④王子の心〜側近〜
ブクマ、有難うございます!
励みになります!
今回のお話は、
第三章④幸せを願う
のアウグスト視点を、サザナミ視点で書いたものになります。アウグストの事情はこちらが詳しく書かれております。
王都から馬を飛ばして目的地に向かうサザナミとハーキマー。すぐに出立できなかったのが悔やまれる。急用がはいり、すべてを終えて城を出たのは陽がとっくに落ちた刻限だった。
(遅くなってしまったな。着く頃にはもう真夜中になってしまうか)
先導するハーキマーの後ろを、サザナミも愛馬を駆り着いていく。
少し焦りを感じていた。
今頃、アウグストはどうしているだろうか?
煌々と真っ白な光を地上に落とす、満ちる寸前の月を仰ぎながら、落ち着けと自分に言い聞かせる。
アウグストのことを思う時、サザナミはある出来事を思い出す。
(初めてだった。なんの含みもなく、心配してもらったのは)
幼い頃、襲われて怪我をした。
命に別状はなかったため、手当てを受けて、そのまま王族や貴族がたくさん集まる夜会に出席した。
サザナミに挨拶にくる誰もが、傷だらけの姿に驚いた顔をするものの、見ない振りを貫き、笑いながら去っていく。
何故だかすごくムカムカしたし、哀しい気持ちにもなった。
……そんな時だった。
『その怪我、……だいじょうぶ?』
一瞬、その言葉が誰に向けられたものか分からなかった。でも目の前にいる少年の瞳はサザナミに真っ直ぐ向けられていた。それに周りに怪我をしている者なんて他にはいなかった。
その言葉を発した少年こそ、アウグストだった。
サザナミは嬉しかった。
実の兄すら心配してくれないのに、知らない誰かが自分のことを気遣ってくれた……。
一度だけじゃない。
この出会いから数年後、サザナミは夜会で毒入りの食べ物を口にして倒れた。
すぐに気を失ってしまったが、真っ先に異変に気付いて駆けつけたのはアウグストだったという。社交場でいつも目立たないように隅にいるアウグストだけが、サザナミを助けるために必死になってくれた。
彼を側近にしたいと考えるようになったのは、この頃からだ。
どんなに取り繕おうとも、人の"根っこ"は変わらないという。
もしも、それが真実だとすれば。
(……正義感の強く真面目なアウグストは、恋人を亡くして、自棄になっていないだろうか)
今度はサザナミが彼を助ける番だ。
大した繋がりがあるわけじゃない。
けれどアウグストの「人」としての温かい部分を知っている。
そして、その温かさはとても繊細なものだと思う……。
貴族の皆から「恥晒し」と罵られてもアウグストは自分を曲げなかった。身分など関係なく、好きな人と一緒にいることを選んだのだ。
けれど、それが崩れてしまったら、どうなるか。
(早く。急げ――)
休まずに馬を駆り、ぽつんと佇む寂れた教会に辿り着く。
教会自体は小さいが敷地は広大だ。理由は周辺に広がる共同墓地。ここは庶民を中心に身寄りのない者が埋葬される場所でもあった。
「殿下、オレはここで見張りをしてますね」
馬を降りると、ハーキマーが手綱をあずかってくれる。
こんな所でも油断はできない。どこかに身を潜めて奇襲を仕掛けてくる輩がいないとも限らない。
サザナミはハーキマーに任せて、ひとり教会の扉を開いた。
神父はすぐにアウグストがいるという安置室に案内してくれた。
食事も摂らず、最愛の人の亡骸のそばから離れようとしないアウグストを、神父は心配していた。もうそろそろ埋葬もしなければいけないと。
打ちひしがれているアウグストを想像して、サザナミの胸も痛くなる。
安置室の扉の前で、ひとつ息を吸って、ぐっと腹に力をこめる。
(俺は王族だ。アウグストを側近に望むなら、主人として相応しいと認めてもらわねばならない)
高潔なアウグストの魂に、届け……と願う。
サザナミはゆっくりと扉を開ける。
月の光が背中を押すように、一条の筋となって目の前を照らしてくれる。
「遅くなった……、許せ――」
サザナミは言った。尊大な物言いだった。
ゆっくりと振り向いてこちらを見たアウグストが呆然としている。
「サザナミ殿下……何故……」
泣き嗄かれた声で問いかけられるが、サザナミは何も答えず、表情ひとつ変えることなく、歩みを進めた。
粗末な板の上に横たえられた亡骸。アウグストの最愛の女性。
(綺麗な人だな)
サザナミは横たわる彼女の前に片膝をつく。
しばし目を閉じて黙祷を捧げる。
戸惑うアウグストの息遣いが空気を揺らしていた。
(このままじゃ、可哀想だな)
サザナミは自身の身につけていたマントを外す。
もう亡骸とはいえ、ボロボロで血の滲んだ衣服のまま弔うのは気がひける。
王族や貴族は、死装束にも宝石を使い、死者に最大の敬意を払う。
それには劣るが、サザナミのマントも上質な毛織りで出来ていて、最近新調したばかりの代物だ。少しはマシだろうと、手ずから、それで亡骸をくるんだ。
「今宵は、とても月明かりが美しい晩だ。きっと神々も見守っていてくださる……」
それから床にへたり込んだままのアウグストの腕を掴んで立ち上がらせるサザナミ。
二人でゆっくり時間をかけて墓地まで運び埋葬する。
神父が祈りを捧げる。
ハーキマーがどこからか花を摘んできた。
「私のせいで……死なせてしまった……。苦しい思いを、させて……」
涙を零しながら、ぽつりぽつりと語るアウグスト。
それを黙って受け止めるサザナミ。
傷ついているアウグストに掛けられる言葉は少ない。
それでも正直に思ったことを口にする。
「確かに、この女が死んだのは、おまえが原因かもしれない。けれど……この女は、愛する者に見送られるんだ。幸せに違いない」
サザナミは手を伸ばす。
「俺と一緒に来い、アウグスト」
そして、アウグストは心を決め、サザナミの側近となった。
サザナミの味方は増えた。
側近のアウグスト。
専属護衛のハーキマー。
それに王城の筆頭法具補修師のグルドも、信頼の置ける人物だった。
サザナミは以前よりも安定した日々を過ごせるようになった。
父である国王陛下には、正式な場で王位継承権の放棄を申し出た。
ハーキマーはつまらなそうにしているが、そのお陰で暗殺者が送り込まれることは少なくなった。
国の為、そこに住む人々のために尽力すると決めた。
ある日、国王陛下に呼び出される。
内容は二つ。ひとつは国王の生誕祭で「神の使い」を演じること。もうひとつは、カスファール地方で貿易事業の基盤をつくること。
これが新たな火種を生むとは、誰も予想していなかった。
アウグストも、ハーキマーも、己の非力さを嘆くことになる。
生誕祭に使用する法具の視察をするサザナミ。
法具庫で厳重に管理されていた「光の法具」に触れたときだった。
目の前が真っ暗になり、心臓を鷲掴みにされたような激痛。
サザナミは血を吐いて倒れた。
法具に呪いが仕掛けられていたのだ。
アウグストの知性も、ハーキマーの天才的な戦闘力も、まるで刃が立たない。
法具に関しての知識を網羅しているグルドですら、力を尽くしてくれているが、お手上げ状態だった。
(俺の命運も、ここまで、だったか……)
しかし、そんなサザナミの前に、現れたのだ。
片時だって忘れたことはない。
誰よりも、大切で、大好きな人……。
お読み頂き有難うございました!!




