③「相応しくない」
お待たせしました。
短いです。すみません。
「お父さま、ちゃんと約束を守ってくれたようね」
部屋に入り、ルイゼは満足気に言った。
ここには今、サザナミ、アウグスト、ハーキマーが軟禁されていた。
武器は取り上げられ、縄で拘束されたあと、殴る蹴るの繰り返しで大人しくさせたようだ。床にぐったりとした様子で転がっている。
だがそれはアウグストとハーキマーだけで、サザナミはソファの上で意識を失っていた。
ルイゼは父にくれぐれもサザナミだけは傷つけないで欲しいと懇願していた。その約束はちゃんと果たされたらしく、王子殿下の美しい顔はそのままだ。
うっとりと眺めていると、床から嘲笑が聞こえた。
「残念ながら……殿下は、貴女のことを、塵ほども愛していませんよ」
「!!」
アウグストだ。
血が滲んだ唇の端をつりあげ、哀れむような眼差しでルイゼを見上げている。
「……それに貴女のような人間は、殿下には相応しくない」
「うるさいわねっ!」
ルイゼは逆上する。
「わたくしの邪魔をしないでちょうだい!」
踵を鳴らし床に転がるアウグストに近づくと、ルイゼは容赦なく尖ったハイヒールの爪先で蹴りつける。
「グッ……」
横っ面を蹴られた衝撃で、アウグストのかけている眼鏡が吹っ飛んでいく。
それをグシャリと踏み潰したのは、ルイゼと一緒についてきたガジムだった。
「ガジム! この薄汚い男を黙らせて!」
「へーい……」
軽い返事とは裏腹に、ガジムの目がギラリとした光を帯びる。
意識が朦朧としているアウグストの髪を鷲掴んで、力の入らない身体を無理やり持ち上げる。
「うっ……ぐぅっ……」
浅く漏れた呼気は苦痛に染まっている。
ガジムは、にやりと笑いながら舌舐めずりしたあと、宙ぶらりんになったアウグストを床に叩きつけた。
意識は完全に閉じてしまっただろう。アウグストはぴくりとも動かない。
しかし一度燃え上がった炎が簡単に消えないように、ガジムの闘争の昂りはおさまらない。
今度はアウグストの首を片手で掴みあげる。
「クククッ、骨をひとつずつ折ってやろうか……それとも……」
愉快そうにガジムが思案していると、床に転がっていたもうひとつのかたまりが動いた。
騎士のハーキマーだ。
剣は既に奪われ、両手を身体の後ろで縛られていたが、膝から下の自由を上手く活かして立ち上がると、体重を思い切り乗せて、ガジムに体当たりする。
意識にないアウグストが、ふたたび床に伏せる。
ハーキマーが足で器用にアウグストを転がし、庇うように傍らに立つ。
「悪いが……、骨を折るのが好きなのはオマエだけじゃないんだぜ」
「お前……」
見た目はボロボロのハーキマーだが、その瞳は、生命力に溢れている。
命を押収する戦い。
精神も肉体も磨耗するような戦いに喜びと充足を感じるハーキマーの存在は、ガジムにとって同族に近く、どうやら鼻についたようだ。標的をあっさり乗り換える。
「気に入らねぇ」
ガジムは首から自身の足首にまで、何重にも垂れ下がる鎖状の法具を手にする。
これからどんな攻撃がくるのか。予想もつかない。
ただ拘束されているハーキマーのほうが不利だ。
「ガジム……面倒だから、殺しては駄目よ」
「半殺しならいいだろ」
一方。ルイゼはアウグストが大人しくなったことで溜飲を下げた。
ガジムに忠告をしたあと、ソファに横たわるサザナミのもとへ足を向ける。
自身もソファに腰掛けると、膝の上にサザナミの頭を乗せる。
眩い輝きを放つサザナミの金色の髪を梳き、そのまま細い指を頰に滑らせる。
わずかに爪を立てて引くと、王子は瞳を閉じたまま身動ぎした。
うっとりとしながらルイゼは、そのまま上体を屈めて、口付けをしようとする。
しかしサザナミの薄く開いた唇が弧を描く。何か良い夢でも見ているのだろうか。
「ラ……オ、……フィーネ…………」
ルイゼは凍りついた。
「殿下……どうして今……あの庶民の娘の名前を……」
屋敷に来た時からおかしいとは思っていた。
何故、法具補修師風情が、王子殿下と同行しているのかと。
しかもお互いを見る瞳にこもる感情は、ただの知人に向けるものではないと思った。
「っ……やっぱりそうなのね……、許せない」
ルイゼは悲鳴をあげるように、ガジムを呼ぶ。
「ガジム! ガジム! あの小娘をどうにかなさいっ! 早くっ、今すぐにっーー!」
闇の属性の法具でハーキマーを打ちのめしていたガジムだが、ルイゼの声に驚いて振り向く。
ここまで取り乱した姿を見たのは初めてだった。
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