087⚫️道しるべ
火の揺らぎが、帝王の顔を照らしていた。
ソレイユはその向かいに静かに座る。
ふたりの間には、言葉よりも長い沈黙が流れていた。
「・・・そなたは、なぜ来たのだ?」
帝王がようやく口を開く。声が震えていた。
「呼ばれた気がしたから。あなたの心が、誰かを求めていた。」
「余は・・・誰かを求めていたのか・・・。いや、違う。余は命令したのだ。命令で、誰かを呼び寄せようとしたのだ。」
「でも、今は違うでしょう?あなたは’頼む’と言ったもの。」
帝王は火を見つめる。
炎の中に、かつての王宮の光景が揺れていた。
「・・・帝王である余が、頼むなど・・・。それは、弱さではないのか?」
ソレイユは首を横に振る。
「それは、強さです。誰かに頼ることができる人は、ひとりで立っている人より、もっと、ずっと強い。」
帝王は目を伏せる。
火の音が、静かに木を裂いていた。
「そなたは、余を憐れんでいるのか?」
「いいえ。あなたを、見ているだけ。憐れみではなく、理解したいと思っているの。」
「理解・・・余を、理解する・・・。誰も、余を理解しようとはしなかった。皆、命令に従うだけだった。」
「それは、あなたが命令しか与えなかったからではないの?」
帝王は言葉を失う。
火が、少しだけ強く燃え上がった。
「ソレイユ・・・そなたは、余に何を望む?」
「何も望まないわ。ただ、あなたが誰かと’共にいる大切さ’を心に留めていればいい、と思うけれどね。」
帝王は、そっとソレイユを見る。
胸の中に穏やかな温かさがしっとりと広がる。
「・・・そなたは、余の臣下ではないのだな。」
「そう。わたしは、あなたの道しるべ。どこへ行くのかは、あなたが決めるの。」
帝王の目に、再び涙が浮かぶ。
だが、それは悲しみではなかった。
「そうか。余が決めるのか。命令によってではなく、誰かが共にいる、その大切さを知るのか・・・。」
ソレイユは微笑む。
「火が消えるまで、ここにいます。」
帝王は頷いた。
火はまだ、静かに燃えていた。




