罠(2)
藤原祢佳との通話を終えた黒川は、通話用ルームを出て、待合室へと戻った。
黒川は今、病院で怪我の検査結果を待っている。
黒川の警護のため付き添っていた制服警官二名が、無遠慮な視線を投げかけてくる。
黒川が通話ルームに向かおうとすると、彼らもついて来ようとした。だが、大事な電話だから離れてくれ、と告げると、無愛想に距離を取られた。
公務員風情が、俺を見下しやがって。議員になったら、ほえ面をかかせてやる。
黒川は、警官に心の中で毒づいて、聞こえぬように安堵の息を漏らした。
何とか首の皮一枚繋がったか。
心配の種は、祢佳に切り捨てられることではない。広域捜査庁の動きだった。
沢白はすでに能味俊の存在に辿り着いていた。
奴が広域捜査庁の手に落ちれば、俺は終わる。
それよりも、奴が警察に捕まったほうが事を運びやすい。
警察上層部は、祢佳と懇ろの仲だ。あの女を使えば、捜査を止めることなど造作もないだろう。
それにしても・・・。
電話での祢佳の高飛車な態度が癪に障る。
分権派の一般市民たちを祢佳の応援団にまとめ上げたのは、誰だと思っているのか。
だが、今日の不安げな彼女を見ていると、案外気が小さい女だと、評価を改めるべきかもしれない。
議員に当選後は、政治家どもを観察し、手を組む相手を乗り換えるべきかもな。
いや、いっそ自分が旗頭のグループを作るべきだろうか。
政治家に転身後のプランを考えて落ち着いてきた黒川は、ここ数週間、自身の周りで起こった出来事を振り返った。
そもそもは、合田南巳が2年前の事故を嗅ぎ付けたことが発端だった。
南巳に糾弾され、どこからそんな噂を聞いたのか、逆に問い詰めたが、あの女は口を割らなかった。
それ以来、小向を無理やり抱き込んで事態の《対応》にあたった。
しかし結局は、あの男も楯突いてきた。
南巳と小向、それぞれと交わしたやり取りを思い出して、また胸にどす黒い感情が渦巻いた。
奴らが俺に反抗しなきゃ、こんな大事にならなかったんだ。
南巳に秘密を漏らしたのは誰なのか、今まで分からなかった。
しかし、能味俊が俺の前に現れ、沢白から尋問を受けた時、南巳に2年前の出来事を話したのは、能味だと直感した。
事故に遭った医者の名前を覚えていれば、あの男を最初から警戒していただろう。
とにかく、何としても能味俊と接触しなければいけない。
警察からは、犯人確保まで不要不急の外出は控えろ、と言われているが知ったことか。奴がいるかぎり、政治家になっても安穏とできない。
俺自身を囮にして、能味を引きずり出して、殺す。
そして議員になった後は、沢白寛二だ。
あの男は、出会った当初から気に食わない。
何もかも見透かしたような目で俺を見る。
不愉快この上ない。
特に、今日の別れ際の態度は気に食わん。
広域捜査庁もろとも、あのいけ好かない捜査官を潰してやる。
黒川はそう決意して、医師から呼ばれるのを待った。




