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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑬闇にのまれる世界

ブクマくださった方、有難うございます!

 浮遊していたガジムが、いつの間にか頭上にせまっていた。

 右肩から(したた)り落ちる血が、ハーキマーの頰をどす黒く濡らす。


「ーーオマエだけは、絶対に殺してやる」


 憎々しげにガジムが言った。

 そんな相手に対して、心底楽しげにハーキマーは笑っている。


「いくら法具があってもアンタも所詮は生身(なまみ)の人間。それなら人間同士、どちらかがぶっ倒れるまで戦うのはどうだ?」


 好戦的な態度がガジムの怒りをさらに(あお)る。

 ビリビリと肌を刺すような緊張が、空気を通してラオフィーネにもまで伝わってきた。


「殺してやる! 殺して法具の餌食(エサ)にしてやるッ!」

「やれるものならな! たとえ魂だけになったとしても、オレはアンタに牙をむくーー!」


 両者は激しくぶつかり合う。

 甲板に降りたったガジムが鎖を振り回し、鞭のようにしなった先端が、ハーキマーに襲いかかる。

 そこで素早く防御の態勢。

 ハーキマーはサザナミの剣ではなく、左手に持つ法具の短剣で受けとめた。


(法具の攻撃には、法具を使うほうが防御性が高い!)


 そうハーキマーに教えたのはラオフィーネだ。

 見事に戦いに活かしている。

 だが受けとめた瞬間、鎖は短剣ごと手首に絡みつき、身動きが取れなくなってしまう。


「ーーイーフさんッ!!」


 予測していたのか、間髪入れず、ハーキマーは頭上で旋回するイーフに向かって合図する。

 すぐに変化は起こった。

 (いましめ)られた短剣から炎が噴き出す。

 それは勢いよく鎖を伝いガジムの体にまで及ぶ。


「ーーグッ、アアアッッ!!」


 イーフの炎に身を焼かれ、苦悶の声をあげるガジム。

 無事に解放されたハーキマーだったが、どうやら左手首の骨が折れたらしく、剣を握ることができないでいた。

 それでも顔色ひとつに変えずに、残った右手で剣を構えると、躊躇いなくガジムの(ふところ)に飛びこむ。

 狙うのはガジムの左の脇腹。

 (たゆ)んだ鎖の隙間に、渾身の力を込め、深く貫いた。


「言ったでしょう? いくら力があっても所詮は生身の人間。ああ……最高の感触です」


 恍惚としながらハーキマーは剣を引き抜くと、そのままがくりと膝をつく。


「ハーキマー!」


 駆け寄ったサザナミが身体を支える。


(ハーキマーさん、ひどい出血!)


 怪我をした足の傷口から、どくどくと大量の血が流れている。


「よくやった、ハーキマー」

「……殿下」

「このまま休んでろ。おまえに死なれたら困る」

「いえ、まだ……終わってない」


 戦おうとするハーキマーを、サザナミは強く押しとどめた。

 このまま戦えば、今度こそ命にかかわってしまう。

 それに、もう動けないだろう。

 早く止血をしなければとラオフィーネが動こうとした時、異変を感じた。


 ーー【ガチャリ】


 闇の法具の弾ける音がした。


「!! みんなっ、気をつけて!」


 まだ終わりじゃない。ガジムは生きている。

 警告を発しながら、ラオフィーネは視線を移す。

 ゆらゆらとガジムが揺れていた。

 ぐったりと(こうべ)を垂れている所を見れば、意識を失っているのだろう。

 操り人形のように、ガジムの身体がふわりと宙に浮いた。


(何かが……起ころうとしている……)


 嫌な予感がラオフィーネの胸を震わせる。

 ガジムが高く高く空へと昇っていく。

 闇が濃くなる。

 星空を遮るように黒雲が広がり始めた。


 ーー"呪いの(コエ)が聴こえる"


 キズナが呟いた。


 ーー"数多(あまた)の魂の聲だ すべての破滅を願っている"


「闇の法具が取り込んだ魂が……破滅を……」


 刹那、ドオオンッと、激しい地鳴りが響く。

 視界の先に、(おびただ)しい数の鎖が乱舞しているのが見えた。

 ガジムを起点にして縦横無尽に伸びた鎖は、海を割り、地底へと突き刺さる。

 海面が大きく波打った。


「いけないっ、逃げなさいラオフィーネ!」

「母さま!?」


 切羽詰まったリーネの様子に、ただならないモノを感じる。


「ガジムの法具が、この世界のあらゆる生命を取り込もうとしている」

「!」

「もう誰にも止められないし、これから世界がどうなるかも分からない。でも……出来る限りのことはやってみるつもりよ。だから貴女は逃げなさい! 私たちが乗ってきた船があるわ、少しでも遠くに、」

「わたしだけ逃げるなんて出来ないよ!」

「お願いよラオフィーネ。もう時間がない、早くーー!」


 嫌だとラオフィーネは首を振る。

 闇の法具がこの世界のすべてを飲みこもうとするなら、どこへ逃げたって変わらない。

 この惑星(ほし)が死ねば、いずれラオフィーネも、他の人間達も生きてはいけないのだから。


(それに……ここで逃げたら後悔する!)


 ふと頼りない篝火(かがりび)の下で、横たわっているハーキマーを見る。

 顔面蒼白で、わずかに上下する胸の動きとともに、掠れた呼吸が耳に聞こえてくる。


(だって、わたしはまだ……何もしてない……)


 そうだ。

 ハーキマーのように全力で戦ってもいない。

 もしかしたら、戦ったところで一瞬で捻り潰されるかもしれない。

 けれど、何もしていないことで、後悔するのは嫌だ。


「母さま、わたしも戦う! わたしは弱いし、役に立たないかもしれない。けど……絶対に逃げたりはしない!」

「ラオフィーネ……」


 ぐっと拳を握って宣言する。

 ふいに、優しい温もりがラオフィーネの肩を包んだ。

 寄り添うように隣に立ったのはサザナミだ。


「ラオフィーネ、俺がそばにいる。大丈夫だーー」

「サザナミ……」


 伝わってくる温もりに余分な力が抜けていく。冷静さを取り戻したラオフィーネは決意する。


「母さま、やっぱりわたしも手伝う。闇の法具を鎮める方法を教えて」

「貴女を巻きこみたくないわ。……あら」


 リーネが驚いたように、サザナミに目を向けた。


「あなた、法具を持っているわね?」


 

 

お読み頂き、有難うございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハーキマーーーーー!!!! ヒーローとヒロインがそれらしくてかなり良いですね。 クライマックスッッッ!!て感じ!! わくわくしますなぁ!! 続きを楽しみに待ってます!! あ、ご無理なさ…
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