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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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19/20

19.潜入

日は落ちてすっかり夜になった。

それでも俺たちは港町の近くまでたどり着いていた。

街の入り口近くには松明が灯されていて遠くからでも分かる。

「やっぱり見張りが居るわね」

そして入り口の近くに見張りらしき人物が立っている。

残念ながら見張りの服装は帝国兵と一致する。

「あの町はもう帝国に制圧されているみたいだな」


「予想はしていたけど、そうみたいね」

やはり、正面からは危険だろう。

杖を持った状態で行くのは自分で魔女の関係者だと名乗っているようなものだ。

「なら、予定通り地面を掘っていくしかないか」

ならば帝国兵の目につくのはマズイ。土の魔法を使って地下から港町へ侵入する方が無難だろう。


「そうね」

「ところで町にあの霧は出ていないんだな」

外からみたところ、あの霧は見えなかった。

やつらが魔女を警戒するなら、町を霧で満たした方が安全な気がするが。


「生活に魔法を使う事もあるって言ったでしょ。さすがに住民の反感を買ってでも強硬手段に出るっていうのはしないんじゃない」

なるほど。そういう事情もあるのか。

いや、しかし、町を制圧するような帝国が住民感情など気にするだろうか。何か裏が無ければいいが。

「なら、町の中に入ったら魔法が使えないという事態にもならないか」


「そのはずよ」

「ならさっさと始めるか」

どれぐらい時間がかかるか分からない。下手をすると夜が明けてしまうかもしれない。


「どこから掘ろうかしら」

「出来るだけ人目につかず、ある程度門に近い場所から掘り進めないとな」

そういいながら、俺たちは穴を掘るのに丁度いい場所を探し始めた。

「そうね、掘っているところをほかの者に見つかると面倒だしね」

レイラは入り口の近くの茂みの中に入って行った。


 ●


レイラは茂みの中をある程度進んで辺りを見渡し、誰もいないことを確認する。

「この辺りなら見つかる事はないでしょ」

「そうだな」

遠くに門の入り口に備え付けられている松明の明かりが見える。

今は夜だ。俺たちの近くには、今俺達を照らす灯りは何もない。

向こうから俺達の姿は見えていないだろう。

ついでに姿を隠すのに丁度いい植物も点在している。

人から身を隠すのには都合がいい。


「じゃあ始めるわよ。野宿をする気はないからね」

「どれぐらい時間がかかるんだ?」

「さあね。やった事ないから分からないけど、夜が明ける前には終わらせるつもりよ」

どうやら魔術を使って穴をあけるという事を試したことは無いらしい。

とはいえ先ほどかなりの大きな壁を作っていた。ある程度の量を動かす事は出来るはずだ。

地面に杖を突き立てると。地面に穴が開いた。

「上手いじゃないか」


レイラの魔力が俺にも流れてくるおかげで、レイラが何をやっているのかが何となく分かる。

どうやら地中の土を動かして、空間を作ると同時に、空洞の周りの土は強化して崩れないようにしているようだ。

つまり帝国と戦った時に見せた壁を作る魔法の応用と言ったところだろう。

「まだ全然浅いわよ」

確かに町の中に行くのであればまだまだ距離が必要だ。

「一度にもっと長くはできないのか?」


「あまり下手にやってトンネルが崩れたら私たちが生き埋めになるわ」

途中でトンネルが崩れるというのは帝国兵に見つかるよりも悲惨な事態だ。

「なら一度にできるのはこの程度が限界か」

「慣れればもっと一度に長くできるかもしれないけどね」

「これを何度も繰り返して町まで行くのか」


「そうなるわね」

「明日までにできるか?」

このペースで大丈夫だろうか。

「夜が明けるまでにはできるわよ」

そう言いながら、レイラは魔法を使い続ける。

「まあ、生き埋めになるよりはマシか」

安全第一という事で頑張ってもらうしかない。


「あなたは生き埋めになったらどうなるかは気になるけどね」

「呼吸はしていないから死にはしないと思うが」

実際に生き埋めになった事は無いが、少なくともこの体になって呼吸をしているという感覚は無い。多分生き埋めにされても死ぬことはないだろう。

そもそもこの体はどうなったら死ぬのかもわからない。

かといって万一生き埋めになって、誰かが掘り起こしてくれるまでずっと埋もれたままになるという状況はあまり想像したくない。

そんな事を話しながら、レイラは何度も魔術を使い、少しずつトンネルを掘り進めて行った。


 ●


一度穴を掘り始めれば、後は単純な反復作業。

誰かに見つかったりするようなアクシデントもなく、レイラは黙々と穴を掘り続け、始めてからある程度時間が経った。


「そろそろ地上に上がったほうがいいかしら」

ふとレイラが呟いた。

穴を掘った距離からして、既に外壁は通過している。ならばあとは地上に上がるだけだ。

ただ闇雲に地上に出ればいいわけではない。

「ところで、町の中にいる奴からすれば突然穴が開くわけだな」


「そうね」

そうなると誰かに見られてしまう危険性が出てくる。

「見られたら面倒じゃないか?」

「こんなに夜遅くになれば大丈夫よ」

日が落ちてからだいぶ時間が経っている。おそらく普通の者であれば寝ている時間だろうが、どこに出るか分からない。

「今更だが、地上に上がったら、他人の家の中という可能性もあるんじゃないか?」


いくら寝ていようが、家の中に突然穴が空いたら、物が落ちたりして大きな物音がして住人を起こしてしまうかもしれない。

「その時は元に戻せばいいでしょ」

レイラはあまり心配していないようだ。

「いや、そういう問題か?」


「穴を塞ぐのはすぐ出来るわよ」

「穴を塞いでも、家の中の物を壊してしまうかもしれないぞ」

「大丈夫よ」

何故かレイラは物を心配していないようだ。

「何かいい魔法でもあるのか?」


物を直すような魔法が使えるとは聞いていないが。

そんな事を考えていると、俺の予想を超える回答が返ってきた。

「ここが、落伍者のいる場所だから」

「落伍者?」


あまり聞きなれない単語だ。だがいい意味ではないのは何となく分かる。

「魔女を目指すのを止めた者をそう呼んでいるのよ」

そんな気はしていた。

「この島の住人は皆、そういう感覚なのか?」


「ええ、落伍者の家なら、家に穴をあけられたって文句は言えないわよ」

「それは、誰がやってもいいのか?」

「そこまでじゃないわよ。私が魔女の弟子だから許されるのよ」

一応そういうルールはあるのか。

「落伍者は魔女の弟子には逆らえないのか?」


「当たり前じゃない」

そいう感覚なのか。

「何故だ?」

俺はまだこの島の文化を知らない。早いところ聞いておいた方が良いかもしれない。


「魔女がこの島を島の外敵から守るって話したでしょ」

「ああ」

「魔女を目指すのを止めた落伍者は、島に恩恵をもたらさずに一方的に守られてるだけなのよ」

「そうなるな」


「そんな奴らが魔女の弟子に文句を言う権利は無いわよ」

俺の世界で言う、ニートは肩身が狭いみたいなものか。

「いや、だからって家に穴をあけられたら流石に怒るんじゃないのか?」

いくらニートとは言っても、家に穴を開けられたら黙って引き下がったりはしないだろう。それで泣き寝入りするのは人権が無いと言っているようなものだ。


「だったら自分の力で帝国を追い払うのね」

だがレイラはそうは思わないようだ。つまり落伍者は人権が無いといっているようなものだ。

「落伍者にそんな事が出来ると思うのか?」

「あの人たちにそんな事はできないでしょうね」

「だったら」


「何よ、殺されないだけありがたいと思ってもらわないと」

「そこまで言うか?」

「何もせずただ守られてるだけなのよ」

「何か役に立つ事があるんじゃないのか?」


「何かって何よ?」

レイラの口ぶりにはかなりの嫌悪感が滲み出ている。まるで何をやらせてもダメだとでも言いたそうだ。

「例えば農業とかの肉体労働をやったりしないのか?」

魔法が使えなくとも力仕事ならできるだろう。


「そんなの、魔法が使える奴か、男がやった方が効率がいいじゃない」

「それもそうか」

力仕事をするにしても、魔法が使えない奴よりも、魔法が使える奴の方が良い成果がだせるのか。


「この島で魔法が使えるのに、わざわざ魔法から逃げるなんて、怠けてるだけよ」

レイラの意見はかなり辛辣だ。魔法を使える側としては、魔法から逃げるという事は信じられないのだろう。

持つ者は持たざる物の気持ちが理解できない。どこにでもある話だ。

「何故怠けるんだ? 落伍者は魔法を使うのが嫌いなのか?」

一応レイラの認識を聞いてみよう。


「そうなんじゃない?」

やはり落伍者の気持ちが理解できていないのか、レイラの答えは投げやりだった。

だが俺の予想が合っているのだとすれば、一つの懸念が浮かび上がる。

「そいつらが、西の魔女に同調して反乱する事はないのか?」


「無いわよ」

「何故だ? 魔法が嫌いな者同士共闘するというのはありそうだろう」

西の魔女も、落伍者も魔法を嫌っているという共通点があるなら、協力するという可能性は十分あり得るように思える。


「そんな気概があるなら、最初から魔女の弟子を目指してるわよ」

「いや、魔法が嫌いだから魔女の弟子を目指さないんだろう」

「それだけじゃないわよ」

「他に何がある?」


「魔女の弟子になったら、いずれ、魔女になる可能性がある。そうなったら帝国と戦わないといけないかもしれない。落伍者はそれが嫌なのよ」

「戦うのが怖いって事か?」

「そうよ。そんな奴らが西の魔女と共闘なんてする訳ないでしょ」

「確かに、戦うのが嫌で魔女の弟子を止めたのに、西の魔女と共闘するというのは本末転倒か」


「何もやる気がない奴が落伍者になる。そんな奴らが戦う訳ないわ」

「なるほどな」

「あいつらは生きてるだけの怠け者よ」

魔女の弟子であるレイラは落伍者に対して思うところがあるのだろう。手厳しい言葉が続く。

「もしも、西の魔女が、魔女の座を辞退したら、落伍者扱いになるのか?」


「当然でしょ」

「魔女であってもか?」

「怪我や病気で引退するならまだしも、大した理由もなく魔女の座を降りたら落伍者扱いよ」

だから西の魔女は自ら引退するという道よりも反乱を起こすという道を選んだのではないだろうか。

「なら普通の魔女は引退しないのか?」


「引退するにしても後継者が代替わりするし、代替わりに理由のほとんどは高齢や出産が理由よ」

なるほど、そういう理由であれば許されるのか。

「ところで、地上に出る時に、周りの安全はどう確認する気だ?」

「普通に出て、周りを確認すればいいじゃない」

「いや、それだと、運悪く誰かが居たら、見られるだろ」

いくら落伍者は気にしなくてもいいと言っても、最悪帝国兵と鉢合わせする危険性がある。


「それともあなたが先に上がって地上の様子を確認する?」

「地下から杖が生えてきたら怪しすぎるだろ」

それはそれで誰かに見られたら怪しまれる。


「地下から魔女の弟子が出て行くのだって怪しいわよ」

俺が先に行くのと、レイラが先に行くのではどっちもどっちか。

いや、俺が他人に見られるリスクと、レイラが他人に見られるリスクを考えたら俺が見られる方がリスクが低いか。

「分かったよ。なら俺が先に行って様子を見よう」


「じゃあお願いするわよ」

そもそも、穴を開けた時点で、その場所に誰かがいたら気がつかれる。

さっさと外の様子を確認したほうが良い。

「あまり雑に扱うなよ」


「あなたを壊したりするつもりは無いわよ。杖の先端が目なんでしょ?」

「そうみたいだな」

「なら杖の先端だけ出して地上を見渡せばいいじゃない」

潜水艦の潜望鏡みたいなものか。

「まあそれが一番無難だろうな」

「じゃあ、そろそろ地上に向かうわよ」


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