわかっているから、その化け物と戦いに行った二人はすごいと思うし、戦う力が無いくせに自分を助けようとしてくれたコーセーがすごく格好良く見えた。
お礼を言うためにわざわざコーセーの家に出向いたのはコーセーの顔を見たかったからであって、自分はこんなに単純なやつだったんだなぁと、心の中では自分に呆れている。
とりあえず今はティオリアのことが心配だ。
あんなに可愛くて良い子をあのろくでなしに任せっぱなしというのは女子として看過できない。
ろくでなしを監視し、ティオリアのケアをするには、ろくでなしの近くに居なくてはならない。それは自動的にコーセーの近くに居れるということだ。
しかしただ"居るだけ"ではどうも居心地が悪い気がする。
だから、コーセーにこの言葉を言った。
「ねぇやっ君、私に魔法教えて」




