第五十八話 故郷
フーの転移魔法によって、五人は各国の王都へと飛んだ。
フーは、故郷のプッタネスカ王国へ。
イカリは、故郷のアラビアータ帝国へ。
エルは、故郷のボイスカイオーラ王国へ。
ジビエは、故郷のカチャトーラ王国へ。
スミヤキだけは既に故郷がないため、戦闘要因として戦闘能力のないエルについていき、ボイスカイオーラ王国へ。
突然王都に現れた勇者たちに、国民たちは目を丸くし、すぐに歓迎の声を上げた。
「勇者様だ!」
「勇者様がお戻りになったぞ!」
勇者の人気は、いまだに根強い。
特に王都では、勇者たちの像も作られ、国の中でも熱気が冷めていない場所の一つだ。
ボイスカイオーラ王国。
王都。
町中にいくつもの大木が生える神秘的な場所。
大木の下には教会が作られ、教会の周りには民家が作られている。
鐘の代わりに小鳥たちのさえずりが響き渡り、小鳥たちは木から屋根へと飛び移っている。
「いい街だな」
「うん、本当に」
スミヤキとエルは国民たちの歓声に手を振り返しながら、王城へと歩を進める。
同時に、国民たちとも話し、勇者パーティの死亡というニュースが国民へ降りていないこともわかった。
大半の国民は、生まれ育った都市で生き、一歩も出ることなく死ぬことも珍しくはない。
定期的に国家間を行き来する商人や吟遊詩人でもない限り、隣国の情報を自力で得ることは難しい。
王族からの発表こそが、国民の情報源の全てだ。
スミヤキとエルの帰還はすぐに王城へと届いたようで、王城から馬車を引き連れた兵たちがやって来た。
「エル様、お帰りなさいませ。そしてスミヤキ様も、よくいらっしゃいました。……誠に失礼なのですが、事前に来訪の予定などを伺っていないのですが」
「失礼した。火急の用件ゆえ、事前のご連絡を失念していたこと、謝罪致します」
「なるほど、承知いたしました。それで、ご用件はどのような?」
「ボイスカイオーラ国王と、カルボナーラ王国の件で少しお話がありまして」
兵たちの表情が固まる。
滅国魔法によるカルボナーラ王国の滅亡は、最小限の人数のみが知るところ。
王族、貴族、実際に発動した魔法使いたち、そして王族貴族を護衛する一部の兵。
勇者を迎えに行くほどの大役を任されたこの兵たちもまた、滅国魔法を知る者たちだ。
表面上は平静を装おうとしているが、死んだと言われていた勇者を目の前に、動揺を隠しきれてはいなかった。
未だ国民へは公開されていない情報を守るために、勇者の死という情報など存在しないよう、兵たちは健気に振舞う。
「承知いたしました。陛下にお伝えします。おい」
「はっ!」
一人の兵が、早馬に乗って一足早く王城へと向かう。
「どうぞ。王城までお送りします」
「ありがとう」
スミヤキとエルは、兵に促されるまま馬車に乗る。
勇者と言う有名人に堂々と町中を歩かれれば、町中の混乱は必須。
馬車と言う触れられない空間に隔離するのは、当然の判断。
馬車は方向を変えて、王城へ向かう道へと向き直る。
「勇者様ー!」
「勇者様ー!」
スミヤキとエルは馬車の窓から、国民に向かって手を振り続ける。
王都の中心をはずれてくると、野次馬のような国民たちの姿は減り、兵は馬車の窓を閉める。
窓が閉じられた後、スミヤキとエルの表情から笑顔が消え、やや険しい表情で王城のある方向を見ていた。
同じ馬車に乗車している兵は、その変わりように背筋を震わせ、しかし少しでも雰囲気を和らげようと口を開く。
「い、いやあ、驚きました。勇者様たちは……その、カルボナーラ王国で蘇った魔王の亡霊と戦い……その……殉職されたと聞いていましたので」
勇者の末路。
その話題に興味を持ったスミヤキが、険しさを解いた表情で振り向く。
「そうですか。私たちは、死んだことになっているのですね」
「も、もちろん、我々は勇者様が死んだなど信じておりませんでした。敵に情報を与えぬよう、意図的に虚偽の情報を広める策であると」
兵は時折震えながら、手を自身の剣から離さなかった。
勇者の生存が真実であれば、兵に不安はない。
勇者の死亡が真実であれば、兵にとって目の前の二人は勇者の形をした何か別物、つまり自身の命を脅かす可能性がある何かだ。
故に、警戒を解くことができなかった。
とはいえ、スミヤキは兵の態度程度で怒るほど、狭量ではない。
むしろ、警戒を解かない姿勢を評価したほどだ。
あらゆる可能性を考え、対応するのは、戦士の正しい姿だ。
「気にしていませんよ」
少しだけ微笑み、スミヤキは言った。
スミヤキの言葉に、兵は明らかに安堵した。
軽くなった心は、兵の口を気軽に動かす。
「そういえば、ただいまフリーク・カルボナーラ様もお越しになっております。スミヤキ様が生きていると知れば、フリーク様もさぞお喜びに」
気軽な言葉は、スミヤキの脳を突き刺した。
「……フリーク様が?」
「ひっ!?」
スミヤキの視線が、狂気のように険しく、兵に刺さる。
スミヤキの中で、フリークはとっくに死んでいるのだ。
ハーから、フリークが異形に変わり、唯が討ち取ったと聞いているのだから。
「わかった」
スミヤキは、小さく感謝を述べた。
ハーが偽っているのか。
死んだフリークが偽物か。
生きているフリークが偽物か。
スミヤキは、手元に神剣がない事実を睨みつけながら、自身の持つ剣の柄を撫でた。
王城が近づいてくる。




