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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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12/21

12.霧がなければ

魔法を使うには時間がかかる。それはその通りだ。

そして先ほどレイラが魔法使った事で分かった事がある。

魔法を使うのは魔力が必要であるが、準備中はわざわざ口に出して魔法を唱える必要はない。


少なくとも、レイラはそんな事をせずに火の球を生成し、最後に飛ばした時だけ魔法の名前を口にしていた。

そして帝国兵が、レイラに銃を向け始めてから、俺は体に魔力が満ちてくるのを感じていた。

当然魔法の知識を吸収していた俺はそれが何の魔法なのかは分かった。

つまり、今までの会話は、魔法を使う準備をするための時間稼ぎだったのだ。


「マッドウォール」

恐らくそれが、魔法の名前だったのだろう。

レイラがそう言うと同時に、俺に込められていた魔力が解き放たれ、魔法が発動する。

地面から泥の壁がせりあがった。

俺たちは川を背にしており、せり上がった壁はレイラと帝国兵の間を阻むように半円状になっていた。これで俺達の視界からは完全に帝国兵が見えなくなった。


「くそ、撃て!」

壁の向こうに見えなくなった帝国兵の声が聞こえると同時に、銃撃音が聞こえてくる。

壁が分厚いのか、銃弾が壁を突き抜けてくることは無かった。


「おい、これだとこっちからも攻撃できないだろう」

倒すと言っていたが、これだと防御しかできない。

「見てなさい」

そういうと再度レイラは杖をかざす。

再び俺の中に魔力が流れ込んでくる。

この感じはさっきと同じか。


「またあの魔法を使うつもりか?」

「そうよ。さっきみたいな威力は必要ないからね」

「ああ、加減しよう」

壁一枚隔てているとはいえ、近距離に敵がいる、巻き込まれたくはない。

「ファイアボール!」


杖先から火の玉が生成され、そして杖を上段に振りかぶる事で火の玉が射出された。

弧を描くように壁を乗り越え、そして壁の向こう側に見えなくなった。

それとほぼ同時に、爆発音と悲鳴が聞こえた。

そしてぱったりと銃撃音はしなくなった。

爆発に巻き込まれたのなら、こちらを攻撃するどころではないだろう。


「くそ!」

「無事か!?」

兵士の声が聞こえる。どうやら全滅したわけではない様だ。

「まだ生きてるなら、もう一発行くわよ!」

その声に対して、レイラはあえて聞こえるように、再度攻撃することを警告した。

とはいえ、こちらも壁で向こうがどうなっているのかは分からない。

攻撃するにしても声を頼りに場所を特定するしかないが、精度は期待できないだろう。


「ダメだ! 逃げろ!」

帝国兵の声が聞こえてくる。

「ファイアボール!」

それに構わず、レイラはもう一度魔術を放った。

再度爆発音と悲鳴が響く。

だが相手が見えない状態での攻撃だ。当たっている可能性は低い。


「退却!」

帝国兵の声と、あわただしい足音が聞こえ、やがて静かになった。

「もういいかしら」

そういって、レイラが杖をかざすと、泥の壁が崩れる。

そこにはいくつかの死体があったが、生存者はいなかった。


 ●


「強いじゃないか」

最初、帝国兵とたたかうとマズイといった事を言っていたので心配だったが、今回は問題なく追い払う事ができたようだ。

「霧がなければこんなものよ」


確かに霧が無ければ負ける事はないだろう。

とはいえこれを見せられたら、帝国が魔法を恐れるのも分かる気がしてきた。

とりあえず、魔法を使えば帝国兵を撃退できることは分かった。

だが帝国兵には魔法を封じる手段がある。

今回は運よく持っていなかったようだが、あれを持ち出してくるのは時間の問題だ。


「さっさと移動しよう」

あれだけ派手にやれば霧を撒く装置を持っている奴が来るかもしれない。

「そうね。でも、霧を持ってこられたらどうしようかしら」

レイラは川辺を離れ、町へと歩き始めた。


「魔法以外で戦う方法は無いのか?」

「どんな方法があるのよ」

「何か魔法に代わる武器とかは?」

「ある訳ないでしょ」

期待はしていなかったが、ダメなようだ。


「だよな」

魔法を使える魔女が、わざわざ魔法以外の戦闘方法を身に着ける事はないか。

「逃げるしかないのかしら」


「まあ、逃げれるに越したことは無いが、霧がどこまでできるのかも確かめておきたい」

少なくとも西の魔女は霧を使っていた。

次戦うとしても霧を使ってくる可能性が高い。あれがどこまでできる代物なのかは事前に知っておいた方が良い。

「どこまで、ってあれに触れたら魔法が打ち消されるんじゃないの?」


「俺たちが見たのは、空を飛んでいた東の魔女が姿勢を崩して落ちたところだけだろう」

まず実際に起きた事と、推測は切り分けて考えないといけない。

「空を飛ぶ魔法だけ打ち消すって事?」

「それはやってみないと分からない。少なくとも、霧にファイアボールをぶつけたらどうなるのかを俺達は見ていない」

「それはそうだけど」

「一度試してみたいところだな」

霧を手に入れる機会があればいいが、難しいだろう。となると帝国兵が霧を使ったところで試す事になるだろうがそれはそれで問題がある。


「そんなことしたら、相手も反撃してくるんじゃないの?」

「相手がこっちを殺す気が無いというなら、反撃して来ないという可能性もある」

先ほども、レイラが土の壁を作るまで帝国兵は撃ってこなかった。奴らの生け捕りにするという目的がどこまで厳密な物かは分からないため、賭けではある。


「でも撃たれたら」

「下手をすれば霧の性能が分からないまま、西の魔女と戦う事になるんだぞ」

西の魔女が手ごわいというのであれば、霧に対する知識が無い状態で西の魔女と戦う方が危険だ。

「それは、確かにそうだけど…」

レイラが煮え切らない態度を取る。やはり戦うのは好きではないのかもしれない。あまり言いたくはないが少し発破をかけてみよう。


「師匠の仇を取るんだろ?」

「…分かったわよ。帝国兵が霧を使う事があれば、試せばいいんでしょ」

どうやら師匠の事を言われると弱いらしい。

「ああ、頼むぞ」

このまま何事も無く町に着けばありがたいが、まだ帝国兵と遭遇する可能性は残っている。


「そういえば、さっき帝国兵は杖を手放せとか言ってきたな」

「ええ、杖を取られたら、魔法を使えない事を知っているみたいね」

西の魔女と手を組んでいるなら、ある程度魔女の情報は持っているのが当然か。

「もしも追い詰められたら、俺を捨てるか?」

「あなた、自分が捨てられることを心配してるの?」


「自分一人では動けないからな。いざという時の事は考えておいた方が良い」

「心配しなくても捨てないわよ」

「そんなに杖が大事か?」

「杖を捨てたら魔法が使えなくなるんだから、捨てるわけないでしょ」

「それは心強い」

「だから杖を捨てるぐらいなら戦うわ」

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