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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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27.一日の終わりに

仕掛けをした場所に向けて、俺とレイラは走って逃げていた。

「追ってきた?」

俺を後ろの方に向けて、俺に後方の確認をさせる。

「みたいだな」

俺の視界には走って追ってくる逃がし屋の姿があった。

流石に走って逃げる相手に向かってあの大魔術を放つつもりは無いらしい。


「そろそろ息を止めたほうが良いかしら」

仕掛けをしたときに目印にしていた岩が見えた。

このまま呼吸をしていたら、こちらもあの仕掛けの効果を受けてしまう事になる。

「そうだな。息を止めて目印で立ち止まった方が良い」

そして、呼吸をする必要のない俺には関係の無い事だ。

レイラが走る速度を緩め、後ろを振りながら後ずさりする。


「何、鬼ごっこはおしまい?」

息を切らしながら、逃がし屋もまた足を緩める。

「それ以上近づかない方がいいぞ」

息を止めているレイラの代わりに俺が声をだす。


「落とし穴でも掘ったっていうの? それは無理があるわね」

「何故そう思う?」

「あなた達も通ったでしょ」

その通り俺たちが仕掛けをしたのは地面ではない。

「でもその岩が目印なんだ」


「お仲間でもいるっていうの? まとめて相手してあげるわよ」

先ほど同様、再度逃がし屋が魔法で海水から水球を生成させる。

「警告はしたからな」

「何を訳の分からない…」

急に逃がし屋の体がフラつく。

「効いたみたいだな」


「まさか、毒…?」

そう言いながら逃がし屋は不思議そうにこちらを見ている。

レイラが平然と立っているのだから当然だろう。

「あいにくと違うぞ」

「な、何を…」

そして、逃がし屋は、その場に崩れ落ちた。

それを見たレイラが無言で杖をかざすと辺りに風が起きる。

「もういいぞ」


「うまくいったみたいね」

先ほどから呼吸を止めていたレイラがようやくと言った感じで一息ついた。

「体に異変は無いか?」

念のためレイラの調子を確認する。ここでレイラまで気絶されては困る。


「ええ、平気みたい」

意識はしっかりしているようだし、あの風で空気の入れ替えはできていたようだ。

「ならいいが」

「本当に効果あるのね」

「ああ、言っただろう」


「これが酸欠って奴?」

「ああそうだ」

仕掛けをした際に、土で壁を作り、その中で火を灯して酸素を使い切るまで燃焼させ、サ酸素がないエリアを作り出した。自然界でも稀に火山などでも酸素が無いガス溜まり発生し、踏み込んだ人間が意識を失うという事故が発生するが、それを魔法で疑似的に再現したのだ。


「死んでないわよね」

「気を失っているだけだ。すぐに目を覚ます」

こういう場合、すぐに新鮮な空気を吸わせれば死にはしないはずだ。


「近づいて大丈夫よね?」

「風で空気を入れ替えたんだから大丈夫だ」

先ほどレイラが風で空気を入れ替えた。

今はレイラも普通に会話してるし、近づいたところでレイラまでも気を失う事は無いだろう。


「そう言われても、少し怖いわね」

逃がし屋が倒れるところを見たばかりだ。

理屈では大丈夫と説明されても、近づくのには心理的に抵抗があるのだろう。

「そんなに心配なら火が付くかためしてみるといい」

やはり心配だったのか、俺の提案通りにレイラが魔法で火を灯すが、火が消える事は無かった。


「大丈夫みたいね」

「ちゃんと空気は入れ替わったみたいだな」

「じゃあ、回収しましょうか」

このまま逃がし屋を放置するわけにもいかない。

レイラは逃がし屋へとゆっくり近づいていった。


 ●


人間は酸素が無ければ呼吸ができない。

そして意図的に酸素の無い空間を構築し、そこに引き込めば気絶させることができる。

一酸化炭素中毒と言えば分かりやすいかもしれない。

開けた空間でこのような事はまず起きないが、レイラは魔法が使える。

つまり、空気の流れを魔法で固定し、そこで酸素が無くなるまで炎の魔術を使えば、酸素のない空間を作り出す事が出来る。


つまり事前み風の魔法と火の魔法を使って二酸化炭素を充満させた空間を作っておいたのだ。

こんな夜の時間にわざわざこんな場所に来る奴はいない。誰かを巻き込むという心配はしなくてもいい。

終わった後は風の魔法でその空気を拡散させて入れ替えればよい。

酸素の無かった空気は拡散し、証拠隠滅完了だ。


「こいつ、どうしましょうか」

レイラは俺で逃がし屋をつつくが、反応がない。完全に気絶していえるようだ。

「聞きたいことがあるんだろ?」


「まあね」

「だったら連れて帰るしかないな」

今ここで起こしても面倒になるだけだ。このまま連れて帰った方が良い。


「いきなり起きたりしないわよね?」

「水をかけたりしない限りは起きないだろう」

あくまで気絶しているだけだ。強い刺激を与えたら、起きてしまうかもしれない。


「なら今の内に杖を取り上げておきましょう」

レイラが逃がし屋が持っていた杖を回収する。

「それだけでいいのか?」

この逃がし屋が普通の魔女の弟子であれば、杖を没収してしまえば、魔法は使えない。それだけでだいぶ危険度は下がる。

とはいえ手足を自由にいていれば暴れる事は十分可能だ。


「あまり厳重に拘束したら、あたしが帝国の手先みたいじゃない」

だがレイラは杖を取り上げる以上の事をするつもりはないようだ。

そう言いながら、レイラは気を失っている逃がし屋を背負う。

そうして、俺たちは帰路についた。


レイラの母親はレイラが人を連れて帰って来たのを見て驚いていたが、事情を話すと家に居れる事を拒否しなかった。

もう夜遅かった事もあり、俺たちはそのまま寝る事にした。

逃がし屋は杖を取り上げて鍵のかかる部屋で寝かせた。

杖さえなければ部屋を壊してまで逃げたりはしないだろうというレイラの予想だった。

色々あったが、俺たちはようやく寝る事になった。


それにしても、随分と長い一日だった。

この体になっても睡眠は必要なようだ。

おれは眠りに落ち、再びあの声を聴くことになった。


―聞こえますか?

これは夢の中なのだろうか。

何もない真っ暗な空間で声が聞こえた。

「ああ」

聞き覚えのある声に、俺は何となく返事をする。


―どうやら、初日は無事に終わったようですね

「あんたは誰なんだ? まさか帝国の手先とは言わないよな」

これはテレパシーの一種なのだろうか。

だとしたら魔法を使っているという事になる。

であれば帝国の手先である可能性は低い。だが西の魔女が帝国に裏切っている以上、魔法が使える者が帝国に寝返っているという事も十分にあり得る。


―だとしたらどうします?

「あんたと戦う事になるな」

―あなたは帝国と戦うつもりなのですか?

「今の状況では、そうなるだろうな」

―何故ですか?

「あいつらは俺を殺そうとしているだろう」


西の魔女は俺を破壊すると言っていた。

そして西の魔女は帝国と手を結んでいる。ならば帝国もまた俺を破壊しようとするだろう。

それにここに来るまでに帝国兵と何度か交戦した。

いまさら帝国側に立ってこの島の魔女達と戦う事などできないし、やろうとも思わない。


―島の外から来たあなたが、この島を守るのですか?

「そのつもりだ」

帝国と戦う事が島を守る事に繋がるのだろうが、それは俺からすれば大した問題ではない。相手が襲ってくるなら撃退する。それだけだ。


―あなたは帝国に勝てると思いますか?

「一応は勝つつもりだ。それよりあんたに聞きたい事がある。

やるからには負けるつもりは無い。それよりもせっかくまた接触で気なのであれば有益な情報を引き出しておきたい。


―答えられる範囲でなら答えましょう。

まあ、姿を見せない以上、どこまで信用できるかは怪しいがとりあえず聞けるうちに聞いておこう。

「あんたは北の魔女の居場所を知っているのか?」


―答えられません。

知っていて答えないのか、単純に知らないのかは、その言葉からは判断できない。

何にせよ答えるつもりはないという事だ

「だったらなぜ俺に接触した?」


―あなたを見定めるためです

「俺の何を?」

―この島の味方かどうかです

「俺が島の敵なら殺すつもりか?」


―それをするのは私ではありません

「あんたには手下がいるとでもいうのか?」

まるで自分が手を下さなくても、自分の意を汲んだ誰かが俺を始末するとでも言っているようだ。


―それは、答えられません。

重要な事は答えてくれないらしい。

一体何をしに来たのか。俺が生きていることを確認しに来ただけとでも言うのか。

「まさかあんた、北の魔女か?」

だったら話が早いのだが。


―それは、答えられません。

「あんたが北の魔女なら、まだ生きてるって事だろう。必ず見つけ出すからな」

相手が本物かどうか分からないが、一応宣言はしておく。

北の魔女ではなかったとしても、魔法を使って話しかけてくるという事はそれなりの魔法の腕前があるはずだ。

帝国と戦う味方になってくれればいい戦力になるだろう。


―そろそろ時間ですね。また会いましょう

謎の声は一方的に会話を打ち切ろうとする。

「おい待て」

俺はそれを呼び止めようとするが、相手の姿は最初から見えていない。そんな相手の姿を掴もうと手を伸ばそうとしてふと視界が切り替わる。


「起きた?」

目の前にレイラがいた。やはりさっきのは夢だったのか。

「ああ」

「杖の姿になっても寝るのね」

「みたいだな」

この杖の体になってから初めての夜だ。寝るかどうかは分からなかったが、この姿でも睡眠は必要になるようだ。


「逃がし屋の様子を見に行くわよ」

そう言って、レイラは俺を手に持って、逃がし屋のいる部屋へと向かった。


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