16.再戦
俺達から少し距離を取って車が止まると、続々と車から帝国兵が降りてくる。
大体一台から4人ぐらいが降りて来た。つまり全部で20人ぐらいの数だ。
その中に見た顔がある。
「囲め!」
見た事のある顔の帝国兵が、周りに指示をだす。
先ほど俺たちに返り討ちにあった帝国兵だ。
一度魔法で痛い目をみたからか、一定距離以上は近づこうとしなかったが、囲むという事はまだ俺たちを生け捕りにするつもりなのだろう。
命令に従って帝国兵が続々と俺たちを円状に囲みはじめる。
「さっきの奴が戻ってきたみたいだな」
「そうね」
「あの時、全員殺しておくべきだったな」
「仕方ないでしょ。見えなかったんだから」
土の壁越しに適当に攻撃したのだから、仕方がなかったのかもしれないが、まさかここまで早く戻ってくるとは思わなかった。
相変わらず、すぐに撃ってくるような真似はしなかった。
相手の武器は銃だ。
俺たちを円状に囲んだらお互いが射線に入ってしまって同士討ちになってしまうが、銃を使わないつもりなのだろうか。
「懲りないのね。同じ目にあいたい?」
それを見たレイラが相手を挑発するような事を言う。
「ふん、同じ手は通用しない」
「あら、何か考えでもあるのかしら?」
「お望みの霧を持ってきてやったぞ」
やはりそうなるか。予想通りだ。
「別に望んでは無いけどね」
皮肉交じりにレイラが返す。
「やれ!」
その言葉を合図に帝国兵は手榴弾のようなものを取り出す。
それは西の魔女が使っていた物とは同じ別の物に見えた。
そして、俺たちに投げるのではなく、自分たちの足元に落とした。
「なんのつもり?」
その様子を怪しんだのか、レイラが思わず帝国兵に問いかける。
「これで魔法は効かない」
帝国兵にそう言われて、ようやく俺も理解した。
「ああそうか。魔法を無効化する霧だから、自分たちの周りに撒いて防御に使うのか」
西の魔女が東の魔女に投げつけて使ったのを見ていたために、てっきり魔女に向かって投げるものかと思ったが、そういう使い方もあるのか。
あの時は二人とも空を飛んでいたから、空を飛ぶ魔法を妨害するために直接相手にぶつけるというやり方が効果的であっただけで、地上で戦うにはこの方が効果的なのか。
「なるほどね」
「さあ、分かったら投降しろ」
この状況では俺たちの上空が空いているため、最悪空を飛んで逃げる事も出来る。
だがそうしてしまうと、当初の目的であった町への潜入が難しくなる。
となると、先ほど考えた作戦を使うべきか。
●
「嫌よ。投降なんかするわけないでしょ」
帝国兵に囲まれた状況でも、レイラは強気な態度を崩さなかった。
「まだ抵抗する気か?」
「残念だけど、私達から距離を取り過ぎたわね」
「何?」
「あなたの周りには霧があっても、こっちまでは来ていない」
「それがなんだ」
「私はまだ魔法を使える状態よ」
レイラの言う通り、帝国兵が撒いた霧は、あくまで自分たちを守るためのものであって、俺達の魔法を封じるものではない。
「いくら使えたところで、霧の前には無力だ」
どうやらよほど帝国兵はこの霧の力を信用しているようだ。
「とりあえず、一発撃ってみるか?」
「そうね」
レイラが俺を構えなおす。
「馬鹿め。無駄だと言っているだろう」
それを見て魔法を使うと察した帝国兵が、俺たちを嘲笑うように余裕の表情を浮かべている。
それでもレイラが止まることは無かった。
「ファイアボール!」
先ほど同様、杖の先に火の玉が生成され、レイラが杖を振りぬくと火の玉が射出される。
だが霧に当たると、爆発するでもなく、完全に消滅した。
「消えた?」
それを見た俺は驚きを隠せなかった。
どうやら本当に霧で魔法が打ち消せるようだ。
「やっぱり、普通に撃つだけでは打ち消されるわね」
レイラもそれを認めざるを得ないようだ。
「諦めろ、これがあれば魔法は無力だ!」
それを見た、帝国兵が得意げに叫ぶ。
「ほう、こういう事か」
確かに霧に触れれば魔法は打ち消されるらしい。
となるとあの時の東の魔女も、魔法を封じられて墜落したという事で間違いないだろう。
「あなたの知識で、この霧を打ち破れたりしないの?」
「ちょっと待ってろ」
触れると魔法を打ち消す霧か。
直接触れなければ何とかなるだろうか。
「早くして」
あまり考えている時間はない。そして俺はある事に気が付く。
「あの霧は上にはいかないな」
見たところ、地面を這うようにゆっくりと横に広がっている。
「当たり前でしょ、自分を守るための霧なんだから」
まあそういう使い方をする想定なのだろう。
「つまり空気よりは重く、上空には上らないという事だろ?」
「それが何なのよ」
「さっきやった魔法をできるか?」
「ファイアボールの事?」
「そっちじゃない。壁を作る方だ」
「できるけど、囲まれた状況でやってどうするのよ」
「それはやれば分かる。で、できるのか?」
「ここにも土はあるからできると思うわよ」
「なら、あれを何度も同時に使う事はできるか?」
「できるわよ」
「ならやってみるか」
「また自分を囲うように円状にやるの?」
「まあ待て。やるには条件があってな」
「何よ」
「俺の声はあいつらに聞こえていないんだな?」
俺の話を聞かれて逃げられても困る。
「みたいね」
聞こえてないならこのまま説明してもいいか。
「まずは俺たちの正面、霧に出来るだけ近い場所に壁を一枚立てるんだ」
「正面だけでいいの?」
「ああ、様子を見るためだ」
「霧に当たってすぐに消滅するだけだと思うけど」
「それでも、確かめてみる価値はある」
霧に当たってどういう反応をするのか見るためにあえて霧の近くに立てる。それを見て次の手をどうするかを変える必要がある。
「分かったわよ」
「何をごちゃごちゃ言っている!」
俺の言葉が聞こえない帝国兵には、レイラが一人でブツブツ言っているようにしか聞こえないのだろう。
「あんた達の倒し方を考えてるのよ」
「魔法は無駄だとまだ分からないのか?」
「なら見せてあげるわ。マッドウォール!」
帝国兵の前に泥の壁が立ちふさがる。
それは俺が指示した通り霧が出ている場所のすぐ手前でもあった。
「馬鹿め、そんな事をしても霧は止められんぞ」
どうやら帝国兵は俺たちが霧を止めるために壁を出したと思ったようだ。
今は間違いを訂正してやる必要はない。好きなように言わせておこう。
ほどなくして、地面を這うように広がってきた霧と接触する。
すると当たった個所から土の壁はボロボロと崩れ始め、ただの土の山になってしまった。
「無駄だと言っただろう」
霧の中から帝国兵の声が聞こえる。
だが俺はそいつらを見て違和感を覚えた。
よく見ると土をかぶっている。
「おい、土は消えないのか?」
土の壁は崩れたが、その元となった土は山となって残っている。
「あれは地中の土を動かして作って硬化させる魔法だからね。魔法の効果が切れれば壁の形を保つことはできなくなっても、土自体は消えないみたいね」
「そういう事か」
帝国兵も警戒しているのか、霧が広がるのに合わせてゆっくりと近づいてくる。
こちらのいる位置まで広がったら、取り押さえられてしまうだろう。
あまり考えている余裕はない。
「それがどうかしたの?」
俺は次なる手を考える。
「じゃあ、壁を2重にして立ち上げる事は可能か?」
「可能だけど」
「壁の厚さを制御する事は?」
「あんた、杖から魔法の知識を吸収したんじゃないの?」
「魔法の知識がある事と、それをお前が実行できるかどうかは別問題だろう」
理論上壁の厚さを制御できることも二重にして生成する事も可能である事は分かっている。
「ああ、そういう事」
「で、どうなんだ。厚さの制御はできるのか?」
「できるわ」
「じゃあ、まずは自分を囲うように円状に壁を作れ。それも二重にして、高さはさっきの倍ぐらいにしろ」
「そんなことをしたら逃げられないでしょ」
どうやらレイラは霧を打倒するのを諦めて逃げる気になっていたようだ。
「逃げるのが目的じゃない」
だがおれは先ほどの霧の反応を見て、こいつらを倒す方法があると考えている。
「壁を二重にしたぐらいで、どうにかなるの?」
「ああ、それから外側の壁はできるだけ厚くしろ」
「厚くしたところで霧には無力よ」
「それでいい」
確かに霧に当たれば壁はまた崩れるだろう。
「どういう事よ」
「さっきから何をブツブツ言っている!」
霧の中から帝国兵から苛立ちのこもった声が聞こえる。
魔法は霧に対して無力と思っていながらも、先ほど痛い目を見た以上、俺たちを警戒しているという事だろう。
その証拠に、俺たちに向かって直接霧を使おうとはしない。
あくまで自分達の身を守りながら、徐々に包囲網を狭めて俺たちを確実に取り押さえる魂胆なのだろう。
だがそれが俺たちに考える時間を与えた。
「マッドウォール!」
レイラが魔法を唱えると、壁が立ち上がる。
俺たちを囲うように円状に土の壁が立ち上がる。
「もう一度だ」
そしてこれを二重にする必要がある。
「マッドウォール!」
立ち上がった壁の内側に、もう一つの壁が立ち上がる。
これで俺たちは二重の壁に守られている事になる。
「無駄だと言っただろう! こんなのは霧ですぐに穴が開く!」
壁の向こう側から帝国兵の声がする。
「私もそう思うけど」
レイラが皮肉交じりにつぶやく。
「いいから見てろ」
だが焦る事はない。俺の計算が正しければうまくいくはずだ。
「見てるだけでいいの?」
「ああ、今はな」
「まさか飛んで逃げるとか言わないわよね?」
今なら上空に霧が無い。それも可能だろう。
「飛んで逃げるのはマズイんだろ?」
「この後町に行くことを考えたらやりたくないわね」
町にいる帝国兵に見られると警戒されるかもしれない。それをさっき言っていたのは覚えている。
「安心しろそれ以外の方法を使う」
「信じるわよ」
言葉とは裏腹に、口調からは不安がにじみ出ていた。




