③王子の心〜専属護衛〜
長くなりそうなので、いったんきりました。
宜しくお願いします。
心当たりのある場所に向かって走っていると、後ろから声がした。
「殿下、そんなに急いでどこにいくんですっ!?」
いつの間に着いてきていたんだ、とサザナミは驚いて振り返る。
声の主は最近専属護衛として任命した騎士のハーキマーだ。
(気配をまったく感じなかったんだが!?)
自分が焦っているから気付かなかったのかとサザナミは考えたが、彼が「天才で変わり者」だったと、すぐに思い直す。
ハーキマーは若く、騎士としての経験が浅いにもかかわらず、王族の護衛として抜擢されたことで俄かに注目を集めはじめている。
サザナミ自身も、まさか彼を自分の専属護衛にする日がくるとは露ほどにも思っていなかった。
ここ数年は護衛をつけずに行動することが多かったサザナミ。その理由は裏切られたときが怖いからだ。どう考えても無傷で済むはずがない。
自分の身は自分で守る。
剣の心得もあるし、どうしても護衛が必要なときは騎士団の隊長に言えばすぐに手配してくれる。その際も「なるべく少人数で」と決めていた。無論、裏切りられた時のことを考慮してだ。
そんな不信だらけの日々を過ごしていたサザナミのもとに、騎士のなかでも下っ端のハーキマーは、意気揚々と自分を売りこんできた。
――『自分をサザナミ殿下の専属護衛にしてくれませんか?』
その理由にもまた唖然としまった。
――『サザナミ殿下のそばにいれば、たくさん戦えそうなので』
そしてハーキマーは「絶対に裏切らない」ことを示すため、行動にでる。
公務中に奇襲されたサザナミを、たった一人の力で退けたのだ。
その戦いぶりは美しすぎた……。
数人の暗殺者と対峙したサザナミが剣を抜く前に、ハーキマーは敵の懐にはいり、確実に急所をとらえた攻撃で、ひとり、またひとりと倒していく。
浅い経験値を補えるほどの優れた身体能力。
戦いに興じている時のハーキマーは、持て余していた力を開放できることに喜びを感じ、薄っすら笑みを浮かべていた。
(恐ろしい男だな)
このまま騎士団で働かせておいて良いものか。
その実力があれば、いずれ自力で出世はできそうなものだが。
一抹の不安に後押しされるように、サザナミは彼を自分の専属護衛にすることを決めた。
……結果的に良かったと思う。
奇襲される回数が極端に減った。おそらくハーキマーが影で動いてくれているからだ。
それに休みを与えても、サザナミがどこか行こうとすると、ふらりと現れて一緒についてくる。まるで忠犬のような騎士。
今だってそうだ……。
いつの間にかサザナミの後を追ってきている。
(だからといって、気配まで消さなくても良いのにな)
「兄上の側近の"シュルツナー殿"を探しているんだ」
兄上……第一王子殿下の側近は、アウグスト・シュルツナーの実の兄にあたる人物だ。
サザナミは城内の心当たりのある場所をさっきから巡っていた。
「そうだったんですか。そうだ……シュルツナー殿といえば、弟のアウグストさん、可哀想ですよね。恋人が亡くなったって……」
「俺もついさっき知ったばかりだ」
「すごい噂になってますよ。殿下……もしかして気になるんですか?」
「実は……アウグスト・シュルツナーを側近にしたいと以前から考えていたんだ」
「!」
「あ、いや、でも今はそうじゃなくて、恋人を亡くしてショックを受けてるだろうなと思って」
「……心配、してるんですか? 殿下が? アウグストさんのことを?」
ハーキマーが驚いて目を丸くしている。
別にサザナミとアウグストは親しい間柄ではないからだ。
それにアウグストの恋人は庶民の女性で、社交場の笑い者にされていたし、シュルツナー家にとったら貴族の恥晒しに他ならない。それなのに王族であるサザナミは心を砕いている……。
「……愛する者を亡くしたら辛いだろう。俺にも……、大切な人がいるんだ。もし、いなくなってしまったら、自分が死ぬことよりも何倍も苦しくて耐えられそうにない」
「そう、でしたか……」
サザナミの大切な人はラオフィーネだ。
もしもラオフィーネがこの世からいなくなってしまったら、サザナミは多分動けなくなってしまう。呼吸すら出来なくなってしまうかもしれない。
それだけ心の中にある存在に支えられているのだ。
(もし、アウグストも同じだとしたら……)
放っておけないと思ってしまった。
だからアウグストの居所を探ろうと、第一王子の側近のいそうな場所を巡っていた。家族であれば何か知っているとはずだと思った。
「もしかして殿下は、アウグストさんが今どにいるか知りたいんですか?」
「そうだが……?」
「それなら、王都の外れの教会にいるって」
「は!? 本当か!? 何故おまえが知ってるんだ!」
「何故……って、オレの情報網を甘くみないでくださいよ! 一応、これでも殿下の専属護衛なんですから」
「今すぐ行くぞ。案内しろ!」
「ええ!? 今からですか。……いいですけど」
そう言ったハーキマーは、今度は後ろではなく、先導するようにサザナミの前を走っていく。
「殿下はもうちょっとオレを頼ってくれてもいいのになぁ」
「なんだ、……今、何か言ったか!?」
「なんでもありませんよっ」
そして二人はアウグストがいる教会へと向かった。
お読み頂き有難うございます!
また、よろしくお願い致します!




