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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑤杖の法具

ブクマくださった方、ありがとうございます!

「ダイン! 力を貸してもらうね!」


 ーー"(あるじ) 無茶だけはするな"


「大丈夫! 早く終わらせちゃおう!」


 さっさと終わらせて、父のことを聞かねばならない。しかし簡単に()じ伏せられる相手ではないことも十分に理解していた。


(それでも負けるわけにはいかないっ)


 ラオフィーネは、(ワンド)の形状をした法具を構える。握った手の内にエネルギーの循環を感じる。

 法具には多種多様な形状と、刻まれた紋様の効果により、内部にエネルギーが循環していた。

 今ラオフィーネが持つ小枝ほどの長さの杖は、持ち手側から先端に向かってエネルギーが流れる仕組みになっている。つまり下から上へ……。

 宇宙ではエネルギーの流れは一方と決まっている。時間が過去から未来へと流れるように。下から上へ。過去から未来へ。始まりから終わりへ。それは(ことわり)でもあった。


 杖の持ち手部分には紫水晶(アメジスト)が、先端には雷水晶(ライトニングクォーツ)が埋め込まれている。法具の中央には「光」の属性を表す紋様が刻印されていたが、ラオフィーネはさらに補修を加え、ダインの……精霊の力を受け取れるようにした。


「どこまで防げるか見物(みもの)だぜーー」


 にやりと笑ったガジムの攻撃が、始まる。

 いくもの燃え盛る暗黒の炎がゴオォと(うな)りをあげて、一直線に飛んでくる。


 ーー"我が ()らい尽くしてやる"


 ダインが翼を(ひる)すと風が巻き起こり、炎の(かたまり)を飲み込んでいく。

 しかし、これで終わりではない。

 ガバリと口を開けたダインは、自らの起こした風を今度は吸い込み始めた。次々と暗黒の炎を丸飲みしていく。


(……お腹壊さなきゃいいけど)


 土の属性の法具に宿るダインには、強力な浄化の力がある。吸い込んだ炎は身の内で打ち消されるはずだが、なにしろ数が多い。浄化にも時間がかかりそうだ。


 ーー"(あるじ) 気をつけろッ"


「分かってる!」


 ダインの飲み込めなかった暗黒の炎のひとつが、ラオフィーネを襲う。

 目の前に迫った炎に向かって、剣で斬りつけるように、(ワンド)を真横にないだ。

 バチバチッ。……シュウゥゥ。

 紫電(しでん)が走り、炎は霧散(むさん)していく。


(やった……!)


 戦いの仕方は学んだが、本物の実戦はこれが初めてだった。ちゃんと通用することにラオフィーネは安堵する。

 杖の法具の威力もなかなかだ。

 紫水晶(アメジスト)の本来の浄化の力は、地の竜であるダインと相性が良い。紫水晶の秘めた力を、ダインが増幅させ、先端の(ライトニング)水晶(クォーツ)から照射させた光は闇を打ち砕いていく。


「やるじゃねえか……」


 攻撃のすべてを防がれたものの、ガジムはこの状況を楽しんでいるように見える。

 ガチャリ。また鎖の(はじ)ける音がした。

 ラオフィーネもダインも油断はしていない。

 この戦いが終わるのは、どちらかが倒れるまで。そう分かっているからだ。


「さっ、そろそろ(カタ)をつけさせて貰うぜ」


 ふたたびガジムが暗黒の炎を生み出していく。


「っ!? なにあれ、大きい!!」


 (ワンド)を右手で構えながら、ラオフィーネは頰に伝ってきた汗を左手の甲で拭う。

 もう日が暮れる刻限なのに、外気は真昼のような熱をおびている。ガジムが生み出した炎のせいだった。

 燃え盛る大きな塊がふたつ。

 何かおかしいと思ったときには、炎の表面が逆立ち、四肢のある獣の姿へと変化(へんげ)する。

 ダインの気合いの入った咆哮が空気を振動させる。強く羽撃(はばた)き、獣の首根にダインが噛みつく。

 しかしもう一頭の獣が飛び上がり、ダインの翼を鋭い鉤爪(かぎつめ)で切り裂いた。


「ダイン!!」


 このまま黙って見ているわけにはいかない。


(あの男を止めなきゃ!)


 ラオフィーネは(ワンド)を振りかざす。

 先端から生まれた幾筋もの紫電が、空気を伝ってガジムに襲いかかる。


「そんな、ちんけな攻撃じゃオレは殺せないぜ」


 鎖の法具が、ガジムの盾になるように全身に巻きつき、ラオフィーネの攻撃を受け止める。

 バラバラと盾になった鎖が炭屑(すみくず)となり、ヒュウゥと不思議な音を立てて舞い散っていく。まるで鎖に閉じ込められていた霊魂が嘆いているようだ。


「まだまだっ、これからだよ!」


 ラオフィーネは(ひる)むことなく攻撃を繰り出し続ける。


(そのうち、絶対に隙ができるはず!)


 杖から放電される浄化の光が、ガジムの鎖の法具を少しずつ砕いていく。

 一方、ダインも負けてはいない。

 獣の首を噛みちぎり、もう一体の獣に体当たりをする。ダインの傷付いた翼は既に修復されており、力強い羽撃(はばた)きも変わらない。


(だけど、このままじゃ駄目なんだ……!)


 闇の法具を壊すことは容易ではない。そんなことが出来る者は、ガジムと同じ「降霊師(こうれいし)」や「巫女」だけだろう。いくら法具に精通しているといっても補修師ではやはり力不足だ。攻撃はひとつも効いていない。

 ラオフィーネは焦りを感じ始めた。


(せめて、イーフがいてくれたら)


 此処にはいないダインと(つい)の精霊のことを思う。

 特にイーフは攻撃に特化している精霊だ。ダインと一緒にいることで、さらに力を増幅できる。

 しかし、今はそんなことを思っても、なんの解決にもならない。


(考えなくちゃ! どうすれば良いか!)


 ーーガチャリ。


 また、ガジムの闇の法具が音を立てた。



お読み頂きまして、有難うございます!

まだまだ続きますので、宜しくお願いします!

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