86/91
094⚫️ファウストの語り
彼は、理想を求めた。
それは、剣によってではなく、言葉によって築かれる世界。
ボレリアへの侵攻も、世界線をこえて戻るや否や、彼は剣を収めた。
血を流すことを戒め、条約の紙に言葉を刻んだ。
彼の変化に国内外が驚きの声をあげた。
民の声に耳を傾け、心を開き、争いを遠ざけた。
思いやりを持ち、語り合うことを喜びとした。
彼の理想は、もはや孤高の塔ではなく、広場に咲く花となった。
だが、理想は重い。
彼はその重さを仲間と共に背負った。
民政に打ち込み、夜を惜しんで働き続け、
自らの命を長年に渡り削りながら、民の未来を育てた。
わたしを海中から拾い上げたように
彼は民の心を拾い上げた。
わたしたちに語りかけたように
彼は民に語りかけた。
帝王は、まどろみの中で微かに眉を動かした。
ファウストの語りは、誰にも聞こえない。
だが、帝王の心にだけは、確かに届いていた。
石は再び沈黙する。
次に語るのは、いつなのだろうか。




