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ルミナ☆オーバードライブ  作者: コルミ
第3話 英雄の矜持(ルミナ☆ナイフ)
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ep.12 私はティアです!!!

 窓際の席でぽけーっと窓の外を眺めるヒロ男。教壇では国語教師が催眠の呪言を唱え、それに飲まれた数名の哀れな生徒たちが机に沈む。

 現在三限目。今日の授業は五限までなので、昼休みを含めればやっと折り返しといったところだ。


(外では一組の連中が体育か…。コーセーは…、…いた。相変わらず足はえーなあいつ)


 ヒロ男の視線の先には50m走の練習をするコーセーの姿があった。数人のグループに分かれて練習しているようで、コーセーはそのグループ内で頭二つ分くらい跳び抜けて足が速い。


(へー、コーセーさん運動神経良いんですね)

(あいつ昔から足の速さだけは俺とタメ張ってたからな。俺より小さいくせに)


 様々なスポーツで全国区レベルのスペックを誇るヒロ男。もちろん短距離走も全国区だ。コーセーはそんなヒロ男に足の速さだけは引けを取らなかった。

 当然陸上部からコーセーにラブコールが行っていたのだが、コーセーは「俺は勉強の方が性に合ってるから」と断り、小学生から今までずっと帰宅部をやっている。


(俺が言うのも変な話だけど、あいつも部活入ったら絶対すげえ活躍してたと思うよ)

(そうなんですねぇ。……凰我さんも部活というのに入らずフラフラしてるんですか?)


 ティオリアが素朴な質問をしてくる。それを聞き、そう言えば学校での話はほとんど話していないことに気が付く。

 呪言を聞くよりティオリアと話していた方が有意義だと感じ、簡単に説明することにした。


(俺はガキの頃からヒーローに憧れててさ。幼心に「ヒーロー=強靭な肉体」って思ってたのよ。で、いろんなスポーツを齧って自主トレなんかもやってたら、いつの間にか全スポーツで全国大会行けるレベルになってた)

(ふむふむ、…ふむ? それがどうフラフラに繋がるんです?)


 それなら部活とやらに入ればいいではないかと疑問に思うティオリア。


(俺がなりたいのはスポーツマンじゃなくてヒーローだ。だから特定の部に入らない代わりに流れの練習相手ってことで全部活動に貢献することにした。もちろん中には嫌な顔する先輩や先生もいたけどさ、全部実力で黙らせてきた。コーセーみたいに頭良ければもっと穏便にできたんだろうけど、俺にはあれが限界だった。だから部活動の助っ人は絶対に手を抜かない。俺の存在でその部活に喝が入って強くなってくれれば、俺のフラフラの意味もできるだろ?)

(なるほど……)


 ヒロ男の自分語りを静かに聞いていたティオリアは、一言だけ返すと黙ってしまった。

 ちょっと話過ぎたか?とヒロ男が心配に思っていると、ティオリアが話し出す。


(凰我さん、昨日の最初の戦闘の時に私が言った『ちっぽけなプライド』という言葉の謝罪をさせてください。昨日から今まで貴方の為人《ひととなり》を見てきましたが、理想のヒーローらしくあろうという貴方の志はとても尊いものです。他人の私があんな言葉で貶していいほど軽いものでは無かった。本当にすみませんでした)

(ティオリア…、おまえ…)


 突然の謝罪に少し困惑するヒロ男。ヒロ男自身あの時の自分には「何もたもたしてやがる!」と罵声を浴びせたい気持ちなのだ。しかしティオリアはそのもたつきの原因を"尊いもの"という言葉で救い上げてくれたのだ。

 何か、返事をしなければ。そう思い、適切な言葉を一生懸命脳内検索する。

 その時。


(!!! 凰我さん! ラベスです! こっちに接近中!)

(なんだと!?)


 突然ティオリアが慌て出し、ラベスが近づいていると報告してくる。


ぶわぁぁぁぁぁぁ………


(く…! この嫌な感じは…!)

(ラベスの魔力です! あ…! 凰我さん上を見て! ラベスを視認しました!)


 言われた通り窓から上を見ると、巨大なカラスが校庭へ降下していく姿が目に飛び込んで来る。


「きゃあああああ!」「なんだあれ!!!」「逃げろおおおお!!!」


 校庭から生徒たちの悲鳴が響く。


「いやあああああああああ!!!!!」


 ひと際大きな悲鳴が上がる。巨大ガラスの腹からわらわらと伸びた触手に女子生徒が捕らえられてしまったのだ。


「放せええええ!!!」


 コーセーが巨大ガラスに接近し、女子生徒の救出を試みる。


「ばか! コーセー!」

(いけない!!!)


 巨大ガラスはあろうことかコーセーまで触手で捕まえ、大きな翼を羽ばたかせ高度を上げていく。


(ティオリア! 行くぞ! 変身だ!)

(え!? でもここで変身したら…!)


 ティオリアは一瞬躊躇した。

 ヒロ男はずっとティオリアの写身《うつしみ》への変身がバレるのを嫌がっていた。それはただ嫌なわけではない。ヒロ男のヒーロー像は彼の生き方そのものにかなり深く根ざしている。女の子に変身するということは、そのヒーロー像にひびを入れてしまう行為なのだ。

 ティオリアはさっきそれを理解した。もし、クラスメイトたちが集まるこの教室で変身したら、彼の心に消えない傷をつけてしまうかもしれない。

 しかしヒロ男が一喝する。


(んなこと気にしてる場合か!!! ヒーローは自分の都合で人を見捨てることはしない! ティオリア! "おまえが教えてくれた"ことだ!!!)

(!!!!!)


 ヒロ男の叫びがティオリアの心を強く揺さぶった。同時に、不思議な安心感が広がる。魂をお邪魔させてもらっている相手がこの人で良かったと、心の底から思った。


(わかりました…! いくわよおーが!!!)

(おう!!!)


 その瞬間ヒロ男は眩い光に包まれる。


「なんだ!?」「ヒロ男が光り輝いているだと!?」

「これって動画の…!」「え!? ヒロ男くんマジなの!?」


 教室中から騒めきの声が上がる。そしてヒロ男を包んだ光が消えると、そこにはふわっとした衣装に身を包むとんでもない美少女が立っていた。


「ティアちゃんきたあああああ!!!」

「でもヒロ男だぞ!?」

「え!? 依り代なんじゃないの!?」

「『#魔法少女ヒロ男』は本当だったんだ!!!」

「『#魔法少女ティア』だろうがよおおお!?」


 教室は大混乱である。

 ヒロ男は混乱するクラスメイトたちを無視し、窓を開け、今まさに目の前を通過しようという巨大ガラスに跳び移るため、足に力を込める。

 と、その前に、クラスメイトたちに言っておかなければならないことがある。

 ヒロ男はクルっとクラスメイトたちに向き直り、叫んだ。


「私はティアです!!! 凰我は依り代!!! 以上!!!」


 それだけ言い残し、『魔法少女ティア』となったヒロ男は窓枠を蹴り、巨大ガラスへ大跳躍していった。

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