⑪大好き
短いですが、宜しくお願いします!
「ーーイーフ! きてくれたんだ!」
ラオフィーネは喜びの声を上げた。
これで勝機が見えてきた。
ガジムに向かってイーフが吐き出すのは、原始の炎。それは何よりも強い浄化の力だ。
まだ大陸すら無かった古代、空を住処にしていた天の竜鳥たちは、渾沌とした大気に浮遊する塵を浄化する役割を担っていた。塵を炎で燃やしつくす。
ーー"イーフがいれば 我は闇を喰らうことができる"
イーフの炎が、ガジムから放たれた鎖のひとつを焼いていく。
するとダインは大きく口を開け、炎を纏いながら焼け落ちてくる鎖を丸飲みにした。
(お腹、あつくないのかな?)
ふと心配になるが、どうやら大丈夫そうだ。
ダイン達、地の竜鳥は、塊のない大地を住処に、天の竜鳥が燃やした塵を喰らってきた種族だ。腹のなかにあらゆるモノを取り込み自身の力の一部とする。そうやって自身の力を最大限に満たしたあと、肉体を捨てたといわれている。死骸はやがて液状に近かった大地の栄養素となり、今の大陸の土台になっている。
天と地以外にも竜鳥はいた。
しかし、その中でもイーフとダインは浄化を得意としている種族だ。
(イーフとダインがいてくれて良かった!)
この精霊の力があれば、闇に対抗し、ガジムを正気に戻すことができるのではないか。
(あれ、でもイーフきたっていうことは……)
遅れて気付くラオフィーネ。
イーフの宿る法具はハーキマーに託していた。……ということは、近くにいるということだ。
「ラオフィーネ!」
「!!」
声のした方へ、ラオフィーネは振り向く。
横付けされた船から勢いよく飛び乗ってくる青年の姿に、胸が高鳴る。
夜でも星あかりを受けて輝く金色の髪。紫水晶のような色の瞳は暗く沈んでいるが、真っ直ぐにラオフィーネだけを見据えている。
「サザナミ!」
(来て、くれたんだ……)
喜びが溢れてくる。
嬉しい。助けにきてくれた。
「ラオフィーネ!」
「サザナミ!」
お互いの名を呼び、駆け寄って抱きしめあう。
離れていた時間は長くはないのに、こうやって触れ合うのは久しぶりな気がした。
苦しいほどに強く掻き抱かれ、全身でサザナミの想いを感じる。
(わたし……)
言葉が自然と溢れてくる。
「わたし、サザナミのことが好き」
「!」
「ちゃんと伝えてなかったから……。わたしも、サザナミのことが好きだよ」
離れてしまった時にラオフィーネは後悔していた。
いつ永遠の別れが訪れるか分からない。だから自分の気持ちを伝えておけば良かったと……。
突然の告白に、サザナミは驚いて身体を少し離す。大きく見開かれた瞳に星あかりが差し込み、瞬きとともに揺れる。
「嬉しい……ラオフィーネ。俺も好きだ。ずっと好きだったんだ。他にも言いたいことが山のようにある。……指輪のことも」
「指輪のことは……その、ごめんなさい……」
サザナミが贈ってくれた指輪を、ラオフィーネは補修してしまった。
「怒ってる?」
「正直、ショックだった。否定されたようで……いや、違うな。ラオフィーネにとって俺は頼りない男だったにかと、自分に対して怒りがわいた……」
「そ、そうなの?」
「でも、もういいんだ。ラオフィーネの気持ちが嬉しかったし、何がなんでも守るって決めているからな」
微笑んだサザナミに、ふたたび優しく抱きしめられる。
(わたし、本当に……この人を好きになれて幸せ)
心があたたかくなる。
サザナミがそばにいるだけで、どんな時でも強い自分でいられる気がする。
たとえ、これからどんな苦しいことが起こっても、今の幸せがラオフィーネ支えてくれる。
(大好きだよ!)
ラオフィーネは、思いきり背伸びをして、サザナミの頬に軽く唇を押し当てた。
自分からする初めての口付けだ。
驚いてピタリと身体を硬直させたサザナミが「それは反則だろ」と顔を赤くしている。
ごほんと背後から咳払いが聞こえた。
「サザナミくん、いつの間に娘と、そういう関係に?」
「シ、シオン殿!?」
まさかラオフィーネの父がいると思っていなかったサザナミが慌てる。
「父さまに会えたの。それにね、母さまにも」
「そうだったのか」
「サザナミくん、後で二人でじっくりと話をしようか」
「……はい」
苦笑いで返すサザナミのそばから、もう一人、見知った声がする。
「ラオフィーネさん、ご無事で良かったです」
「ハーキマーさん!」
「預かっていた法具、もう少しお借りしてもいいですか?」
「うん。それはいいけど……?」
「ありがとうございます!」
にっこりと笑ったハーキマーだったが、次の瞬間、目つきが変わる。
まるで飢えた獣だ。ようやく見つけた獲物を前に、ぎらついた目をしている。
「殿下……手出し無用でお願いします。アレは、オレが仕留めるんで」
「ああ。だが、ひとりで大丈夫か?」
「イーフさんの力を宿した法具がありますから」
そう言って、ハーキマーは浮遊するガジムを見上げる。
まるで鎧のようにガジムの全身には鎖が巻き付いている。隙間からわずかに覗く瞳はひどく虚ろに見える。
「あーあ、完全にイッちゃってますね。このままじゃ、戦ってもつまんないなぁ」
低い声音で呟いたハーキマーが両手に剣を構える。
右手には自身の騎士の剣を。
左手には紋様が施された法具の短剣を。
「まずは正気に戻ってもらわないと……」
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