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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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①ルオーの気持ち

お待たせしました。

新章になります。

 お茶やお菓子といった、ルイゼのもてなしを堪能したあと、感謝の言葉を告げてラオフィーネは屋敷を後にする。


「ラオフィーネさんも、屋敷に滞在するのだとばかり思ってましたわ!」


 そう言ってルイゼは残念そうな顔をした。

 本心はどうか分からない。

 何事もなければ、ラオフィーネも滞在するつもりでいた。

 けれどアウグストからの指示を受けた今、一刻も早く、自然な形で屋敷を出なければいけない。


「カスファールには同じ露店商の友人ときていて、一緒に港町を観光しようって話していたんです」

「まあ、ご友人と。……残念ですが、それは仕方ないですわね」


 ルイゼは、行方不明の父のことが何かあれば連絡すると言ってくれた。

 あっさりと屋敷を出れたことに、ラオフィーネはひとまず安堵する。

 屋敷の門を出たところで、大きな街路の右と左のどちらに進めばいいか悩んでいると、声がした。


「フィーネ! こっち、こっちだ!」

「ルオー!?」


 等間隔に連なる植樹の間から手を振っているのは、一緒にカスファールに来たルオーだ。


「どうしてここに?」

「アウグストさんから言われてたんだ。もしもの時のために……。んで、様子を見てたってわけ」

「そうだったんだ。ありがとう!」

「……状況はあまり良くないって感じだな?」

「そうみたい。アウグストさんからは部隊と合流するようにって」

「そっか……」


 ルオーも事情を知る者のひとりだ。

 彼が歩き出したので、ラオフィーネも横に並んで歩いて行く。


「つけられてたらマズイから回り道して行こうぜ?」

「うん。……ルオーは道分かるの?」

「地図はだいたい頭に入れてきた。それに、オレ小さな頃一回だけ来たことあるんだ。ちょっと記憶ある」


 それに部隊の潜伏先についても、アウグストに教えてもらったと言う。


「どうせお偉いさんのことは、オレ達がどうこう出来る問題じゃないんだ。観光がてらフィーネの親父さんの情報集めようぜ」


(やっぱり頼もしいな、ルオー)


 もしも今、ルオーがそばにいなかったら、確実に心細い思いをしていただろう。

 面倒見の良い性分もあり、出会った時からずっとルオーには助けてもらってばかりだ。


「カスファールについてきてくれて、ありがとうルオー!」


 改めて感謝を言葉にすると、ルオーはいつものように「おぅ!」と笑顔で言った。




 真っ直ぐ、どこかに続く幅広い石畳みの街道を進んでいると、徐々に人が増えてきた。


「この道の先って、もしかして」

「港町」

「ルオーの行きたかった場所だね!」

「そう。それに人混みのなかなら危険も少なくなるしな。もうすぐ下り坂になる。海も見えてくるはずだぜ」

「……海!」

「ははっ、オレも楽しみ!」


 潮の匂いが強くなる。

 すれ違う人、同じ方向を目指す人達、荷馬車の往来も増え、賑やかな街の空気を感じる。


「フィーネ、はぐれんなよ」

「うん……、わわっ」


 人の波に慣れていないせいか真っ直ぐ歩けない。

 足踏みばかりしていると、脇からルオーの大きな手が伸びてきて、ラオフィーネの右手を掴んで導いてくれる。


「大丈夫だ。しばらく、こうしてるから」

「う、うん……」


 しっかりと手を繋がれる。

 直接伝わってくる体温にすこし戸惑ってしまう。

 まっさきに思い浮かべたのはサザナミのこと……。


(サザナミ、今、どうしてるのかな?)


 つい数刻前までは一緒だった。

 次に顔を合わせるのは、いつになるだろう。

 サザナミは今、自分の背負っているものと戦っている。そばにいてラオフィーネが出来ることはない。


(でも、わたしに出来ることは全部した)


 イーフをハーキマーに託したのだ。いざというときに、助けになってくれると信じている。


「フィーネ、見てみろよ」

「うん?」


 顔を上げる。たくさんの人の隙間から視界に飛び込んできた景色。


「う、海だぁ……!!」

「すげー!」


 陽の光にきらきらと輝く青色が、遠くに広がっている。

 足を止めたルオーと一緒に、初めて目にする景色にラオフィーネは暫くの間、見惚れていた。


「フィーネ……」


 横を向くとルオーの顔が近くにあって吃驚する。


「このままさ、誰も追ってこないような所まで、一緒に行かないか?」

「え……」

「っていうのは、冗談だけどさ」

「な、なんだぁ」


 ラオフィーネは脱力するが、ルオーは逆に真面目な表情をする。


「オレ……ただ聞くだけで何も言わなかったけど、おまえさ、これからどうするつもりだ?」

「なにを?」

「あの王子様のこと」

「…………」

「好きなんだろ?」

「……うん」


 好きか? と問われたら「好き」だ。

 ラオフィーネは素直に頷く。


(サザナミはわたしにとって特別な人だから)


 今なら分かる。お互いにお互いのことが、出会った瞬間から特別な存在になったんだと。


「オレさ、王子様に頼まれたんだ。自分に()()()の時があったら、「ラオフィーネを頼む」――ってさ」

「!!」

「最初は疑ってたけど直接話してみて納得した。()()()()本気でフィーネのことが好きなんだな」

「サザナミが、そんなことを……」


 そうだ。サザナミはそういう男だ。

 いつもラオフィーネに危険が及ばないように配慮し、ラオフィーネを救うためなら、己の魂すら喜んで差し出すのだ。

 ――苦しい。胸の奥が。

 サザナミが好きだ。

 締めつけられるような痛みを覚えるくらい、サザナミのことが好きだ。


「王子様の言う……「もしもの時」ってのがくるのは、今なのか、それともずっと先のことになるかは分からない。だけどな、」


 突然、繋がれている手を引っ張られて、ラオフィーネはルオーの身体に密着する体勢になってしまう。


「ル、ルオー!? ちょっと……!」


 離れようとすれば腰のあたりに腕を回されてしまう。サザナミよりも長身のルオーは、身を屈め、真剣な眼差しでラオフィーネの顔を覗きこむと言った。


「――オレだってフィーネのことが好きだから、王子様のかわりなんてゴメンだ。フィーネには、ちゃんと望んで、オレの側に居てもらいたい」

「……ルオー、それ……って、……えぇっ!?」


(ルオーが、わたしのことを……好き)


 ラオフィーネが驚くと、ルオーは顔を真っ赤にして苦笑いを浮かべる。


「気付いてなかったろ」

「う、うん。ごめん……」

「"ごめん"て言うのヤメロ。失恋したみたくなんだろーが」

「だって……」

「オレだって、最初から意識してたわけじゃないんだぜ。フィーネははじめから「結婚なんてしない。一人で生きてく」って言ってたし……」

「そ、そうだね」

「だからオレ、諦められたんだけどさ、……いきなり王子様から指輪なんてもらってるし」

「ご、ごめ」

「だからゴメンって言うな」


 ルオーは、ひとつ深呼吸をして、一歩ぶんだけ後退する。


「……はぁ、やっと言えてスッキリした」

「ルオー」

「おぉ。返事は後ででイイや。ちゃんと全部終わって、オレとのこれからのことも考えてからで。……な?」

「うん、分かった」


 ラオフィーネは頷く。

 今は、何も言わないでおこう。


(ルオーごめんね。ルオーの気持ちに気付いてなくて、わたしはルオーのこと、友達として大好きだよ)


 ラオフィーネは、心のなかで謝罪した。




お読み頂きありがとうございます。


次は場面が変わります。

宜しくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] ルオーいいやつ!! こんなに爽やかだと応援したくなってしまうわ……
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