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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑫俺の騎士

戦いです。

 乾いた唇に舌先をすべらせ、ハーキマーは薄く笑う。

 禍々(まがまが)しい様相のガジムを前に怖気付くどころか、むしろこの局面に(たかぶ)りすら覚えているようにも見える。


(でも、どうやって戦うつもりだろ?)


 相手はただの人ではない。

 無茶な戦いだけはして欲しくないと、ラオフィーネは思う。


(みんなに何かあれば、その時は……)


 ちらりとキズナに目を向ける。

 もしも大切な人達の命が危険に晒されるようなことがあれば、その時はキズナの力を使って助けよう。

 ラオフィーネに迷いはなかった。


(わたしが、みんなを守らないとーー!)


 空中では精霊達が攻防を繰り広げていた。

 テクメスが牙で打ち合い、ダインが羽撃(はばた)きでイーフの吐く炎を強化し、次々と襲いくる鎖を薙ぎ払っていく。

 だが何千何万という魂を取り込んでいるガジムの鎖は、千切れても再生しているのか、破壊はおろか封じることすら困難だ。

 攻撃の手数も増え、精霊達は防戦を強いられるようになる。

 闇の法具が、テクメスの胴を縛り上げ動きを封じる。

 それを見たリーネが法具に息を吹き込み、力を与えられたテクメスは鎖をねじ切った。


「はあ……はぁ……」

「リーネ、少し休むんだ」


 シオンがよろめいたリーネを支えて言う。


(母さま、限界が近づいてる……)


 法具を扱うのは精神の消耗が激しい。

 戦いとなればなおさら……。

 テクメスがいったんガジムと距離を取る。

 すると入れ替わるように戦線に立ったのはハーキマーだった。

 ハーキマーは右手の剣を逆手(さかて)に握りなおすと、短く助走をつけ、力強く上空にむかって投擲(とうてき)した。

 ザンッ、と風切り音。

 騎士の剣は、ガジムの心臓を(まと)に、空を切る。


(……でも、今のガジムにはっ……)


 剣の切っ先は見事にガジムの左胸をとらえていたが、強固な鎧となった鎖の法具を貫くことはできず、弾き返される。

 ハーキマーの口がにやりと()を描いたの見えた。


(もしかして、わざと?)


 ぎょろりと動いたガジムの瞳が、ハーキマーを(とら)える。

 鎖とぶつかった衝撃で先端の欠けてしまった剣が落ちてくる。ハーキマーは己の剣を器用に掴みとり、素早く後ろに飛び退いた。

 次の瞬間、まるで杭を打たれたような強い衝撃が船を襲う。

 ガジムの攻撃だ。

 鎖の束が、甲板(かんぱん)を突き破っていた。

 標的はハーキマー。

 次々と繰り出される鎖の攻撃に、まるで嵐のなかを航海しているように船が大きく揺れる。

 体勢を崩したラオフィーネの腰を、サザナミが自分のほうに引き寄せた。


「大丈夫か?」

「うん。ありがとう。でも、ハーキマーさんがっ」

「ハーキマーのことなら心配するな。俺の騎士は強いーー」


 サザナミの言葉通り、ハーキマーは振り下ろされる鎖を軽々と(かわ)している。


(ハーキマーさん、すごい)


 無駄な動きは一切無い。

 上体を捻ったり、寸手のところで一歩後退するなど、攻撃の手をうまく読んでいる。


「イーフ、ダイン! 援護お願いねっ!」


 ラオフィーネが叫ぶ。

 標的がハーキマーに移ったことで、竜鳥(ドラゴン)達は攻撃に転ずる。

 ガジムに向かってイーフが炎を浴びせる。

 ダインは翼を(ひるがえ)しガジムに体当たりした。

 鎧のように全身に巻きついているガジムの鎖が、わずかに(たゆ)む。

 うまれた隙をハーキマーは見逃さない。

 ガジムと繋がったまま甲板を貫いている鎖のひとつに、今度は法具の短剣を突き刺した。

 鎖の輪に引っ掛けるように短剣の先を固定すると、ハーキマーはそれを(くさび)にして登りはじめた。


(ハーキマーさん、気をつけてっ!)


 するすると器用に鎖を手繰りながら登っていく姿を、祈る思いで見守る。

 それにしても驚くべき身体能力だ。

 ハーキマーは鎖を伝い、あっという間にガジムの(ふところ)に近付く。


「さあ、オレをもっと楽しませてくださいよ」


 そう言って、体重をかけて鎖を揺らし、反動をつけて宙に飛び上がる。

 弛んだ鎖の隙間、わずかにのぞいたガジムの左肩に、ハーキマーは切っ先の欠けた剣を力をこめて突き入れた。


「グッ……!」


 虚ろだったガジムの瞳が、苦痛の色に染まる。

 ハーキマーはさらに深く剣を押し込んだ。


「ッ! ク……くそヤロウ……ッ」

「やーっとお目覚めですか。……ああこの感触、久しぶり」


 熱い吐息を漏らしたハーキマーに、ガジムは怒り、自身に突き刺さった剣身を掴んでボキリと折った。

 もともと足場の無かったハーキマーは支えを失い、真っ逆さまに落ちていく。

 追いかけるようにガジムの鎖が伸びてきて急所を狙われるが、ハーキマーは落下しながらもそれを回避した。

 ただその分、体勢が崩れる。

 背中から甲板に叩きつけられる寸手で、レクメスが受け止める。

 そこへガジムの追撃。不可避だ。

 鋭い刃のような鎖が、ハーキマーの左腿を貫く。

 脚衣(パンツ)が裂け、大量の血が溢れだす。


「ハーキマー!」


 己の騎士のもとへ、サザナミが駆け寄る。

 纏っていた薄手の外套を手で切り裂いて、傷口をきつく縛った。


「殿下……」

「怪我はしたが良い判断だ。ぎりぎり骨に届かないようにしただろ。これくらいなら、まだ戦えるな? かなり痛いだろうが……」

「手当て、ありがとうございます殿下。もちろん戦いますよ。これからがイイところなんで」


 サザナミが肩を貸し、ハーキマーは立ち上がる。

 

「ほら、これを使えーー」


 折れてしまった剣のかわりだと、サザナミは自身の剣を差し出す。


「いいんですか?」

「ああ、おまえは俺の騎士だからな」

「殿下……オレ、やっぱり殿下の騎士になれて良かったです。だって殿下のそばにいなかったら、こんなに心が充たされることなんてなかった……」

「そんな台詞を言うのは、おまえくらいだぞ」


 新たな武器を手に、ハーキマーは微笑む。

 その頰にぽたりと雫が落ちてくる。

 生温かい……。

 頰から唇へと伝い、ハーキマーはぺろりとそれを舐めとる。


「ああ、血の味がする……」


 

お読み頂きまして有難うございます!

続きも急いで書きます!

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