14.行先
「今向かってる先の町も、西の魔女の領地内なんだよな?」
「そうよ」
川を越えてから町の姿が目視できるようになったが、到着にはもう少し時間がかかりそうだ。
そして俺には気になる物が目に入った。
「ところで、海が見えるな」
「そうね、港町だもの」
ここは島だ。海沿いに町があり、港町として発展している。それは問題ない。
「大きな船が停泊しているように見える」
ここからでも大きな船が見えたのだ。
「みたいね」
それはレイラにも見えたらしい。
問題はその船が明らかに砲台のようなものが見える事だ。
「あれは軍艦じゃないのか?」
この島に軍隊は無いと言っていた。という事は考えられる可能性は一つ。
「帝国の船でしょうね」
「じゃあ、もうあの町には軍がいると考えたほうが良いな」
帝国の船が堂々と停泊しているという事はそういう事になる。
「そうね」
「入り口に検問があるかもしれないな」
帝国は魔女の弟子を生け捕りにしている。
完全に町が帝国に掌握されているのであれば、魔女の弟子を探すために町の出入りに確認ぐらいしているだろう。
「そのまま町に入るって訳にはいかないかしら」
「向こうも俺たちを探してるみたいだからな」
特に西の魔女は、俺を探している。
「やっぱりそうなるわよね」
「さっき帝国兵と遭遇したんだから、俺たちがこの辺りにいる事はもうバレてる」
さっき逃げた帝国兵がどこへ行ったのかは分からないが、あの町に行った可能性は高い。そうなるとあの町の帝国兵には俺たちが近くにいる事が知れ渡っている。
「強引に突破は、やめたほうが良いわよね」
「あの町には帝国兵が何人いるか分からないぞ。全員を敵に回して勝てるのか?」
強引に突破するというのはそういう事だ。
「それは無理ね。霧を使ってくる可能性もあるし」
「今なら、別の場所に行くって言う手もあるぞ」
「それはダメよ」
「何故だ?」
「帝国に制圧されているっていうなら、様子を確認したいでしょ」
「知り合いでもいるのか?」
「まあね。行けば分かるわよ」
行けば分かるなら今話してしまってもいい気がするが、何か言いにくい事情でもあるのだろう。
「信用できるんだろうな?」
敵地に住んでいる住人の家に泊めてもらうというのは危険な気がするが大丈夫なのだろうか。とはいえ俺はこの世界に知り合いもいない。
ここで止めるのは野宿をするという事と同義だ。レイラは野宿を嫌がっているし強くは言えないが警戒はする必要はある。
「大丈夫よ」
「西の魔女の領地の住人が、東の魔女の弟子であるお前を歓迎するのか?」
「西の魔女の領民全員が、西の魔女の方針に賛成してるわけじゃないのよ」
「そうなのか?」
「そもそも領土って言っても魔女たちが決めた境界だしね」
それだけ聞くとまるで独裁者のように聞こえる。
「島民と話して決めた訳じゃないのか?」
「そうよ。まあ、領土に住んでるからって何かする訳じゃないし、普段はあまりきにしないけどね」
「なら、何のために領土を決めてるんだ?」
「基本的に、その領土の魔女に弟子入りする事になってるのよ」
「ならお前が東の魔女に弟子入りしたのは、東の魔女の領土に住んでいたからか?」
「ええ、弟子入りした時は、そうだったわね」
何か気になる言い方だ。
「つまり別の領土に引っ越せば、別の魔女に弟子入りすることもできたわけだ」
「魔女が了承すればね」
「もしかして、北の魔女の弟子が多いのは人気があるからか?」
「そうよ。領民から一番人気がある。だから弟子も多くなる」
北の魔女が積極的に弟子を取っているというよりも、人気があるから自然と弟子入りを希望する者が増えるのか。
「お前は東の魔女の弟子だったよな」
「そうよ」
そうすると、東の魔女について一つ気になる事がある。
「東の魔女の弟子はお前一人なのか?」
「ええ」
「それは、つまり…」
人気が無いという事か、と率直に言っていいか悩み口を噤む。
あまりはっきり言うとレイラの気分を悪くしてしまうかもしれない。
「何を言いたいかは察するけど、違うわよ」
どうやら皆まで言わずとも通じたらしい。
「何か弟子を取らない理由があるのか?」
「私も師匠は、弟子同士争わせる事に懐疑的だったのよ」
「あえて一人しかとらなかったのか?」
「ええ、私が弟子入りした後に、何人が弟子入りを希望する人は来たけど全部断ってたわ。弟子は一人で十分だって言ってね」
「だからお前一人だったのか」
「魔女同士で研究を争わせるのはいいけど、弟子の間は争わせなくてもいいだろうって考えだったわ」
「しかし、その考え方は…」
「争いを嫌ったって意味では西の魔女の考え方に近かったのかもね」
どうやらそれはレイラも思っていた事であったようだ。
「それでも、西の魔女と東の魔女が協力して、今の島の体制を崩すっていう事にはならなかったんだな」
「ええ。それをむしろ西の魔女から襲って来た」
考えが近いなら共闘するという手もあっただろうがそうはならなかった。
西の魔女はそれほど島全体を憎んでいたのかもしれない。
「東の魔女と西の魔女は思想が違ったのか?」
「まあ私の師匠は弟子同士の争いが嫌なだけで、魔女同士で競うのは反対してなかったからね」
「完全には一致していなかったって事だな」
「そうよ。島を守るためには必要だって」
「領民もそうなのか?」
「魔女によって、この島が守られている以上、魔女が強い方が良いと思っている領民がほとんどね。どうやって強くなるかまで気にしている領民はほとんどいないと思うけど」
「まあ、確かにそこまで見てる領民はいないか」
俺の元のいた世界でも、自分の国の軍隊が普段どう訓練しているかに興味を持っている奴は少数だ。
「そうよ」
「でもそうなると。領民からすれば、帝国が来たとしても抵抗する理由は無いって事なのか?」
支配者が変わってもあまり気にしないという国民性なのだろうか。
「流石に帝国の支配は嫌がると思うわよ。悪評が高いし、何より帝国は魔法を消そうとしてるみたいだから、それだと生活に支障が出る人も多いんじゃないかしら」
「日常的に魔法を使っているのか?」
「魔法が使える人はね。」
「どんな事に?」
「火起こしとか、水の調達とか」
なるほど、魔法が発展していると、科学でやっていた事を魔法でやる事になるのか。
「もしかすると、町では抵抗運動が起こっている可能性もあるのか?」
「それはどうかしら。普段戦うような訓練はしていないし」
「じゃあ、大人しく帝国兵に従っているのか?」
「多分ね」
「いいのか? それで」
「戦えないんだから、仕方ないじゃない」
力の無い者の定めか。
「それだとひどい扱いを受けている可能性もあるんじゃないのか?
「だからこそ、様子を見に行くんでしょ」
そんな話をしながら、俺たちは町を目指した。




