②王子の心〜指輪〜
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くどいのです。
すみません。
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サザナミは王城に勤める筆頭法具補修師のグルドに師事し「法具」について学ぶようになる。
小さな少女が起こした不思議な力の源泉……。
救われたことで、法具に興味がわいた。
国でも節目の祭事には、必ず法具を用いた儀式を行う。その意味について深く追求したことは無かった。
法具を知るということは、とても大掛かりで、まるで地中に埋れた古代遺跡を発掘しているようなものだった。グルドが道を示してくれなければ、どこから手をつけていいか分からないほどの情報量。
この国の連綿と紡がれてきた歴史を紐解くよりも遥かに複雑だった。
まずは遠い星々をも含む「世界」の成り立ちを理解することから始まる。
……そこには、おおいなる神々の存在があった。
想像すら追いつかない。サザナミが身を置いてきた世界と、法具補修師が大切にする世界とはまったく別物なのだ。
(補修師とは、まるで賢者だな……)
いくら文明が発展してきたとしても、法具補修師が語るのは原始の世界であり、宇宙の深淵の一糸だという。
この大陸にも幾つかの思想はある。魂の安息のためにあらゆる神々を祀る……いわゆる「宗教」だ。
補修師たちはそのような宗教が起こる以前の、ただ「ここ」にある存在について知り、尊び、ともに生きている。
サザナミは学ぶ。植物をはぐくむ大地の奥に眠る精霊の存在のことや、大気を移動していく風には、じつは死者の魂を運ぶ役割があることや、太陽光線には幾つかの色があり、それはチャクラと呼ばれる人体の各所にそれぞれ作用する働きがあることなど……。
知れば知るほど、己自身も、芽吹いてはいつかは朽ち、ふたたび生まれ変わる循環のなかに佇むひとつの命なのだと思い知らされる。
(生まれながらにして、この宇宙のなかでは、優劣ない等しい命として、この循環の役割を担っているのだな……)
この事実はサザナミの心を癒した。
王族として生まれ落ちたことも、きっとただの役割だ。偉いわけでも特別優れた魂を持っているわけでもない。
幼い頃から命を苛まれてきたサザナミは、心の奥底で生まれてきてはいけない存在なのだと、自分のことを思ってきた。
けれどこの世に生まれ落ちた理由はあったのだ。
――必要だからだ。この命が世界のために必要だからここに在るのだ。
(ただ俺が周りの人間から愛されていないだけで、世界に見捨てられたわけではないんだな)
不思議な感覚だ。
身の上に降りかかる哀しくて辛いと思うことすべてを、法具をきっかけにして俯瞰できるようになった。
――それに、何が起きても俺の魂は傷つかない。
酷く心が痛むことがあったとしても魂は穢れることなく在り続ける。そういうモノなのだと知った。
(ラオフィーネに会えたから)
この出会いこそ、枯れそうな気持ちを抱えて生きてきたサザナミのために、世界が用意してくれた贈り物ではないか。
(愛している、ラオフィーネ……)
例え誰からの愛情を得られないとしても、サザナミの心を温めてくれるのはラオフィーネの存在だ。
彼女さえいてくれれば、サザナミはどんな困難の前でも笑っていられる気がするのだ。
一番哀しくて不幸なことがあるとすれば、それは……ラオフィーネが消えてしまうことだ。
ラオフィーネが幸せであれば良い。
例えサザナミのことを忘れてしまっても、彼女が誰かとともに歩む道を選択したとしても、幸せであって欲しいと願う。
ラオフィーネがくれた優しさは、思い出せばいつでもサザナミの心を満たしてくれるのだから。
(うーん……でも、ラオフィーネと結婚する男に、俺は嫉妬してしまうんだろうな)
法具を通して知った真理によって、サザナミは自分の境遇を嘆くことはなくなった。
時折、ラオフィーネの父君がくれた指輪を眺めては考える。
(父君がコレを俺に託した理由が、何かあるはずだ)
古代。異国において指輪の法具は珍しいものでは無かったようだ。これはグルドに聞いた。
旅路を往くときの厄除けとして、闇をはね返す紋様を刻印して肌身離さず持ち歩いたり、婚姻のときにお互いの名と、加護を戴きたい精霊をあらわす紋様や、宝石をつけたりもしたそうだ。つまり結婚指輪だ。
(もしもラオフィーネが俺の……妻になってくれたら……)
そんな妄想だけで、口元がだらしなく緩んでしまいそうになる。
(いやいや、絶対あり得ないし。父君もそういった意味で指輪をくれたわけでは無いのだし……)
だが、いくら考えても答えは見つからなかった。
サザナミ、十六歳のとき。
側近のひとりに寝込みを奇襲された。
無事でいられたのは、たまたま運が良かっただけだ。
その晩に限って、サザナミは夜更かしをして法具に関する書物を読んでいたのだ。いつもなら鍵をかけた寝所で完全に熟睡していた刻限だ。
――また裏切られた。
心が痛まないはずはない。
ただサザナミのなかの変わらずにある想いが、静かに彼を支え続けていた。
愛する者がいるということに感謝した。
(新しい側近を探さなければな)
有能な者がいい。
そして周りの声に惑わされない者がいい。
……一人だけ気になる人物はいた。
その者の名は、アウグスト・シュルツナー。
シュルツナーの一族は、昔から王族に仕える者を多く輩出している名門貴族だ。
そしてアウグストはシュルツナー家の三男で、頭はいいが変わり者と噂がある。
サザナミは何度か社交の場で挨拶を交わしたことがあるが特筆すべきことは無かった。
ただそれが逆に驚くべきことだと思う。大小の違いはあれど、対峙すれば、その者の野心が見え隠れするものだ。
しかしアウグストは飄々としていて、心の内が見えない。むしろ「自分のいるべき場所は此処ではないから関わるな、迷惑だ」と言われているような気さえした。
ならばアウグストの見ている世界は? ますます興味がわいた。
暫くして新たな「噂」が社交場では流れていた。
――シュルツナー家の三男が庶民の女に懸想している。
(庶民の、女……か)
少しだけ親近感をもつサザナミ。
心のなかに想う人がいるということは、とても大きな支えだ。
(ただ結ばれるのは、困難だぞ)
サザナミは同情する。
貴族のなかでも、シュルツナー家はとくに「血」を重んじている。
婚姻となればあらゆる条件がついてまわるが、庶民が相手では話にもならない。
だからこそ、一般的には「愛人」と公言して、そばに置いておくのだ。
現シュルツナー家の当主は貴族であることに誇りを持ち、庶民とは口も利かないような気難しい男だ。例え遊びの恋愛だとしても許しはしないだろう。
(うまくやれよ。アウグスト……)
噂はさらに広がり、アウグストは「貴族の恥さらし」と呼ばれるようになっていた。
お読み頂き有難うございます!
あと1話だけ、サザナミ書かせて頂きます。




