前進
空中自動車はデータセンターの駐車場に着陸した。車を降りた沢白はデータセンターを見上げる。
白を基調とした巨大な建物が、まるで壁のようにそびえている。
中に入ってホールの奥に目をやると、金属探知機のようなゲートが置かれていて、脇のデスクに警備員が座っている。
すると、そのゲートから坊主頭で黒縁メガネをかけた男が出てきた。
「広域捜査庁の沢白捜査官ですね。当センターのセンター長をしております剣持です」
「急に押しかけてしまい申し訳ない」
沢白は身分証明のためにバッジを掲げながら、剣持に詫びた。
「とんでもありません。お電話をくださった貴島捜査官によると、当センターが不正アクセスされた疑いがあるとのことで、詳細はあなたから聞いてくれと・・・」
「えぇ。ある事件の捜査中に判明した可能性なんです」
沢白が言うと、剣持は困惑したような表情になった。
「当センターのセキュリティについてご存知ですか?」
「いいえ。ご説明いただけますか?」
「当センターに送られるデータは、専用のネットワークで各拠点から送られます。
ネットワークは、24時間365日当社製の巡回ツールによって見張られ、中央管制室による有人監視も行われています。
さらに、当センターに入るにはこちらの金属探知ゲートに加え、内部にもいくつものゲートがあり、常時出入りが記録されるうえ、データが保管されるラックの出入りには、特定のアクセス資格が必要になります」
「剣持さん、こちらのデータセンターが強固なセキュリティを持っていることは理解しました。
ですが、捜査の過程で判明した以上、確認しないわけにはいかないんです。どうか、ご協力いただけませんか」
沢白がそう言って頭を下げると、剣持は、話の分からない人だ、といったように首を振り、ゲートの方へ手をやった。
エントランスを皮切りとして、優に10個は超えるサークルゲートやフラッパーゲートをくぐった先に、データセンターの中央管制室があった。
剣持の言うようにかなり厳重なセキュリティだ。
中央管制室の壁一面に大画面のグラフィックディスプレイが設置され、中央に四人掛けの長机が縦三列の形で据えられている。
沢白らが中に入ると、管制室のスタッフたちが長机の前に座り、グラフィックディスプレイと自身のパソコンを交互に見ながら、なにやら作業をしていた。
その後方にある1段高い席で、女性が1人座って、スタッフたちに指示を飛ばしている。
管制室のスタッフを束ねる指揮官だろう。
剣持は指揮官の女性に話しかけた。
「マキくん、忙しいところ悪いが、ちょっといいか」
すると、マキと呼ばれた女性がこちらへやって来る。
胸元には、〝馬木〟と書かれた名札がつけてある。
「なんでしょうか?」
馬木は沢白をちらっと見たが、すぐに剣持に視線を戻した。
「こちら、広域捜査庁の沢白捜査官。彼女は当センターで管制班長をしている馬木といいます」
剣持は、沢白と馬木の間で手をひらひらさせながら、お互いを紹介し、沢白の来訪の目的を告げた。
「不正ログイン、ですか」
馬木が無表情に繰り返す。
「あぁ。沢白さんには不可能だと告げたんだが、念のため確認したいと仰ってね。どうだろう、ちょっと調べてくれないか」
「日時と住所は分かりますか」
馬木の質問に、沢白が事件発生時刻と現場の住所を答えると、彼女はデスクに戻り、スタッフたちに指示を飛ばした。
十分ほどして、スタッフたちがざわめき始めた。
馬木がその場に駆け寄る。ほどなくして、馬木が剣持を呼び、何かを耳打ちする。
剣持の顔はだんだんと蒼白になり、馬木が話し終えた時には、唇が震えていた。
剣持のリアクションを見る限り、何か良くない事実が判明したことは明らかだ。
沢白は剣持と馬木の元へ向かった。
「何か分かったんですか?」
剣持はうろたえていて、口を動かしてはいるが、言葉が出てこないようだ。
その様子を見た馬木が代わりに話始めた。
「そちらから指定された日時・場所のデータに、不正ログインの痕跡がありました。
詳細は現在調査中ですが、今の時点で分かっていることは、当該時刻に録画された監視カメラの映像が削除されている、ということです」
つまり、データの破損は偶然ではなかったということだ。
沢白は捜査が前に進みつつあることを感じた。
「剣持さんの説明を聞く限り、外部からの犯行は不可能とのことですが、そうなると、センター内でデータが削除されたということでしょうか?」
「センター内、あるいはセンターにデータが送信される前に、削除されていた可能性が考えられます。いずれにしても弊社の人間が関与している可能性が高い、と考えられます」
その時、沢白の携帯が鳴った。




