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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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26.交渉の行方

「おい、帝国兵が来たらどうする。いくら備えをしたからと言って、使わないほうがいいだろう」

二人がすっかり戦う気になっているようだが、今戦うのは得策ではない。

一応備えはしておいたが、それはこの逃がし屋一人用だ。

いま下手に戦闘になって、帝国兵が寄ってくるのは困る。


「備え? 何か企んでるの?」

俺の言葉に逃がし屋が反応する。

「使う前に教える訳ないでしょ」

「そう、やっぱりあなた達帝国と繋がってるのね」

逃がし屋は、俺達が何か企んでいるという事は、俺たちが帝国の手先だからだと解釈したようだ。

「何でそうなるのよ」

もちろんその予想は外れているのだが、頭に血の上った相手は聞く耳を持つとは思えない。


「備えって事はそういう事でしょ。私が魔女の弟子だと分かったら捕まえようとしたって事でしょう」

「本当に疑り深いわね」

「なら何の備えよ?」

「それはあんたが帝国の手先だった時の備えよ」


「だったらどうする気? 私を捕まえるとでも?」

「ま、そんなところかしら」

「ならやってみなさいよ」

「そんな都合よく使える策じゃないのよ」

あの場所に誘導する必要があるが、それを教えてしまったら、あの策はもう使えなくなる。


「何よ、ハッタリ?」

いっそ騒ぎを起こして帝国兵を呼びよせて、逃がし屋が帝国兵にどう対処するか様子を見て、逃がし屋の真贋を確かめるという手もある。

とはいえどらぐらいの帝国兵が来るのか分からない今、それをやるのは危険すぎる。この町にどれぐらい滞在するか分からない今、帝国兵に目を付けられたくない。

「おい、お前、俺たちが帝国兵と仲間じゃないと分かったら、北の魔女の元に案内してくれるのか?」

とりあえず、まだ戦闘にはなっていない。俺は何とか穏便に済ませられないかと案を模索する。

「それは無理ね」


「何故だ?」

「師匠がそんな奴に一々構う訳ないでしょ」

北の魔女は弟子以外と会うつもりは無いのか。魔女がどれだけ忙しいのか今の俺には分からないが、それなら俺達の持っている情報を使うしかない。


「俺たちが霧の情報を持っていたとしてもか?」

「霧? それはあの帝国兵が使ったっていう魔封じの霧の事?」

「ああ」

「あれの何を知っているのよ」

「俺たちは一度霧を使う帝国兵に勝っている」

これは紛れもない事実だ。


「どうやって?」

やはり、この逃がし屋にとっても、あの霧を破る方法というのは気になるようだ。

「それは今教えたら取引にならないだろう」

「霧を破れるなら、西の魔女も一人で倒したらいいじゃない」

「それはさすがに無理だ。だが帝国兵が相手なら霧を使われても勝てる」


「それはあなた達以外でも同じ手を使えば勝てるって事?」

「ああ。帝国兵と戦うなら有益な情報だと思うぞ」

土の魔法が使える前提ではあるが、あまり細かいことを今言う事はできない。


「信じられないわね」

「いいのか、せっかくの情報を逃して」

「そもそも本当かどうかも分からないのに、そんな話に乗る訳ないでしょ」

「どうすれば信じる?」

「だったらあなたのその霧を破る方法を聞かせなさい。そうすれば考えるわ」

今の状況であの話をしても信じるとは思えない。


「面倒ね。もう戦って無理やり吐かせた方がいいんじゃない?」

進展の無い押し問答に、レイラがしびれを切らしてきた。

「あらやる気?」

どうやらこの逃がし屋もやる気なようだ。


「そんな事を言って本当は帝国兵を呼ぶ気なんでしょ」

そうしてくれれば、逃がし屋が帝国と繋がっている事が確定するためある意味助かるのだが。

「ああ、はいはい、そんな事はしないわよ」

逃がし屋が海に向かって手をかざすと、海水からまるで一本の糸が伸びるかのように、海水の一部が逃がし屋の掌に伸び、そしてその掌の上で球体状になった。


「何よそれ」

「火の魔法を使わなければ、目立たずに戦えるでしょ」

確かに、今この逃がし屋がやったような魔法ならば、音も光も出ない。遠くから見てもここで戦っている事は分からないだろう。


「そう、水魔法が得意って事ね」

レイラも相手の趣旨は理解したようだ。

「あなたはできないの?」

「あいにくできないわね」

俺もレイラが水を操る魔法を使っているのは見たことがない。

確か町に行く前にもそんな話を聞いた気がする。


「まさか火属性だけ? 東の魔女の弟子になったからには、火属性しか使えないなんて事はないわよね。」

「他も使えるわよ」

「だったら見せて頂戴」

俺の知る限り、レイラは土の魔法も使えるがあれは攻撃には向かない。


「仕方ないわね」

「おい、どうする気だ」

「やればいいんでしょ」

土の壁を立てる

「戦うつもりか?」

まさか本当に土の魔術で戦うつもりなのか。俺が知らないだけで土で相手を攻撃する魔法もレイラは使えるのだろうか。

「適当にあの場所に誘導すれば、こっちの勝ちでしょ」

相手に聞こえないよう、レイラは小声で答えた。つまりは、レイラも正面からあの逃がし屋と戦うつもりはないようだ。


「うまくいくか?」

「いきなり逃げたら怪しいでしょ。適当に戦うフリをしながら逃げるわよ」

そんな事を言っている間に、土の壁に穴が開いた。


「え?」

レイラが驚きの声を上げる。わざと壊させたのではないようだ。

「大したことないわね」

壁の向こうから逃がし屋の声が聞こえる。

つまり、今のは逃がし屋の魔法で穴が開いたのか。

一応帝国兵の銃弾は防いでいたはずだが、逃がし屋の攻撃はそれを上回る威力だというのだろうか。


「相性の問題ね」

レイラが苦々しそうに呟く。

「何?」

「この壁は砂浜の砂で作ったから、水で濡れると強度が保てないのよ」

砂浜の砂でできた壁だ。あまり強度は期待できない。

それに今レイラはあの仕掛けを作るために魔法を使っている。

よって大掛かりな魔法は使えない。


「この程度なの?」

壁に穴を開けた逃がし屋がレイラに対して煽るような言葉を浴びせる。

「まだ本気を出した訳じゃないわよ」

レイラからすれば、逃がし屋をあの場所まで誘導する必要がある。一応まだ戦意があるフリをするようだ。


「今謝れば、許してあげてもいいけど」

逃がし屋はもう勝った気でいる様だ。

「あいにく、私には当たってないわよ」

レイラは壁越しに答える。


「当ててもいいの? 一応あなたも魔女の弟子だし、命を取るつもりは無いんだけど」

「当たったら死ぬとでも言うつもり?」

「命の保証はできないわよ」

あの壁に穴を開けるぐらいだ。死んでもおかしくは無いだろう。


「やってみなさい」

「そっちから攻撃してもいいのよ?」

「あら、火の魔法を使ってもいいのかしら?」

「それが帝国兵を呼ぶ行為だと分かった上でやるなら、好きにしなさい」

「そんなに帝国兵を呼んで欲しいのかしら」

こちらにとっても、逃がし屋が本当に魔女の弟子かどうかの確証は取れていない。


「あんたが本当に東の魔女の弟子だっていうなら、東の魔女も大したことなかったんじゃない?」

相手の素性を疑っているのはお互い様か。

「あんた、本気で言ってるの?」

レイラの声が一段と下がる。


「東の魔女の弟子だというなら、それに恥じない魔法を見せてもらいたいわね」

「いいわ、見せてあげる」

まさか、火の魔法で攻撃するつもりか。


「おい、火属性の魔法はマズイぞ」

「他ならいいんでしょ」

一応レイラにも考えがあるらしい。


「あら土いじりで私を倒すつもり?」

土の魔法で自分が倒される事はないと、逃がし屋は高をくくっているようだ。

その逃がし屋を囲むように土の壁が立ち上がる。

「これでどうかしら」

そしてレイラはあえて煽るような言葉をかける。


「こんなもの」

立て続けにいくつかの穴が開き、そして一気に一部の壁が崩れ落ちた。

恐らくは内側から水の魔法を使って打ち破ったのだろう。

そしてこちらからは逃がし屋の姿が丸見えており、レイラは逃がし屋が魔法で強引に壁を破ることを予想していた。

「ウインドカッター!」

土の壁が崩れた直後に、視界に入った逃がし屋に向けて風の魔法を放つ。

そういえば、先ほどレイラは空気を操作する魔法を使っていた。

つまりは風系の攻撃魔法も使えるのか。

逃がし屋に対して風の刃が襲い掛かる。


「この」

済んでのとこで逃がし屋は水をぶつけて相殺しようとするが、完全に相殺することは出来なかった。

相殺し損ねた風の刃が逃がし屋の髪の毛を数本切り払う。

「残念ね。風の魔法も使えるのよ」

その結果を見ながら、レイラが得意げに言い放った。


「あんた、よくも…」

こちらが苦し紛れに土の魔法を使ったとみて、火と土以外の魔法は使えないと思っていたのだろう。

掠っただけとはいえ、風の魔法に当たった逃がし屋の表情からは怒りの感情が滲み出ている。

「師匠を侮辱した分はこれで許してあげる」

レイラとしても、自分の師匠を悪く言われた事に少なからず怒りを感じていたようだった。


「おい、やりすぎるな」

俺たちの目的は北の魔女の居場所を聞き出すことであって殺す事ではない。

「分かってるわよ」

「あら、殺さずに生け捕るとでもいうつもり? まるで帝国兵みたいね」

そんな俺たちのやり取りが余計に勘に障ったのか、逃がし屋が声を荒げる。


「あんたには聞きたい事があるからね」

そもそも大人しく話してくれればこんなことはしなくて済むのだが。

「いいわ、少しは本気になってあげる」

手をかざすと再度海から海水が糸のように伸び、それが逃がし屋の掌の前で球体をの形を成している。


「ちょっとあんた、どうする気よ」

「こうするのよ」

危険を察知したのか、レイラは咄嗟に土の壁を展開する。

それを水球が貫通してくる。

幸いにも外れたが、当たったら死んでいたかもしれない。


「あんた、殺す気?」

「悪いわね。私はあんたに聞きたい事はないのよ」

先ほどは殺す気はないと言っていたような気がするが、完全に怒らせてしまったようだ。

攻撃の手を緩めるつもりはないのか、、さらに次なる水球を生成している。


「さっさと逃げるぞ」

これだけ怒らせれば逃げても追ってくるだろう。

「そうね」

そもそも、相手が水の魔法を得意としているなら、わざわざ海で戦う必要はない。

レイラは踵をかえし、予定していた場所に向かって移動する。

「待ちなさい!」

予想通り、逃がし屋は俺たちの後を追って来た。


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