⑤王子の心〜再会〜
ブクマくださった方、有難うございます!
第一章の「闇色のキミ」部分が、少し被っている内容です。
夢かと思った。
目の前にラオフィーネがいる。
もう長くないサザナミの命を憐れだと、運命の糸をひくものが最後に見せてくれた幻かと思った。
でも違った。本物だった。
アウグストが連れてきてくれたのだ。
嬉しいけれど危険なことに巻き込むなとサザナミは叱責する。
(ラオフィーネ……そこに、いるのか?)
サザナミはうっすら瞼をあける。
呪いを受けてから陽の光が体に障った。
だからわざと室内を暗くしていたことで、闇のなかでも目が利くようになった。
「殿下。もう少しだけ頑張ってください」
ラオフィーネの声だ。
軋むような命を削る痛みと違うもので、胸が締め付けられる。
閉じていきそうな意識の淵で、サザナミの口から漏れでる言葉。
「サザナミと……」
「え?」
「殿下じゃなくて、サザナミと呼んで」
「……サザナミ?」
もう指一本も動かすのが億劫だったはずなのに、目の前のラオフィーネに向かって腕を持ち上げていた。
痛みに霞んでいく視界。
腕を彷徨せ、ようやくラオフィーネの黒髪に触れる。
(ああ、もっと早く再会できたら良かったのに)
成長してさらに美しくなった姿を、もっと明るいところで見たかった。
もう叶わないのか……。
ぽたりと、雨粒のようなものが頬にぶつかった気がした。
「お願い……まだ諦めないで」
「ラオフィーネ?」
「せっかくまた会えたんだから、このまま死んじゃダメだよ……」
(ああ、やっぱり好きだ)
ラオフィーネと共に過ごした時間は極僅かだというのに、サザナミの心のなかにはずっと彼女がいた。
だから誰よりも特別だった。
(俺が生きることを望んでくれるんだな)
「うん。……うん、わかってる。泣かないでラオフィーネ」
「泣いてなんか……」
哀しませたくないという気持ちと、このまま死んでも構わないという気持ち。
そしてサザナミは意識を失った。
目が覚めると真夜中になっていた。
身体の不調が嘘のように消えている。ラオフィーネの活躍で、サザナミにかけられた呪いは解かれた。
寝ずにずっとそばについていたアウグストとハーキマーにも疲労の色が見えた。
苦労をかけてしまったことを申し訳なく思いながら、今夜はゆっくり休むようにと命じる。
(俺はまた助けられたんだな)
サザナミは歯痒く思う。
本音では自分のほうがラオフィーネのことを守ってあげたいのに……。
「会いたいな……」
今夜ラオフィーネは城に逗留しているが、明日になれば帰ってしまう。
もし会いにいくなら今しかない。
今頃ラオフィーネはどうしているだろうか?
先ぶれもなく部屋に行ったら迷惑だろうか?
(いや、もうとっくに寝ている可能性の方が高いな)
ならば一目だけでも、とサザナミは思う。
(顔を見るだけなら許されるだろうか)
王子であるサザナミを咎める者はいないだろう。しかし未婚の女性の部屋に行くことは、決して望ましい行動とはいえない。
だけど会いたい……。
頭ではぐるぐる悩みながらも、サザナミ足はラオフィーネのいる部屋に向かって歩いていた。
周囲に誰もいないことを確認したあと、そっと扉をあけた。
足音を殺して寝台に近づいていくと、穏やかな呼吸が聞こえた。
ラオフィーネが眠っている。
一瞬、小さな灯火が、ゆらりと大きく揺れ動く。
「――!!」
何もない空間に浮かびあがるように現れた二つの影。
アウグストに聞いていて心構えはしていたが、重たく変化した空気にサザナミは息を飲む。
"主に何のようだ!"
"不埒な行為は 我がゆるさぬ!"
二つの影は、人間の男のような姿をしていた。
(降霊法具の精霊……!)
サザナミにも知識はある。
降霊法具とは普通の法具とは違い、精霊が宿っており、法具補修師でも一生に一度出会えるかどうかの代物だという。
だが過去、サザナミはラオフィーネの操る降霊法具の力によって助けられていた。
「……名は、イーフとダインだったか? 俺を助けてくれただろ、感謝する……」
そしてサザナミは眠るラオフィーネの首に、鎖状の法具を見つける。
(俺を救った法具だ)
触れた瞬間、精霊があらわれる。
――"久しいな か弱き少年"
精霊につけられた名は「キズナ」と言った。
闇の属性の降霊法具。
サザナミは、キズナから衝撃的な真実を聞かされる。
"おれは 命と引き換えに どんな願いも叶える法具だ"
「――なんだって!?」
つまりキズナに願いを叶えてもらうということは、命を捧げるということ。
幼いラオフィーネは、そのことを知らないままキズナを手にして、サザナミを救った。
(俺は……俺のせいでっ!)
激しい後悔の念に襲われる。
ラオフィーネの父もとっくに知っていたはずのに、何も教えてくれなかった。
(そうか……だから、ラオフィーネにも会わせてもらえなかったのかもしれない)
普通に考えて嫌だろう。
サザナミと出会っていなければ、ラオフィーネは命を差し出すという呪いを受けなくて良かった。
恨まれたって仕方ないことだ。
(それなのに、また俺を助けるために来てくれたのか……)
胸がやけつくように熱くなった。
サザナミのなかに、ある決意が芽生える。
「ラオフィーネ、俺の全部、きみに捧げる。約束する……」
眠るラオフィーネの額に唇を落とす。
そしてサザナミはすぐに行動に移す。
(俺にしかできない方法で、ラオフィーネを守る!)
ひとつだけ光明はあった。
それを形にするため、城の筆頭法具補修師のグルドを訪ねる。
お読み頂き有難うございます。
次回でサザナミ視点が終わります。
長らくすみません。
少しだけ大事な回になると思うので、宜しくお願いします。




