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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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25.疑心暗鬼

空気が張りつめてきたところで、俺は口を開く事にした。

「逃げろ!」

何の前触れも無く、俺は出来る限り大声を出した。

「何? 敵?」

俺が突然大声をだしたところでレイラが驚いたかのように周りをみる。

だがそれと同時に起きた事がある。


「え?」

少女もまた俺の声に反応し、辺りを見回している。

「いや、今のは嘘だ」

その反応が見れただけで十分だった。


「あのね、今大事な話をしてたところよ」

レイラが不機嫌そうな顔をして俺をにらみつける。

「だが分かった事がある」

「何よ」

「あいつも反応しただろう」

目の前にいる逃がし屋にも、俺の声が聞こえていた。


「そういえばそうね」

レイラもそれに気が付き、逃がし屋の方に視線を向ける。

「何よ急に」

一方の逃がし屋は何が起きたのか分からない様だ。

まあ、そもそも俺が喋る事が理解できていないか。

「俺は喋れるんだ。そしてお前は俺の声が聞こえる」


「え、杖から声がしてるの?」

やはり、喋る杖というのは見たことが無いらしい。

「そういう事だ。そして俺の声は魔力のない人物には聞こえない」


「この島の住民なら、魔力があるのは珍しくないわよ」

レイラの母親にも俺の声は聞こえた。その発言は間違いではないだろう。

「だがさっき魔法は使えないと言っていたな」


「それが何?」

「あれは嘘だな」

魔力があるなら魔法が使えるはずだ。

「そうよ。あなた達が信用できなかったから、魔法が使えないふりをしたのよ」

案外あっさりと認めたが重要なのはそこではない。


「つまりお前は魔女の弟子なんだろう?」

「だったらどうするのよ」

「師匠は誰だ?」

「あなたに言う必要ある?」

ここから先は言うつもりは無いのか。


「何故自分の素性を明かそうとしない?」

「あなた達が信用できないからよ」

信用できないというのはお互い様らしい。


「魔法を使ってもか?」

「ええそうよ」

「だったら何故逃がし屋なんかやってるんだ?」

「南の魔女が捕まったでしょ」

「そうらしいな」

南の魔女と直接会ったわけではないが、そういう噂は聞いている。


「だから南の魔女の弟子は帝国から逃げ回ってる」

「そうなのか? 南の魔女を救出しようとは思わないのか?」

目の前で師匠を殺されたレイラは、師匠の仇を討とうとしているというのに、南の魔女の弟子は逃げ回るだけなのか。

「最初は救出を試みたらしいけど、ダメだったみたいよ」


「それって、帝国に魔法が効かなかったのか?」

「らしいわね」

という事は正面から霧に挑んで魔法を無効化されてしまったのだろう。

口ぶりからしてこの逃がし屋も霧についてあまり知らないのだろう。

相手の素性がはっきりしない今の段階では、あまり不用意にこちらの持っている情報を開示しないほうがいいだろう。


「それで南の魔女の弟子は帝国と戦う事を諦めたのか」

「そうよ。だから逃がし屋がいるといえば、そいつらが寄ってくる」

「集めてどうする。本当に逃がしてるのか?」

「そうよ。帝国に捕まるよりはマシでしょ」


「帝国に捕まったらどうなるんだ?」

「知らないわよ。ただ一度捕まって戻って来た奴がいないっていうのは事実よ」

この逃がし屋も帝国に捕まったらどうなるかは知らないか。


「本当に逃がしてるのか?」

「そう言ってるでしょ」

「だが証明する方法が無い」

「あなただって、魔女の弟子だって証明する方法はあるの?」

「魔法を使っただろう」

「それだけで魔女の弟子だっていう証明にはならないでしょ」

確かにレイラの母親は、魔女尾弟子ではないが魔法が使えた。


「ならどうすれば信じる?」

「別に私はもうあなた達を信じる必要なんてないわよ。島の外に出る気が無いっていうなら帰って。邪魔だから」

この逃がし屋からすれば、俺たちが島の外に行く気が無いという事が分かれば、もう関わる必要が無く、俺たちの素性などどうでもいいという事か。


「そういう訳にはいかないのよ」

こちらの目的は北の魔女への手がかりをつかむ事だ。俺達はこのまま帰るという訳にはいかない。

そして、今までの会話で分かった事がある。

「お前、さっきの口ぶりからすれば、南の魔女の弟子じゃないな」

南の魔女関連の話は話で聞いたような口ぶりだった。となると、当事者である南の魔女の弟子という可能性は低い。

西の魔女は弟子を持たず、東の魔女の弟子はレイラ一人だけ


「さあ、どうかしらね」

逃がし屋は認める気はない様だが、俺の中でもう結論は出ている」

「お前、北の魔女の弟子なんだろう?」

「少し喋りすぎたかしら。まあいいわ。それぐらい。それが分かったから何なの?」

「現状で西の魔女に対抗できるのは、北の魔女だけ。だからあたしは北の魔女に会う必要があるの」


「へえ、ところであんた南の魔女の弟子? それにしては南の魔女の弟子の情報に疎かったけど」

「違うわよ」

「なら誰の弟子よ」

「東の魔女よ」


「へえ、あの弟子が一人だけだったっていう?」

「そうよ。今の弟子は私だけよ」

「だったらあんたの師匠に頼んだら?」

そうか、あれは今日の出来事だから、こいつは知らないのか。

「無理よ。死んだわ」


「まさか、西の魔女にやられたの?」

「そうよ。だから私は残された弟子として、仇を討つ必要がある」

「気持ちは分かるけど、いきなり私の師匠に協力を頼むのは無理よ」

「だったら、北の魔女の場所まで案内してもらえるかしら」


「それは無理ね」

そう思ったのだが、会わせる事も難しいらしい。

「どうして?」

まだ俺達を信頼できないとでもいうつもりか。

「あなたが帝国に裏切ってる可能性があるでしょ」

どうやらまだ俺たちの事を疑っているようだ。


「私が東の魔女の弟子だとしても疑うの?」

「それが本当かどうかだって、分からないわよ」

「俺を見ても信じられないのか?」

意志を持った杖というのは東の魔女が作った研究成果だ。それをレイラが持っているのだから信用しても良さそうだが、

「あいにく私は東の魔女と親交があった訳じゃないからね。確かに意志を持つ杖は初めてみるけど、それが東の魔女との縁を証明することにはならないわよ」

帝国の罠を疑うのはお互い様か。


「あたしが北の魔女を襲うとでもいうつもり?」

「あなたが直接でなくとも、帝国に師匠の場所を密告する可能性があるでしょ」

まあ、レイラが帝国と通じているのならばそうなるだろう。


「そんな事しないわよ」

そんな事は無いことは俺が知っているが、それをこの逃がし屋に証明する事は難しい。

「あなたの身元が証明されない限り、師匠と会わせるなんて無理よ」

やはりこの逃がし屋は、北の魔女の居場所を教えるつもりは無いらしい。


「だいたい、魔女の弟子が帝国に協力する理由がどこにあるのよ」

「さあね。魔法に恨みでもあれば、裏切るんじゃないかしら」

「そんなの西の魔女だけでしょ」

噂では西の魔女は魔法に恨みを持っているらしいが、レイラは違う。

「それに私は東の魔女の死体を見た訳じゃない」


「何が言いたいのよ」

「東の魔女が死んだっていうのも本当かどうか怪しいものよ」

確かに逃がし屋の視点では東の魔女が死んだという話しがそもそも本当かどうかは分からない。

「私が嘘を言ってるっていうの?」

「東の魔女を人質に取られてるんじゃないの?」

こいつ目線ではそれはあり得るのか。


「それを言うなら、あなただって北の魔女を人質に取られて脅されてる可能性があるわね。私も北の魔女が無事なところを見ていないし」

俺たちも、この逃がし屋が本当に北の魔女の弟子なのかという事や、帝国の手先かどうかについては確証が持てない。

「師匠はそんなに弱くないわよ」

自分の師匠を悪く言われた事が勘に障ったのか、逃がし屋の声のトーンが下がる。


「だったら会わせてくれてもいいんじゃない?」

「無理よ」

「もしかして、北の魔女の居場所を知らないの?」

「知ってるに決まってるでしょ」

どうやらこの逃がし屋は、自分は北の魔女の弟子であり、北の魔女の居場所は知っているが教えないという立ち位置を崩す気は無いらしい。


「本当は破門されてるとか言わないわよね」

レイラがそれを分かってあえて煽ったのか、それとも純粋に疑問に思ったのかは分からないが、かなり不躾な質問をした。

「そんな訳ないでしょ!」

図星だったのか、触れられたくない話題だったのか、逃がし屋が声を荒げた。


「そんなに怒鳴るような事かしら」

「あんた、黙って聞いてればいい気になって」

「あら、怒ったの?」

「こっちもあなたを逃がす義理はないのよ」

逃がし屋が杖を構える。これは戦闘態勢に入ったという事だろうか。


「ならなんで逃がし屋なんてやってるのよ」

「少し痛い目を見ないと分からないみたいね」

「それがあなたの本性?」

「あんたがしつこいからでしょ」

「逃がし屋っていうのは嘘なのね」

「別にあなたに信じてもらおうとは思わないわ」


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