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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑩本当は望んでいなかった

「ガジム、やっと見つけたわ」

「リーネ……。そうか……オレを捕らえるために、おまえが派遣されたってわけか」

「そうよ。命令に(そむ)いて国を出て、挙句、その力で罪の無い人を傷つけるなんて許されることじゃないわ。大人しく私と一瞬に帰ってちょうだい!」


 厳しいリーネの言葉に対し、ガジムは小馬鹿にするように鼻で笑った。


「はっ、ふざけんな。今さら戻ったところで罪人は殺されるか、また人を殺すための道具になりさがるだけだろ」

「……ガジム、お願いだからこれ以上の罪は重ねないで」


 リーネの声には悲哀の色が滲んでいた。


「あなた自身が一番理解しているはずよ。こんなこと続けていたって、幸せになんてなれやしない……」

「ふん、それこそ今さらだろ」


 耳を傾けようとしないガジム。

 だが今までの様子とどこか違うように思えて、ラオフィーネは首を傾げる。


(何があったんだろ……、それに人を殺すための道具って……)


 二人の会話の端々から、ほの暗いものが窺える。

 ガジムは降霊師(こうれいし)

 強い霊視の力を持ち、法具発祥の大陸であれば大切にされてしかるべき存在だ。

 もしもその力を利用されていたのだとしたら……。ラオフィーネにとっては俄かには信じがたい話だ。


「もう一度言うわ。ガジム、お願いだからこのまま私と一緒に国へ帰りましょう! そうじゃなければ私は……、私はあなたを倒さなければいけなくなる……」

「そういう甘っちょろいところは相変わらずだなリーネ。……いいぜ、倒せるものならやってみな。オレを殺す覚悟でなーー」


 ガチャリ、と鎖のちぎれる音がした。


(ーーくる!)


 ガジムが腕を振り上げると、束になった鎖が(むち)のようにしなり、リーネに襲いかかる。


「レクメス!!」


 すぐに反応したシオンが叫ぶ。

 青い瞳をした蛇の精霊が、リーネを守るように立ち塞がり、その牙で鎖を受け止める。


(さすが父さま!)


 久しぶりに法具を扱う父の姿を見たが、精霊との連携は相変わらずぴったりだ。


「テクメス! あなたもよ!」


 リーネも精霊の名を()び、笛のカタチをした降霊法具に息を吹き入れる。

 赤い瞳の大蛇……レクメスと対をなす()()()()も応戦し、ガジムの放った鎖を噛み砕いた。

 しかしこれで終わったわけではない。

 ガジムが薄気味悪く笑う。


「オレの闇の法具は、何千何万という人を(あや)め、その魂喰らってきたんだ。簡単に滅することなんて出来ねえぜ」


「何万……て……、そんなひどいっ……!」


 非難したラオフィーネに、ガジムは怒りを剥き出しにする。


「なあ、本当にひどいのはオレか? 法具を無理やりオレの首に括りつけて、戦場のど真ん中に何度も放りだした()()()()には罪がねえのか!? オレは人を殺し、その魂を喰らい、また人を殺した……もうウンザリなんだよ!」


 鎖の(たば)が今度はラオフィーネを標的に襲いかかってくる。


 ーー"主には 触れさせぬ"


 ダインがラオフィーネを庇う。

 レクメスと、テクメスが、鎖を噛みちぎる。


「やめなさいガジム! この子には手を出さないで! ……解ってる、解っているわ、あなたが命令に従っていただけだって。本当は好きで人殺しなんてしてたわけじゃないってことも。でも……今あなたが追われているのは勝手に国を出たからよ。あなたの法具は決して外に出してはいけないものだから」


「うるせえーー!」


 殺気と怒りが、鎖に力を与えたのか、大蛇の精霊の(きば)を弾いてしまう。


「リーネ、本気でかかってこい。じゃねえと、おまえの精霊も闇の法具の餌食になっちまうぞ」

「私は負けるわけにはいかないのよ!」


 笛のカタチをした法具に、ふたたび息を吹き込むリーネ。

 巫女の息吹(いぶき)が、法具に施された宇宙の神々のなかの一柱……太陽神をあらわす紋様を浮かび上がらせる。

 闇に対抗できるのは、光だけ。

 リーネが本気で戦おうとしている証拠だ。


(母さま……苦しそうに見える……)


 ラオフィーネの目には、リーネの躊躇いが見てとれた。

 二人がどのような関係性かは分からない。

 ガジムは罪人で、シオンの右手を潰すような卑劣な男だ。


(だけど、このままじゃいけない気がする)


 首をしめつける鎖の法具にそっと触れると、ずっとそばにいたキズナの声がした。


 ーー"ラオフィーネ ガジムは正気を失いつつある"


「そうなの!?」


 ーー"分からないか? 何千、何万という魂の嘆きがガジムに(まとわ)わりついているんだ 呪いだ 非業の死を遂げた魂が すべての「生」を怨み 「死」を願って暴れている"


「それじゃあ、ガジムは……」


 ーー"ああ いくら強い降霊師でも抗うことは難しい これまでよく持ち堪えたほうだ"


 ラオフィーネは戦慄を覚える。

 もしも今ガジムが正気を失って暴走したらどうなるか……。

 闇の法具は、取り込んだ魂のぶんだけ威力を増す。


「止めなきゃ……!」


 荒ぶる魂の意思のままに法具が暴走したなら、この世界が壊れてしまうかもしれない。世界が壊れたら、犠牲になった人達の魂を、法具はまた喰らい続けるだろう。

 止めなければ、と思う。

 それに、(つゆ)ほどかもしれないが、ガジムの気持ちが見えた気がした。


(ガジムは嫌だったんだ。人を殺すための道具であることが嫌だったんだ。戦争に勝つために、人の欲のために利用されることが……)


 ラオフィーネも闇の法具を身につけている。

 いつか闇に魂を捧げると分かっていても、サザナミを助けるために法具を手にしたことを後悔はしていない。むしろ、あの時守れて良かったと思っている。

 ガジムも誰かを守るために力を使えていたら、もっと違う未来があったのかもしれない。


(こんなの哀しすぎる……本当は、誰かを傷つけるなんてしたくないんだ!)


 だからこそ、止めなければいけないと思う。

 ガジムがこれ以上周りを傷付けないように。その果てに一番傷付くのは己自身なのだから。


「でも、どうやって止めればいいの……」


 焦りがうまれる。

 浮遊するガジムを見上げる。

 禍々(まがまが)しく膨張をはじめた闇の法具は、その鎖でガジムの全身を覆うように巻きついていく。

 一方、リーネの持つ法具の精霊である白い大蛇……テクメスは、太陽神の紋様を介してさらなる力を得て変貌していた。光を纏い、牙が鋭く長く伸びている。

 光と闇は激しくぶつかり合う。

 濃く、深く、さらに眩く、圧倒的な両者の力は拮抗しているようだ。

 まるで表裏一体。

 光が濃くなるほど、闇も深くなっていくようだ。


「このままじゃ……せめて、強い浄化の力があれば……」


 ーー浄化。

 闇を打ち消すのではなく、闇をも包みこんで、無に還す力だ。

 その時、夜空に、炎を吐きだす竜鳥(ドラゴン)の姿が見えた。


お読み頂き有難うございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] カジムやろう……そっかー、そりゃ辛かったろうなぁ。 よっぽどメンタル強くないと、なります、そうなりますよね。 気の毒だなぁ。 最終決戦って感じですな!! 盛り上がって参りましたーー!! …
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