⑨伝えたいこと
最新話、改稿しました!
だいぶ変わっています。読んで頂いていた方、すみませんでした。
サザナミの婚約者候補。
口振りから察するに、他にも候補者は何人かいるようだが、その誰もが身分の高い令嬢や姫君に違いない。
「……うん。わかった」
ラオフィーネは、こくりと頷く。
それ以外に返事のしようがなかった。
胸中がざわざわと揺れている。
このところ、ずっと考えていた「不安」がまた顔をのぞかせる。
ラオフィーネの抱える「不安」とは、"いつかサザナミが心から好きだと思える女性と出会い、ラオフィーネに求婚をしたことを後悔するかもしれない"、という可能性だ。
しかし、話の展開は思わぬ方向へと進む。
「問題なのは、カスファール領主は、俺を疎ましく思っているということだ」
「疎ましく?」
「ああ。ヴェーテに俺を害するように指示をしたのは、カスファールの領主だ」
「あっ!」
そうだ。
王城の法具補修師のヴェーテは、サザナミに呪いをかけた実行犯だ。
ヴェーテはカスファールの出身。
そして身内を盾にとられ、王城で働いているのを利用された。しかも計画が頓挫した時のために、ヴェーテの口から黒幕の名が出ないように口封じの術まで施していたのだ。
そのせいで今ヴェーテは昏睡状態のまま。
あまりにも悲しい出来事だ。
「表向きは今回の視察を歓迎するだろうが、腹の底は違う。俺に早く消えてもらいたくて仕方ないはずだ。婚約者候補の令嬢からも、好意的な手紙が頻繁に送られてくるが、それもすべて心にもない嘘だ」
サザナミが、どこか諦めたような苦笑いを浮かべる。
「そもそも……俺にあてがわれた婚約者候補は、全員、俺と敵対する者の息がかかっているんだ」
「そんな……」
逆にラオフィーネは言葉を失う。
ということは、これからサザナミは敵陣に乗りこみ、いつ命を狙われてもおかしくない状況になるということだ。
「俺と一緒にいることで、ラオフィーネを危険に巻きこむかもしれない。だが君のことは必ず守る。父上のことも必ず探しだす。……だから、安心してくれと伝えたかったんだ」
サザナミの真摯な眼差しに喉の奥が詰まる。感情が溢れだしてくる。
自分の命が脅かされているというのに、ラオフィーネのことばかり心配してくれる。
(わたし、サザナミに、こんなにも愛されている)
否定できないほどのサザナミの想いをラオフィーネは感じていた。
ぐい、と優しい力で腕を引かれ、そのままサザナミに抱き寄せられる。
すっぽりと収まった温かな腕のなかで、ラオフィーネは自分の気持ちを自覚する。
(好き。ずっと特別だった……)
思いおこせば、ラオフィーネもずっとサザナミの存在を心の中に置いていた。
幼い頃、一度しか会ったことのないサザナミに、心の中で何度も話しかけていた。
元気でいるだろうか。体調を崩していないだろうか。「おはよう」や「おやすみなさい」も。時に辛く感じるときには、離れた場所で頑張っているだろうサザナミを想像し自分を鼓舞してきた。
ラオフィーネにとって支えになってくれた人。
「ーー大丈夫だ。俺がついてるから」
さらりとサザナミの髪が頰を撫ぜる。
額に一瞬だけ柔らかな感触。
口付けされたのだと、すぐに分かった。
二度目でも、心臓が痛いくらい跳ねあがる。
またぎゅっと抱きしめられれば、今まで感じた事がないくらい幸せな気持ちが広がっていく。
(このままずっと一緒にいれたら良いのにな)
そんな願いまで抱いてしまう。
王子と庶民であれば、叶わない話だと分かってはいるけれど……。
ごほん、とタイミングを見計らったように咳払いが聞こえた。
「あの、そろそろ宜しいでしょうか、殿下……」
「アウグストか」
まったく気付かなかったと驚くラオフィーネ。
(全部……見られてたっ!?)
気不味い。それに恥ずかしすぎる。
しかしアウグストは淡々と要件だけを告げる。
「先程、カスファールに潜入していた先行部隊から連絡がきました」
「そうか。すぐに聞こう」
サザナミの顔が引き締まる。
心なしかアウグストの顔も険しい。
何かあったのかもしれない。
「ハーキマー、ラオフィーネを頼んだぞ」
「御意に」
ラオフィーネと護衛騎士のハーキマーを残し、去っていくサザナミ。
まだ先程の口付けの感触が残っている。
「殿下と、仲良いですね〜」
「そっ、それは、そのっ……」
「あはは。いいんですよ。オレは殿下とラオフィーネさんの味方ですから!」
「そ、そうですか……」
「ラオフィーネさん、オレ、お願いしたいことがあるんですが」
「お願いしたいこと?」
首を傾げるラオフィーネ。
「ラオフィーネさん、オレと手合わせしてくれませんか?」
「ええっ!? 手合わせ!?」
「はい! オレと戦ってください!」
ハーキマーは満面の笑みで言った。
お読み頂き、有難うございます!




