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こんなタイトル  作者: 櫻木サヱ
過去の叫び声

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7/11

影の子

足音はゆっくりと近づいてくる。

ひとつ、またひとつ。

湿った畳の上を、裸足の小さな足が踏むような音。


美咲は息を殺し、懐中電灯を両手で握りしめた。

光は震え、うまく前を照らせない。


――“影の子は、身内”。


写真の裏の文字が、まるで刻印のように脳の奥で繰り返される。


「身内って……どういう意味なの……?」


自分の声が、狭い部屋に吸い込まれていく。

返事はない。

ただ、足音だけが続く。


ザリ……ザリ……


急に、音が止まった。


次の瞬間、暗闇の奥から子どもの笑い声が、ぱちん、と弾けるように響いた。


キャ……キャ……


笑っているのか、泣いているのか判別できない、ゆがんだ声。

その声だけで、膝が震える。


「出てこないで……お願い……」


そう呟いたとき、光が不意に祭壇の横を照らした。


そこに――いた。


小さな女の子。

長い髪が濡れたみたいに張り付いていて、顔は伏せている。

ただ、そこに“いる”というだけでも異様だった。

光が当たっているのに、影が濃く、輪郭が歪んでいる。


少女はゆっくり顔を上げた。

その顔を見た瞬間、美咲は息を呑む。


自分とそっくりだった。

幼いころの写真をそのまま引っ張り出したような顔立ち。

しかし、目だけが真っ黒で、どこまでも深く、底が見えない。


少女は首を傾け、にこりと笑った。


「み・さ・き」


声が、自分と同じ高さ。

鏡に映る声を聞かされているような気味悪さがあった。


「あなた……私なの?」


問いかけると、少女はゆっくり左右に首を振った。


「ちがうよ。

わたしは――“うばわれた子”。

おばあちゃんに、外に出してもらえなかった子」


ぞくり、と背筋が凍る。


「……祖母が、あなたを閉じ込めたの?」


少女はコクリとうなずいた。

その動きは妙に滑らかで、人間らしさがほとんどない。


「おばあちゃんはね、みさきが生まれたとき、

“影の子”は外の世界に出ちゃだめって言ったの」


少女は暗闇を指差した。


「わたしが出たらね……みさきがいなくなっちゃうから」


言葉の意味がわからず、美咲は固まった。

少女は続ける。


「昔、おばあちゃんにも“影の姉妹”がいたんだよ。

でも、外に出ちゃったから――おばあちゃんは消えちゃいそうになったの」


美咲の心臓が跳ねた。


まさか、これは――血筋の呪い?


少女はふらりと近づき、美咲の顔を覗き込んだ。

生ぬるい息が頬に触れる。


「だから……ねえ、美咲。

こんどは、だれが“消える”と思う?」


影が足元から伸び始める。

絡みつくように、美咲の足首をゆっくり締め上げる。


「や、やめて……!」


少女はにこりと笑った。

その笑顔は、どこかで見た――幼いころの自分そのもの。


「だいじょうぶ。

かわりになってあげるだけだよ。

わたしが“外”になってあげるの」


その瞬間、部屋の隅から何十もの囁き声が一気に響きはじめた。


返して……返して……返せ……

影を返せ……


畳が波打つように揺れる。

壁のお札がぱたぱたと剥がれ落ち、空気が震える。


少女の目が黒く深く沈んだ。

その両手が、美咲の頬に触れる。


「ねえ、美咲。

あなたの“影”、ちょうだい」


次の瞬間、視界が暗転した。


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