20.地下道
方針を決めてからレイラは地上に向かうように穴を掘り続けた。
つまりは地下道としては上り坂になり、徐々に地上に近づいていく。
そろそろ地上だろうというところで、レイラは手を止める。
「どうした、そろそろ地上だろう」
「分かってるわよ。でも誰かいるかもしれないと思うと、緊張するじゃない」
まあ、誰かがいる可能性は否定できない。
とは言っても、ずっとこのままここにいる訳にもいかない。
「早くしろ。あまりここに留まっていると、酸素が無くなるぞ?」
俺はレイラを急かす。
地面に穴を掘るのは、魔法を使えばさほど難しくなかった。
魔法で土を動かし、さらに固める。こうすれば崩落の危険もないだろう。
とはいえ中は真っ暗だ。作業をするには光源が必要だ。
という訳で小さな火の玉を生成し光源にしていたが、密閉された場所で火を灯すというのは酸素を消費する行為であり、最悪窒息する。
「酸素?」
だがレイラにはそれが分からないようだ。
「酸素の概念を知らないのか?」
魔法がある代わりに科学の知識がないのか。
「何よそれ?」
やはり酸素が何なのかすら知らないようだ。
どうやって説明したものか。
「閉鎖空間に長時間いると窒息するというのは知っているか?」
「知らないわ」
これもだめか。
魔法が使えたらわざわざ閉鎖空間に閉じこもるなんていう真似はしないか。
「人がなぜ呼吸をするか知っているか?」
「考えた事ないわ」
どこから説明すればいいのやら。
「人間は首を絞められると死ぬだろう」
これが分からなければ説明のしようがない。
「それぐらいは知っているわ」
どうやらこれは分かるらしい。
「何故呼吸をするが分かるか?」
「知らないわよ」
だろうと思った。俺は説明を続ける。
「人間は呼吸をすることにより、大気中から酸素という成分を取り込んでいる」
「はあ」
そもそも酸素という概念を理解できていないのか、レイラは俺が何を言っているのか分からない様だ。
とりあえず簡潔に結論を伝えよう。
「つまり閉鎖空間に長時間滞在すると、空気中の酸素を使い切って窒息するのと同じ事になる」
「そんなのなった事ないけど」
それは普通に生活していたら、窒息することなどないだろう。
「お前は閉鎖空間に長時間滞在したことがあるのか?」
「無いわね」
「とにかく、このまま長時間同じところに居続けるのは危ないんだ」
「あたし一人ぐらいで酸素を使い切るの?」
「一人じゃない」
「あんたも呼吸してるの?」
「火を燃やすのでも酸素が消費する」
そうか、火の燃焼に酸素を使う事も知らないか。
「この照明用に使ってる火も?」
「ああそうだ。だから早くしたほうが良い」
「分かったわよ」
どうやら窒息の危険性について理解してくれたようだ。
そういいつつ、レイラはゆっくりと穴を掘り進めていく。
そうするとようやく、小さな穴が開いたのが見えた。
「地上か?」
「みたいね。じゃあ、確認してもらうわよ」
僅かに月明かりが見える。となると恐らくは室内ではなく野外だろう。
「ああ、任せろ」
レイラはゆっくりと俺を穴に通す。
そうすると俺の視界は穴を潜り抜け向こう側を見る事ができた。
幸いにもそこは人気のない路地だった。
出た瞬間誰かに見つかるという最悪の展開は避けられたようだ。
「大丈夫だ。誰もいない」
「穴を広げても大丈夫?」
「ああ、早く外に出たほうが良い」
俺の言葉を聞くと、レイラは再度魔法を使って穴を広げ、人が通れるほどまでに広げ、そこから地上に上がった。
「本当に、誰もいないわね」
郊外の僻地であり、今は夜だ。わざわざ見張っているような物好きはいなかった。
昼間ならだれかが気が付いたかもしれないが、こんな夜に地面に穴が開いたところで気が付く者はいないか。
「そう言っただろう」
「じゃあ、さっさと目的の場所に行くわね」
「その前に、この穴は放っておくのか?」
俺の言葉でレイラは、自分が出てきた穴を見下ろす。
「ふさいだ方が良いかしら」
「いや、万一が起きて、この町から逃げる時には使えるかもしれない」
もう一度掘ろうとするとある程度の時間と労力がかかる。ふさいでしまうというのは勿体ない。
「それまでこの穴が生きてるか微妙よ」
「何故だ?」
誰かが勝手にふさぐとでも言うのだろうか。
「土の壁は恒久的な維持は出来ないわ。私が魔力を込めて壁としての強度が保たれている間は崩れないと思うけど」
つまり、魔法は一時的な効果しかなく、いずれ効果が切れるのか。
「魔法が維持できなくなったら崩れるっていうのか?」
「そうですよ」
壁の強度は魔法で保たれている。魔法が切れれば崩れ落ちてしまという事か。
「どれぐらい持つ」
それならば、制限時間が気になるところだ。
「数日なら」
この町に何日滞在するかは不明だが、すぐに崩れるという訳ではないのか。
「それを過ぎたら完全に崩れるのか?」
一気に崩れるのか、徐々にひび割れが入っていくのか。
「効果が過ぎれば元の土に戻るので、一気に崩れるわよ。まあ定期的に魔力を込め直せばもっと持つだろうけど」
どうやら一気に崩れる様だ。
「いざという時の逃げ道に使えるんだから残しておいた方が良い」
今後町の外に出入りするタイミングは何度かあるような気がする。
「そうね、まあ入り口だけは塞いで見えないようにしておくのが無難かしら」
たしかにこのままだと目立つ。
「どうやってふさぐ?」
「魔法で土をかければいいんじゃない?」
「それだと誰かが上に乗った時に落ちてしまわないか?」
まるで落とし穴だ
「ある程度強度があれば大丈夫よ。こんな風に」
魔法を使い蓋のような板を、穴を塞ぐように被せる。
これで見たところ、ここに穴が開いているとは分からない。
「本当に人が乗っても大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ほら」
そしてレイラは自ら自分の作った蓋の上に乗ってみせた。それでも先ほど作った板状の土は特に変化はない。
「それなら大丈夫か」
「じゃあ、知り合いの家に行くわ」
「場所は分かるのか?」
「ええ、始めてくるという訳じゃないからね」
そう言ってレイラはどこかへと歩き出した。




