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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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④海辺での攻防

 太陽が赤い光を放っていた。

 夕暮れだ。

 ラオフィーネは、ルオーに誘われるまま、食事をしたり買い物をしたりなど、カスファールの港町を満喫した。

 王都にはない珍しい色の反物(たんもの)や楽器、肌身離さず身につけておけば願いが叶うという小さな鈴や、古本市まであって、見ているだけでも時間を忘れてしまいそうになる。

 だが、今は心から楽しむ余裕がない。


「大丈夫かな。サザナミたち……」


 すぐそこに海が広がる砂浜を歩きながら、ラオフィーネは呟く。すると前を歩いていたルオーが振り向いて言った。


「もしかして疲れさせてしまったか?」

「ううん。疲れてないよ。平気」

「なら良かった……」


 安堵して微笑むルオーを、ラオフィーネは見上げて思う。


(ルオーは……わたしのことを好きだから、きっとこんな場所まで付いてきてくれたんだよね)


 カスファールの港町に興味があるのは嘘ではないだろう。でも、それ以上に、ラオフィーネのことを想い、放っておけなかったからこそ、ルオーは一緒に来る選択をしたに違いない。

 ついこの間まで一緒に露店で働いていた時が、なんだか遠く懐かしく思えてしまう。

 胸が痛い……。

 ルオーの優しさに。そしてルオーの気持ちに応えられないことに。


(返事は後でで良いって言われたけど、わたしの心はきっと変わらない)


 サザナミが好きだ。

 これから先の未来、たとえ一緒にいられない日が来るとしても、多分ずっと好きでいる。

 それに「守りたい」と心から思う。

 サザナミの命を脅かそうとする者達。傷ついたり苦しんだりすることのないよう、持てる力の全てで守ってあげたい。

 だから離れている今が不安だ。

 命と同じくらい大切な法具を預けてきたが、本当はそばにいたかった。

 今頃、どうしているだろうか……。

 斜陽(しゃよう)が眩しくてラオフィーネは目を(すが)める。その時だった。


 "ーー(アルジ)ッ 後ろだ!!"


 左手がビクリと揺れた。

 ダインが警告とともに竜鳥(ドラゴン)の姿で飛び出していく。

 急いで背後を振り返る。

 そこにいたのは、あの闇の属性の降霊法具を持った男。ガジムだ。

 薄ら笑いを浮かべたガジムから放たれている殺気。

 ガチャリと鎖が弾ける音がした。

(まずい!)

 ラオフィーネは身構えた。

 盾になるように、ダインが翼を広げる。


「ルオー、逃げてっ!!」

「で、でもっ……」

「危険だから! 早くっ!」


 ガジムは降霊法具によって黒い竜巻を起こす。渦巻く上昇気流は、さらに辺りの砂塵を飲み込んでふくらみ、ラオフィーネに迫ってくる。


「ダイン!!」


 "ーー我に まかせよ"


 ダインが咆哮(ほうこう)をあげて、大地を踏みつける。

 一瞬、寄せた波が停止したように見えた。

 しかし、すぐに変化は訪れる。

 驚くことに砂の大地に裂け目が走った。さらに大地の一部が隆起し、竜巻の進路を(はば)む。


 ーーガチャリ……。


 また重い鎖が切断される音がした。


(次の攻撃は一体なにっ!?)


 ラオフィーネは歯噛みする。

 容赦ないガジムの攻撃を防ぐだけで、今は手一杯の状況だ。


(周りの人を巻きまないようにしないと!)


 ここがまだ人気の少ない海辺で本当に良かったと思う。法具による攻撃はどうしても規模が大きくなってしまう。

 そのためラオフィーネも周囲の状況を考え、防戦だけで思いきり戦うことができないでいた。


「いつまで逃げているつもりだ? ククッ……」

「そんなに戦いたいなら、時と場所を選びなさいよねっ!」


 文句を言うが、ガジムはお構いなしに次の攻撃に移っている。降霊法具の力を使い、今度は暗黒の炎をいくつも生み出している。


(なんて強大な力……。うん、やっぱり間違いない、あの男は多分ーー「降霊師(こうれいし)」なんだ!)


 ただの法具使いであれば、こんなに闇の属性の法具を乱用しない。命に関わるからだ。使えば使うほど、己の命を短くしてしまうという危険を孕んでいる。

 しかし目の前の男は違う。

 なんの躊躇いもなく、続けざまに法具の力を使っている。

 そんなことが出来るのは「降霊師」以外にいないと、ラオフィーネは確信する。


(この大陸に「降霊師」はいないはずなのに!)


 降霊師とは法具発祥の大陸では尊ばれる存在……降霊法具の「作り手」のことを指す。女性であれば「巫女」と呼ばれることもある。

 儀式を通して、過去、未来、次元すらも飛び越え、あらゆる霊的存在(スピリット)への接触と、波長の合う法具を依代に宿らせることができる。

 ラオフィーネの持つ降霊法具も同じだ。

 降霊師が遥かに太古に存在していた天と地の竜鳥……イーフとダインの霊的エネルギーに接触し、その力を法具に宿らせたのだ。


(それにしても「降霊師」と「闇の属性の法具」って……厄介な組み合わせだよ)


 降霊師は、己の力によって際限なく霊的存在を呼びだすことができる。

 そして闇の属性の法具の特異な点としては、イーフやダインのような精霊だけでなく、かつて実際に生きていた人間の魂までも取り込むことができた。

 ラオフィーネの首にある鎖の法具も、闇の属性の降霊法具だが、力を使うほどに鎖は短くなっていく。

 しかしガジムは降霊師で、いくらでも人の魂を呼び出して法具を再生させることができた。

 つまり、一番厄介な敵というところだ。


 "ーー主 攻撃にそなえよ"


「わかった!」


 ラオフィーネは空中を睨む。

 数にして十以上、しかも人の半分はあるくらいの暗黒の炎が、ガジムの周りに浮いていた。もしもアレを食らってしまったら無事では済まない。それにダインだけで防ぐには厳しい数だ。イーフがいたら連携も取れるが、相棒は別な場所にいる。


(ダインだけに任せるわけにはいかないっ! それに、どうにかあの男を倒して、父さまの居所を探らなきゃ!)


 ラオフィーネは懐から(ワンド)の法具を取り出した。


お読み頂きまして有難うございます!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] バトルターンキターーーー!! 宝具同士での戦闘!! どんな攻防があるのか楽しみです!! (ハーキミスト的にはあの戦闘狂にも戦わせてあげて欲しい笑) いやぁ、わくわくしますね!! 続き楽…
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