24.逃がし屋
俺とレイラは一度逃がし屋がいる場所から離れて準備を済ませた。
流石に近くでやるとこちらの思惑が気が付かれる危険性があったからだ。
準備を済ませ、改めて再度逃がし屋らしき人物がいる方向に向かっていた。
「あんな事やる必要あったの?」
レイラは俺の作戦に疑問を持っているらしい。
それは俺の作戦が相手に見破られるというよりも、そもそもあの逃がし屋が帝国の手の者である可能性が低いと思っているからだろう。
「用心のためだ」
だが俺は相手が友好的な人物かどうかを疑っている。
「大体空気を固定するのってそこそこ魔力を使うのよ」
「まあ、魔法だからな」
魔法である以上、魔力を使うのは仕方がない。
「本当に効果あるんでしょうね」
レイラは魔力を使った以上、それが無駄になるのは嫌なようだ。
「効果は見えただろう」
一応準備をする過程でレイラにも分かるように見せた。
「でも人間に対して効果があるかは見てないわよ」
「実際に人間を連れてきて試す訳にもいかないだろう」
「そうだけど」
「まあ、相手が友好的で使う機会が無かったというのが一番だが」
俺はあの逃がし屋を疑ってはいるが、本物という可能性もある。
何も起こらなければそれに越したことは無い。
とはいえ準備はできた。後はなるようになるだろう。
「あなたが逃がし屋?」
レイラが声を掛ける。
「ええ、そういうあなたは魔女の弟子かしら」
返事をしたのはレイラと同じくらいの年の少女であり、杖を持っていた。
この島で魔法が使えるのは女だけ。つまりは、この逃がし屋は魔女の関係者である可能性がある。
今のレイラは三角帽子を被っているし、俺という杖も持っている。レイラが魔女である事は一目瞭然だろう。
「見て分からない?」
レイラが俺を見せびらかすかのように相手に向かって突き出す。
「恰好だけの可能性もあるわ。魔法が使えるところを見せてもらわないと」
魔法を使えるところを見せないと信じないらしい。
「仕方ないわね」
レイラは火を出して見せた。
昨日帝国兵に見つかった反省を生かし、派手な魔法は使わないようだ。
「へえ」
それをみた少女が感心したかのように呟く。
「これでいいかしら」
それを見たレイラが火を消す。
「ここに来る前にその魔法を使った?」
「使ったら何かマズイ事でもあるの?」
「さっき向こうで何か光ってるのが見えたけど」
確かにあの準備のためにレイラは一度魔法を使った。
一応周りに光が漏れないよう、土の壁を使ってはいたが今は夜だ。完全に光が漏れないようにするのは難しい。この距離なら光が見えてしまっても無理は無いだろう。
「明かり代わりに使ったわ。暗かったし」
本当は準備のために使ったのだが、それを言うほどレイラも馬鹿ではない。上手くごまかしてくれた。
「あまりやると帝国兵がやってくる危険性があるから控えて」
この逃がし屋に見えているという事は当然帝国兵も見えているだろう。
夜間に火の魔法を使うのは目立つ。
それは俺も分かっていた。
同時に、もしもこの逃がし屋の周りに帝国兵が隠れているのであれば、俺たちが出した火が何なのか様子を確かめに来るだろうという計算も合った。
その場合はこの逃がし屋は帝国兵と手を組んでいると判断して早急に撤退するつもりであったが、結果的に準備が終わるまで帝国兵が現れる事は無かった。
そして、この逃がし屋は帝国兵に見つかっては困るようだ。
今のところ、この逃がし屋に疑わしい様子は無い。
「分かったわ」
レイラも今の状況ではいきなり逃がし屋と戦うつもりは無いらしい。
「じゃあ早速来て頂戴」
「どこに」
「外に逃げるんでしょう」
逃がし屋は、俺達が噂を聞いて島の外に逃げようとしていると思っているのだろう。
「いいえ」
だがそれは違う。
「だったら何をしに来たの」
逃がし屋が怪訝な顔をする。まあ当然か。
「あなた、魔女を逃がしてるって事は、帝国とは敵対してるんでしょう」
「まあ、そうなるわね」
「帝国と戦う気はある?」
レイラは、自分が東の魔女の弟子であることは伏せて、まずは相手の心情を聞き出そうとする。
「それは無理ね」
最初から協力的な回答を引き出すことは出来なかったが、会話自体を拒否することは無い様だ。
「どうして?」
返事を聞いたレイラが質問を重ねる。
「そんな力はないもの」
「だったら、何故逃がし屋なんてやってるの?」
「捕まってるのを黙って見てられないじゃない」
戦うのは無理だが、黙って帝国に従うつもりは無い。そういうところか。
「それだったら帝国と戦った方がいいと思わないの?」
「そこまではしないわよ」
やはり戦う意思はないらしい。
「でもあなたのやっている事は帝国に敵対する行為よ」
「そうね」
自分のやっている事が帝国に見つかったらマズイ事は理解しているようだ。だからこそこんな夜の時間帯に出没したのだろう。
「帝国が怖くないの?」
「怖いけど放っておけないでしょ」
「魔女に恩があるの?」
「まあ、そんなところね」
そうなると、やはりどこかの魔女の弟子か。
「あなた、誰かの魔女の弟子?」
レイラも同じ可能性を思いついたようだ。
「いいえ、誰の弟子でもないわよ。そもそも私は魔法が使えないものそれは違うわよ」
北の魔女の弟子と言われれば、話が早かったのだが、違うようだ。まだ相手が嘘を付いているという可能性もあるが。
「だったら、その杖は何?」
「これは、依頼者から信用を得るための偽装よ」
杖を持っていれば普通は魔女の弟子だと思うだろう。
魔女の弟子であれば、帝国とは敵対するのが普通だ。確かに帝国から逃げてようとする依頼者であれば、信用を得られるかもしれない。
とはいえ、この逃がし屋が最初から帝国とグルで、帝国に敵対心を持つ者をおびき寄せているという可能性もまだ残っている。
「じゃあ、今まで逃がした魔女の弟子はどうなったの?」
「島の外に逃がしただけよ」
本当に島の外に逃がしたのならばその相手はもうこの島にはいない。だから逃がした相手と直接話を聞くことはできない。
つまりはこの女が本当に逃がし屋であることを証言する人物はいない。
「具体的にはどこ?」
だからこそ、レイラは詳細な情報を聞いてこの女が本物の逃がし屋かどうか確かめようとしている。
「それは、本人が決める事よ」
「例えばどこよ」
「聞いてどうするのよ」
「言えないの?」
レイラが露骨に不信感をあらわにする。
「私を疑うの?」
こちらの態度に敵意を感じ取ったのか、相手の少女も眉を顰める。
「私は魔法が使える事をみせたわ。次はあなたが素性を話す番じゃないの?」
レイラの言っている事も間違いではない。それは俺がレイラの事を知っているからそう聞こえるだけなのだろうか。
「だからあなたを逃がすって言ったじゃない」
「言ってるだけじゃ信用できないわよ」
こちらの疑問は相手が本物の逃がし屋かどうかという事である。とはいえ、今の状況で相手が本物の逃がし屋である事を証明するのは無理だろう。
「面倒ね。あなた、島の外に逃げる気がないの?」
「無いわ」
「なら、何の用?」
「西の魔女の討伐に協力して欲しいのよ」
ついに、レイラはこちらの本題を話した。
「出来ると思っているの?」
「一人では無理でも協力すればできるわよ」
「そんな簡単じゃないわよ」
「あなただって帝国を放っておいたらマズイと思っているんでしょ? だから逃がし屋なんてやってる」
「だからって直接戦うかどうかは別問題よ」
「大体、こんなことしてたら帝国に見つかるのは時間の問題よ」
今は住民が黙ってはいるが、逃げ出した住民の数が多くなれば、いくら住民が黙っていようとも帝国が気が付くだろう。
「かもしれないわね」
「その後どうする気? あなたも島の外に逃げるの?」
「私は逃げるつもりは無いわ」
「それは帝国と戦うって事じゃないの? だったら今手を貸してくれてもいいじゃない」
「それは無理よ」
「どうして?」
議論は平行線だ。
なんとなく噛み合わない会話に、レイラもこの逃がし屋に不信感を持って来たのが俺にも分かる。
そろそろ俺が助けに入るか。




