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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑥キズナだけ

お待たせいたしました。

ブクマくださった方、ありがとうございます!

 顔を上げたラオフィーネは、軽く絶望を覚える。


(数が多すぎる!)


 ようやくダインが退けた、暗黒の炎が変容した獣だが、今度は四体もいる。

 ガジムの操る法具のチカラは底無しだ。一体どれほどの魂を取り込んでいるのか……。

 ラオフィーネを守るように翼を広げたダインが吠える。


 ーー"(あるじ) 我がひきつけているうちに逃げろ"


「でもっ」


 躊躇っているうちに攻撃の手は迫ってくる。

 ダインに飛びかかる二体の獣。

 あとの二体はラオフィーネを標的にしたようだ。砂の大地を焦がしながら、大きな一歩でこちらに向かってくる。

 (ワンド)の法具を振りかぶり、襲ってくる獣に浄化の光をぶつける。

 しかし、もう一体がラオフィーネに向かって炎を吐いた。


「危ないフィーネっ!」

「ーーっ!!」


 逃げたはずのルオーが走ってきて、炎から庇うように、ラオフィーネを押し倒す。おかげで炎に焼かれることは避けられた。

 二人は柔らかい砂の上をごろごろと転がったあと、止まったところで起き上がる。


「フィーネ、大丈夫かっ!?」

「うん! ありがとうルオー!」


 ひとまず安堵の息を吐くルオー。

 しかし戦いはまだ続いている。

 ラオフィーネは足元に転がっていた杖の法具を拾いあげると、(うな)りを上げる獣とガジムを交互に(にら)む。


「駄目だフィーネ!」

「え、ルオー?」


 ルオーの手が伸びてきて、腕をがしりと掴まれる。


「逃げるぞ。いくらお前が強くても、こんな危険な戦い……あの王子様だって望んじゃいない!」

「それは……」


 ルオーの言う通りかもしれない。

 もしもここにサザナミがいたら同じことを言うと想像できる。

 皆、ラオフィーネ想う、優しい人達ばかりだ。

 でも……と、ラオフィーネは(かぶり)を振る。


「ルオー、心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫なんだよ。だって、あの男に私は殺せない。私の命を奪えるのは……ひとりだけ」


 ラオフィーネはそっと首元に触れる。


(そう、"キズナ"だけだから)


 指先にあたる冷たい鎖の法具。知る者はみな()(いと)う、闇を孕んだ呪いの法具。

 けれどラオフィーネにとっては違う。

 この法具に宿っているのは、イーフやダインのような精霊ではない。もっと人間じみた「心」を、キズナには感じる。

 強さや優しさや憂い、どこか儚くて(ひね)くれたような心が、キズナにはある。

 とても忌み厭うことなんてとても出来ない。そんなキズナに命を奪われるなら、本望だ。

 ラオフィーネは、ルオーの手を外したあと、その(てのひら)に指輪を握らせる。サザナミから貰った「魂の求婚」の指輪だ。


「これ……」

「うん。その指輪を持ってサザナミ達と合流して。渡せば分かるよ」

「でも」

「わたしは、あの男をこのままにしておけない! だってあの男のせいで父さまや、それにヴェーテさんだって酷い目に遭ったから。いくら降霊師(こうれいし)でも人を傷つけるために法具を使うのは許せない!」


 ざくりと砂を踏む音と同時に、ラオフィーネの背中が粟立(あわだ)つ。殺気だ。

 二体の獣を従えたガジムが、ゆっくりと近付いてくる。


「ルオー、はやく行って!」

「っ、……くそッ。気をつけろよ!」


 ルオーが走り出したのを見届けて、ラオフィーネは戦闘態勢に入る。

 

(無事に合流できるといいけど)


 屋敷にいるサザナミ達ことも心配だが、ハーキマーにはイーフを託してある。

 それに一番の脅威であるガジムは此処にいる。普通の人間相手ならば負けないはずだ。

 ラオフィーネは集中する。


「フン……このままじゃ、詰まらねえなぁ」


 そう言ったガジムが左腕を持ち上げたところで、異変に気付く。


「なにを……、あっ!!」


 ガジムの左腕から、まるで生き物のように鎖が伸びていく。ラオフィーネの(わき)を擦り抜けた鎖は、どこまでも伸びていき、背を向け走っていたルオーの片足に絡みついた。


「やめてーーっ!」


 ラオフィーネの悲鳴が夕闇のなかに溶ける。

 急いで駆けつけようとしたところで、二体の獣が前に立ち塞がった。


(このままじゃ、このままじゃ、ルオーがっ!)


 絶対にそれだけは駄目だ。

 自分のせいで巻き込み、挙句、傷つけることなどあってはならない。


「さぁて、どうする?」


 意地悪く、ガジムが嘲笑(わら)う。

 ガジムは鎖を操る。

 逆さまで宙吊りになったルオーは、高く高く空へと持ち上げられる。


「この状態で鎖を解いたら、どうなるかなぁ……ククッ」

「やめてよっ、卑怯よ!」

「卑怯? それがどーした……。オレは生まれながら才能があってな、こうやって闇の法具を取り付けられ、たくさんの人間を殺しては魂を食らい続けてきたんだぜ。欲深い人間の願いを叶えるために生かされ、利用されるだけされたら、ポイだぜ?」

「だとしても、今、人を傷つけて良い理由にはならないよ!」

「フン……もう、それも含めて、どーでもいいんだよ!」

「やめてっ!」


 ガジムの瞳がぎらりと光る。人を殺すことに躊躇いなど微塵(みじん)もないのだ。

 ラオフィーネに向かって、獣が炎を吐いた。


(あつ)っ……」


 なんとか身を(ひるがえ)して防いだものの、肌の表面がひりつく。

 ガジムがルオーを捕らえている鎖を手繰(たぐ)る。


(絶対に……ルオーは助ける!!)


 ラオフィーネに迷いはなかった。叫ぶ。


「ーーキズナ! わたしの願いを叶えて! ルオーを守って!!」


 首元からガチャリと音がした。

 ラオフィーネの持つ鎖の法具。その()っかの幾つかが弾け飛ぶ。

 グッと首が締められる。息が苦しい。


(後悔なんてない。一度だってしたことない。たとえここで、終わったとしても……!)


 ぶわりと漆黒の風が砂を巻き上げると同時に、()()()()()をしたキズナが顕現(けんげん)する。

 ラオフィーネは微笑んだ。

 あの時と同じ……頼もしいキズナの姿。


"馬鹿ヤロウ なんで早く逃げなかったんだ"


 一言目は憎まれ口。

 でも、その瞳はとても優しい。


「キズナ……あと、よろしくね。ルオーを……お願い」


"ああ オマエの願いは叶えてやる だから休んどけ"


「うん……」


"安心しろ オマエはまだ 死なない"


「うん……」


 浅い呼吸の中で、ラオフィーネの瞳が閉じていく。

 初めてキズナの力を使った時も、いつの間にか気を失っていた。

 瞳が最後に映したのは、キズナがルオーを縛る鎖を引き千切(ちぎ)っている姿。

 耳の奥に、ダインの怒りの咆哮が響いてくる。

 隙間を縫うように響いてきた波の音とともに、ラオフィーネの意識は沈んだ。


やっと書けました。

お読み頂きありがとうございます!


この回で、伏線みたいなものは全部書き終わりました。

え、なんで? って思う点もあったと思いますが、少しお待ちください。

来月の完結目指して頑張って書きます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおー。 男前〜。 キズナがヒーローさながらじゃあありませんか。 おや?!ってなったけど謎解き編?まで待ってます!! どきどき待機!!
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