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第七話 夢での再会 上


 その夜、レオンハルト・アルヴァレインは、ベッドに横たわり天井を見上げていた。


 もう既に部屋の明かりは落としている。


 月明かりが、カーテンの隙間から入り込みレオンを優しく照らしていた。


 現代に来てから目まぐるしい日々を体験したレオンは、これまでの事を思い出していた。


 神代家親子は、妹が辛辣だった。初登校で幼馴染みに怪しまれ、数学小テストは、もう忘れたい。

 

 現代文で妙に褒められ、英語で声だけ褒められ、そして体育で身体能力を隠しきれなかった。


 しかも、舞に見られてしまい疑惑から確信めいたものに変わりつつある。


 ――あんたが、悠真じゃないって説明。


 舞の言葉が、耳の奥に残っている。


 レオンは見えない左手の指輪に触れた。


 不可視の輪は、今は静かに指に収まっている。


 外見は神代悠真のまま。


 術式も安定している。


 だが、完璧ではない。


 偽貌の指輪は、顔を変え声も似せる。しかし、過去は与えない。


 感情の癖も、家族との距離も、幼なじみとの記憶も、補ってはくれない。


 《バイブル》も同じだ。

 視界の端に、半透明の表示が浮かぶ。


 現在の要注意事項:

・体育授業における身体能力の露呈

・偽貌術式の一時的な乱れ

・一ノ瀬舞による疑念の上昇

・数学小テストの結果不明

 総合評価:警戒継続を推奨。



「胃の痛くなる一覧だな」


 レオンは小さく呟いた。


 夕食時、美琴はいつも以上にレオンを観察していた。


 体育で何かあったのか、と聞かれレオンは「少し目立った」とだけ答えた。


 すると美琴は即座に「何やらかしたの」と返す。


 レオンは、少し間をおいてボソリと「……ゴールを決めた」と言った。


 美琴の、顔が驚愕に染まる。


「あり得ない……まさか変なキャラ設定が現実になったんじゃ」


 あながち間違っていない発言にレオンは、内心舌を巻く。この妹やはり鋭い。


 神代悠真。


 君の運動評価は、想像以上に厳しい。


 沙織は、そんな二人のやり取りを見て少し笑っていた。


 だが、レオンの疲労には気づいたのだろう。優しい声色で「今日は早めに休みなさい」と言った。


 レオンはベッドに横たわり、天井を見上げ続けていた。

 眠るべきだ。


 明日も学校がある。


 そして、何より舞への対応を考えなければならない。


 今はまだ、正体を明かすべきではないが、このまま隠し通せるとも思えない。


 舞は、神代悠真を知りすぎている。


 レオンは、ふと思った。


 神代悠真本人に聞ければいいのだが。


 彼の家族のこと。

 学校での立ち位置。

 舞との過去。

 聞きたいことは山程ある。


 だが、彼は異世界にいて距離という概念では測れないほど遠い場所にいる。


 レオンは目を閉じた。


 神代悠真は今ごろ、どうしているのだろう。


 勇者として扱われているはずだ。


 魔法訓練をしているのか。


 王国の事情を聞かされているのか。


 それとも、王宮魔導士たちの怪しい説明に振り回されているのか。


 あの少年は、異世界に適正があるように感じるが、普通の少年だ。


 だが、芯はある。


 家族を守るために王の前で条件を出す程度には、度胸もある。


 それでも、彼は普通の高校生だ。


 戦場を知らない。

 魔物を知らない。

 王国の裏も知らない。


 こちらが神代悠真の居場所を預かっているように、彼もまた、レオンの世界で重荷を背負わされている。


 そう考えると、少しだけ胸が重くなった。


「……面倒だな」


 レオンは目を閉じたまま呟いた。


「本当に、面倒だ」


 だが、その面倒を放り出す気はなかった。


 眠気がゆっくりと意識を包み、少しずつ遠ざかっていく。


 そして――。


 レオンは、白い空間に立っていた。


「……どこだ、ここは」


 足元には地面がない。


 だが、落ちる感覚もない。


 空もない。


 壁もない。


 ただ、白い霧のような光が周囲に満ちている。


 魔力の気配はある。


 だが、普通の魔法空間とも違う。


 世界と世界の隙間。


 あるいは、夢の底。


 レオンは周囲を見回した。


 すると、少し離れた場所に人影が現れた。


 黒髪。


 現代日本の制服ではなく、異世界側で用意された簡素な訓練服。


 見慣れた顔。


 ただし、鏡の中の自分とは違う。


 神代悠真だった。


 悠真もまた、周囲を見回しながら固まっていた。


「……え?」


 悠真はレオンを見つける。


 そして、目を見開いた。


「レオン王子!?」


「神代悠真」


 二人は、白い空間で向き合った。


 

 

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