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 次の日、幼なじみのヴェンデルが御見舞に来た。年は一つ上。侯爵家の次男であり赤い瞳が印象的。肌が浅黒く体も大きめで健康男児という感じだ。ちなみに彫りが深い感じのイケメンである。


「どうしたの、花束なんて持って」


 そう、ヴェンデルは花束を持ってやってきたのだ。


 だ療養中ということでベッドの上にいるが、そんなエルヴィーラに花束を手渡してきた。ゲームの中でもヴェンデルは無口なキャラクターだったなと思い出す。


「すぐに花瓶を用意しますね。お花はこちらへどうぞ」


 私が起きたときに世話をしてくれたメイド、エマが花を受け取って部屋を出ていった。


「具合いは大丈夫?」


 ベッド脇のイスに座ってヴェンデルが言う。


「大丈夫だよ。池に落ちただけだし」

「俺が一緒にいたらよかったのにな……」


 彼は俯いてそう言った。ここまで悔しそうにしているところをみると、ヴェンデルが近くにいたら池に落ちなかったんだろうなと本気で思ってしまう。それどころか池にさえ落ちなければ知世がエルヴィーラになることはなかったはずだ。


 だがもう過ぎたことだ。こうなってしまった以上は前に進むしかない。


「じゃあ次助けてくれればいいんじゃない?」


 エルヴィーラは笑いながら言うことにした。今はヴェンデルの方が一歳年上だが、知世としての年齢は二十一歳であるため、ヴェンデルとは十歳以上差がある。だからなのか、ヴェンデルが心配している姿がいじらしくて仕方がない。


「うん、次は頑張るよ」


 ここでハッとした。主人公たちを遠ざけなければいけないはずなのになんてことを口走ってしまったのか、と。


「いや、まあ、無理がない範囲でお願いね」

「うん、大丈夫」


 ヴェンデルは落ち着いた笑顔を向けてきた。子供っぽい可愛らしさよりも、大人っぽく少し儚げな笑顔だった。


 記憶が正しければヴェンデルは主人公たちの中でも落ち着いた方で、表情も固く感情を表に出さないというクール系男子だった。作中でもシャルロッテと交流を深めることで笑顔を見せるようになったはずだ。


 それから昨日あったことなどを話してくれた。ヴェンデルの姉は騎士を目指しているらしく彼を相手にして剣術ごっこをするのだが、十一歳と十五歳では相手にならないのだとか。


 そしてエマが花瓶を持ってきたタイミングでヴェンデルが立ち上がる。


「これから用事があるから帰るよ」

「そう、気をつけて帰ってね」

「馬車で五分だよ? 大丈夫だって。それじゃあね」


 またあの落ち着いた笑顔だった。その笑顔を見る度に思う。エルヴィーラもヴェンデルも幼少期はまったく違う性格だったのではないか、と。そうであればゲームが始まるまでの間になにかがあったはずだ。それを断ち切ればヴェンデルとの関係も悪くならずに済むのでは、と考えていた。


 エマは花瓶をサイドテーブルに置いて「なにか用事があったらお呼びください」と笑って部屋を出ていった。枕元にぶら下がっている紐を引くとドアの前にある小さな鐘が鳴る。それを聞きつけてメイドがやってくるというシステムのようだ。原始的だが貴族の家だし「有り」だなと思った。


 一人になったエルヴィーラはベッドから降りて机に向かう。引き出しから白い紙と羽ペンを取り出した。


 昨日はできなかった「これからやること」を書き出そうと思ったのだ。


 このゲームのヒロインであるシャルロッテが登場するまではあと七年。この世界での記憶もあるためエルヴィーラを演じることは可能だろう。両親と兄に甘やかされて少しばかりお転婆だったようだが、徐々に大人しくなっていけば問題ないはずだ。


 シャルロッテ目線でゲームをしていたとき、シャルロッテにとっては初対面だがエルヴィーラにとっては初対面ではない男主人公がほとんどである。




・ヴェンデル=リースフェルト


 侯爵家の長男でエルヴィーラの幼なじみ。無口で無愛想。真っ黒な髪の毛に浅黒い皮膚、赤い瞳が特徴で彫りが深く男前。魔法学園に入ってからというもの上位の成績を維持し続ける。適正は自然魔法の火属性。シャルロッテが最初に出会う男主人公である。魔法学園へと転校したシャルロッテは初日からエルヴィーラにいじられ、エルヴィーラが去ったあとで慰めるのがヴェンデルである。

 ヴェンデルルートではエルヴィーラがサラマンダーを使役してシャルロッテを焼き殺そうとする。しかし上手く飼いならすことができずに焼け死んでしまう。ちなみにヴェンデルが火属性なので、ヴェンデルがシャルロッテを守るためシャルロッテはほぼ無傷で終わる。




・ジークフリート=クライシェ


 伯爵家の長男でエルヴィーラの元許嫁。許嫁とは言っても祖父同士の口約束で、エルヴィーラが十五歳のときに破棄されたという記述があった気がする。いわゆるツンデレでややキツめの顔立ちだがイケメン。長髪で緑色の髪の毛で緑色の瞳、運動や暴力は苦手なのでやや細めである。しかし魔力が高いため幼少の頃からかなり有望視されてきた。やや傲慢に育ち、周りに対しての当たりがキツイ。喧嘩になると魔法を使う。一般生徒と喧嘩になって魔法を使おうとするのだが、その魔法を打ち消して説教をしたのがシャルロッテで、それが出会いでもある。

 このルートでのエルヴィーラは一対一でシャルロッテと戦い、絶対有利という状況で慢心して負ける。最終的に「シャルロッテに負けるのが嫌だから」という理由で崖から飛び降りて死ぬ。




・フェリクス=ローエンシュタイン


 ローエンシュタイン王国第二王子。金髪のツーブロックに金色の瞳、二メートル超えの身長と隆起した筋肉が特徴のイケメン。しかし中身は臆病で泣き虫というとてつもないギャップの持ち主である。貴族にいじめられて泣いているところをシャルロッテが遭遇。魔法学園の校舎裏で慰め合う仲になる。ちなみに二人はその場所を「聖域」と呼んでいた。

 このルートでのエルヴィーラは第一王子であるアルブレヒトと共謀して魔王の力を復活させる。そしてその力を体内に取り込む。が、ローエンシュタインの王族は聖剣を体内に所有しているため、アルブレヒトと一緒にフェリクスに倒されてしまう。フェリクスの力を覚醒させたのはシャルロッテの愛の力である。




 と、ここまで書いたが見事にイケメンぞろいである。残りの攻略対象三人ももちろん、中身はどうあれ顔面偏差値は高い。


 それはいいとしても、ジークフリートとフェリクスの二人をどうやって処理するか考えなくてはいけない。問題なのはゲームがシャルロッテ視点で進行し、かつエルヴィーラとの親密な絡みがなかったということだ。つまるところエルヴィーラが十七歳になるまでの人生がまったくわからない。


「どうしたもんかな」


 他にわかることを考えて書き出していく。


 ジークフリートとは既に出会っている。正確な年齢は不明だが、祖父同士が仲がいいということで口約束だが許嫁にさせられた。しかしジークフリートはエルヴィーラに対して興味がなかったはずなので問題ない。


 フェリクスも会う機会は多いはずだ。公爵令嬢であるエルヴィーラは王宮に行くこともあるだろうし。こちらもまたエルヴィーラには興味がないはずなので大丈夫。


 つまりこのままいけばヴェンデルとだけ上手くやっていけば生きていかれるような気がする。ゲームの中のエルヴィーラはシャルロッテのことが嫌いだったかもしれないが、知世はヴェンデルのことが嫌いではない。


 今後の展開としては魔法学園に入るための勉強と公爵令嬢として教養を頑張ればいいはずだ。頭もよく運動もできるという設定だったので、頑張らなくてもこの体がなんとかしてくれるはずだ。


 あとは、なんらかの理由によって十五歳のときに婚約破棄のようなことをされたエルヴィーラは、十七歳のときに第一王子であるアルブレヒトの婚約者になったはずだ。だからフェリクスルートではアルブレヒトと手を組んでフェリクスを亡き者としようとした。これがフェリクスルートでの王位継承権争いの結末である。


 この国は離婚が難しく、結婚というのは一生のものというのが根底にある。その代わりに婚約破棄は両者の同意、もしくは片方の婚約破棄理由が正当だと認められればいい。


「ジークフリートとの擬似的な婚約破棄のあとでアルブレヒトとの婚約破棄。あとはシャルロッテとは距離を取る、もしくは仲良くなる。あとは……」


 最後にもう一つだけあった。


「愛原莉奈が来る」


 日本から異世界転移してきた女子高生、それが愛原莉奈だ。物語の序盤から中盤に差し掛かるあたりで急に現れる。闇属性の自然魔法を扱うが、異世界から聖女がやってくるという伝承により聖女として祀り上げられるのだ。できれば彼女とも距離を置きたいのだが、おそらくそうはさせてもらえないだろう。


 なぜならば彼女は王家の召喚魔法によってこの世界に現れる。聖女ということもあって王家が面倒を見ることになり、同時に魔法学園に通うことになる。フェリクスとアルブレヒトと関わりがあれば、多少なりともエルヴィーラとも関係ができるだろう。


 考えることは山積みで、ある程度の年齢までは自分の身の振り方も考えながら過ごさなければいけない。


「まあ、いっか」


 せっかくの第二の人生だ。なにもかも昨日の時点で受け入れた。こうなったら死なないように楽しむしかない。


 そんなことを考えながら、エルヴィーラはペンを置いた。

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