⑧同行者
長くなりそうだったので、途中できりました。
外からサザナミの声がした。
「ラオフィーネ、開けても大丈夫か?」
「あっ、はい! 大丈夫!」
(話の続きはまた後でねっ、キズナ!)
首に巻きついている鎖の法具に触れながら、ラオフィーネは返事をする。精霊達に不安な胸中を打ち明けたおかげか、今はスッキリした気分だ。
(そうだよ! わたしが今一番に考えないといけないのは父さまのこと! それが片付いたらサザナミのことやキズナのこと……たくさん考えよう!)
ラオフィーネは気持ちを切り替えることにした。
今は行方の分からなくなった父を探すため、カスファールに向かっている。
本当は一人で行くつもりだった。
けれど今は色んな人達がラオフィーネのことも考えて動いてくれている。旅をしたことのない身としては、心強く、有難いことだと、心から感謝している。
だからこそ目的にたいして集中しなければ……。
「近くに湖があるんだ。此処で休憩にしないか?」
馬車の扉を開けたサザナミが、そう言って大きな手のひらを差しだす。
「……湖!? わたし見るの初めて!」
「なら良かった。カスファールには海もあるしな。父君のことは心配だろうけど、息抜きもしながら行こうな?」
「うん。……ありがとうサザナミ」
どこまでも優しい王子の手に、そっと自分の手を乗せると指先をきゅっと握られる。
「……ラオフィーネ体調はどうだ?」
「え? 元気……だよ?」
「この季節だから寒くはないと思うが、指先が冷たいな」
「じっとしているから運動不足のせいかも」
「運動不足……」
サザナミにエスコートされて馬車を降り、真昼の明るい陽射しのもとを歩く。季節は夏だが、吹いてくる風は水気を含み、ひんやりとしている。
「……寒くないか?」
「平気だよ。風が気持ちいいし、森や街とは違う香りがして新鮮!」
「そうか。ここを休憩場所にして良かった」
手を引かれて歩いているうちに、サザナミの体温が徐々に冷たかった指先を温めていく。
こうやって肌が触れ合っていたり、一緒にいると落ち着かない。求婚前も裸足で外にいたラオフィーネを抱き上げたり、頭を撫でられたりはあったものの、言葉と行動で「好き」だと示されてしまうと、サザナミのことを一人の男性として意識してしまう。
(わたしの、心臓がもたない……)
高鳴る鼓動を落ち着かせようと必死になっていると、離れた場所からラオフィーネを呼ぶ声がした。
「おーい、フィーネー!」
「あっ、ルオー!」
馬上からこちらに向けて手を大きく振っているのは露店で一緒に働いていた青年……ルオーだ。
ラオフィーネの身の上を知る数少ない者のひとりである彼は、実は今回のカスファール行きに同行していた。
生誕祭での仕事を終え、カスファールに行くための準備をするため一度実家に戻っていたラオフィーネは、ルオーの店にも顔を出していた。
露店に突然現れたアウグストに連れられていったきり戻ってこないラオフィーネのことをルオーは心配し、引き止めるべきだったと責任を感じていた。
城での出来事を打ち明け、カスファールに行くと告げると「オレも一緒に行く」と言い出した。
ルオーの実家は商会をしており、以前からカスファールの港町に興味を持っていたらしい。
(ついでに……って言ってたけど、本当は世間知らずなわたしを心配してるんだろうなぁ)
手を振りかえしながら、ラオフィーネは思う。
これまでルオーの面倒見の良さに色々と助けられてきた。
ラオフィーネが小遣い稼ぎをしていた露店には、さまざまな客がやってくる。
酔っ払いや、冷やかしや、不道徳な誘いを持ちかける者など。働き始めたばかりの頃は、そういう迷惑行為をどう遣り過ごそうか困ることが多かった。しかし、そんな時いつも助けてくれたのはルオーだった。
ラオフィーネに兄弟はいないが、ルオーといると「お兄ちゃん」がいたらこんな感じなのかな? と思うことがあった。
「ずいぶん、仲が良いんだな」
ラオフィーネの手をぎゅっと握りこめたサザナミが言う。
「うん。仕事仲間だしね」
「仕事仲間……」
「それに、お兄ちゃんみたいな感じ?」
「お兄ちゃん……」
一瞬、可哀想なものを見るような目でルオーを眺めるサザナミ。
「誰にも渡したくない」
「え?」
「いや、なんでもないよ。さあ行こうか」
すぐにいつもの笑顔に戻ったサザナミと湖のほとりまで歩く。
そこには敷布がひかれ軽食とティーセットが準備されていた。近くにはサザナミの専属護衛のハーキマーが控えている。彼が用意したに違いない。
今回のカスファールの視察に同行しているのは、アウグストとハーキマー、あとは御者に、ラオフィーネとルオーがくっついている程度だ。アウグストが組織している部隊は先行してカスファールにて待機している。
その為、雑事のほとんどをハーキマーが担っている。
ラオフィーネは自分の事は自分でできるが、こうやって食事の用意をしてくれたり、宿場を手配してもらえるのは有り難かった。
「ハーキマーさん、わざわざ有難うございます!」
「いえいえ。大したものが用意できなくてすみません。……あ〜、野盗に襲われなくて残念」
「えっ!?」
「ハーキマー、いつどこに敵は潜んでいるかわからないんだ。気を抜くなよ」
「もちろんです! いつでも戦う心構えはできてますから、殿下達はゆっくり楽しんでくださいね!」
意気揚々と護衛に勤むハーキマーに見守られながら、昼食をとる。
シャキシャキの新鮮野菜がはさんであるサンドイッチや、この時期に豊富に採れる果物などでお腹をみたす。
不慣れな手付きでラオフィーネが紅茶を淹れると、サザナミが嬉しそうに飲んでくれた。
「話しておきたいことがあるんだが、聞いてくれるか?」
紅茶を飲み干し、カップを置いたサザナミが真剣な様子で言った。
はい、と返事をしながらラオフィーネも姿勢を正す。
(大事な話……なのかな?)
サザナミの真っ直ぐな視線を受け止めながら思う。
「これから俺達が滞在するのは、カスファールの領主の屋敷だと言っただろ?」
「はい」
「その……領主のひとり娘のことなんだが……」
「うん?」
「俺の……婚約者候補として名が上がっているんだ」
「!!」
驚いて、ラオフィーネは言葉を失った。
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