第五十四話 状況整理
唯から与えられた家の中には、六人の人間が集まった。
勇者パーティの五人と、ハーだ。
三人が十分に寝泊りできる程度の広さはあるが、六人も入れば些か手狭に感じる。
「どこから話しましょうか」
フーは、ハーに向けていた視線をスミヤキへと移す。
貴方から話すかと言う、フーからの問いかけに対し、スミヤキは無言で首を横に振った。
勇者パーティの代表はスミヤキだ。
何を語って何を語るべきか、最終的な判断はスミヤキが下す。
が、今回の話し相手は、フーの部下であるハーだ。
スミヤキは、フーが何を語るべきか判断することが適切と決めた。
フーの視線がハーに戻る。
ハーは、フーの視線が動く間も、微動だにせず待っていた。
ハーとフーが最後に会ったのは、フーがスミヤキの手紙を受け取った時。
ハーがどれだけ情報を知っているか分からないため、フーはそこから話すことにした。
「私は転移で訓練場を離れた後、皆と合流して、カルボナーラ王国の王城へと向かいました。そこで、カルボナーラ王国国王より王国の現状を聞き、唯様討伐の命を受けました」
語り始めたフーに対し、ハーはすっと背筋を伸ばし、言葉を受け入れる準備をする。
「当時、唯様が落としていた都市は六つ。私たちは唯様を確実に倒すため、唯様の不意を打つことにしました。五人が別々の都市へ向かうことで、唯様に勇者パーティが一人しか向かって来ていないと誤解させ、油断を誘いました」
「なるほどね。勇者パーティが別々に動いていると聞けば、多少は油断をしてくれるでしょうしね」
「作戦は、想像以上に成功しました。唯様は国民の盾を下がらせ、たった一人でスミヤキの前に立ちました」
「一人!? なんで!?」
「唯様曰く、まともな戦いがしたかったとのことです。一人で向かってくる相手に対して複数で相手をするのは、唯様の中で受け入れられなかったのでしょう」
「思考が無茶苦茶ね」
ハーは、唯とスミヤキの軍が対峙しただろう状況を思い浮かべる。
一人だけとは言え、勇者パーティのメンバー相手に単身で挑む感覚が何一つ理解できず、思わず顔をしかめた。
「そして、唯様とスミヤキの戦いが始まったところで、私の魔法によって私を含めた四人を転移させ、唯様へ不意打ちを仕掛けました」
「最強の不意打ちね」
「唯様は、私の炎で焼かれ、ジビエの矢に刺され、イカリの拳に吹き飛ばされました。奇襲は成功。正直、私は勝利を確信していました。……が、唯様の力……いえ、勝利への執着は、私たちの想像を超えていました。自身の体の損傷を厭わず、命以外何もいらないと言った戦い方を前に、私たちは負けました」
鉄仮面をつけているように無表情で話していたフーが、初めて表情を歪める。
あまりにも恐ろしい物を見たような、苦悶に満ちた表情に。
勇者パーティは、世界から勝利を当然に期待される者たちだ。
敗北という現実は、全身を切り刻まれるほど受け入れたくはないものだ。
ハーは、黙ってフーの次の言葉を待った。
一呼吸の後、フーは通常の表情を取り戻す。
「唯様に負けた私たちは、四肢をもがれながらも生かされ、それぞれ別の都市の牢へと移送されました」
「四……!?」
「そこで、ただ生きるだけの時間をずっと過ごしていました」
ハーの驚きも、フーにとっては想定内。
何かを言いたそうなハーを、フーは言葉の強弱だけで抑え込んだ。
そして役割交替と言わんばかりに、視線をエルへと向ける。
「勇者パーティの中で、私だけが四肢をもがれず、唯様の近くに置かれました。仲間の四肢を回復させるのを防ぐ目的と、唯様がより危険な訓練で怪我をした時の回復目的と聞いています」
ハーの視線もまた、話し始めるエルへと移る。
「何日か訓練をされた後、唯様は、ついにカルボナーラ王国の王都に向かって進軍しました。そして王都には……。意識が朦朧としながら、銀色の神剣ブラペを持つ国民たちがたくさん立っていました」
「意識が朦朧とした国民? 銀色の神剣ブラペ?」
神剣ブラペの存在は、当然ハーも知っている。
黄金色であることも、世界に一本しかないことも。
エルの言っている内容があまりにも非現実的で、ハーは額に手を当てる。
「唯様が銀色の神剣を持った国民たちを退けながら王城を目指して進んでいくと、カルボナーラ王国第三王子、ハーゲン・カルボナーラ様が現れました」
「第三王子が、戦場に!?」
「そして、ハーゲン・カルボナーラ様の手には、正真正銘、黄金色の神剣ブラペが握られていました」
「ハーデン様も神剣を!?」
たった一つの違和感、という言葉ではとうてい足りない非現実の連続。
本来であれば、ハーは何を理解すればいいのかわからず、強い力で頭を抱えただろう。
だが、ハーは見ていた。
第一王子フリーク・カルボナーラが、神剣ブラペを生成したところを。
故に、エルの語る話を思いのほかすんなりと受け入れた。
「その後、唯様によって切られたハーゲン様が魔王のように再生したり、他の王族の方々が黄金色の神剣ブラペを持って現れたり、王族たちの体が混ざり合って化け物へと姿を変えたり」
エルは、その後の出来事も矢継ぎ早に話していく。
話しているエル自身もどこか現実味を感じておらず、それ故にただただ伝えることに終始し、自然と口が速くなる。
フリークだけでもハーゲンだけでもない。
カルボナーラ王国の王族全体の異常事態。
ハーの脳は、煙が昇りそうなほど熱くなっていた。
座っていた体をぱたりと倒し、床に仰向けになって天井を見上げる。
天は、静かにそよいでいる。
「結局、全員唯様が倒しましたが」
エルは一言で、自分の話す番を締めた。
エルの視線がフーに向き、フーがバトンを受け取って口を開く。
「この後は、ハーさんの方が詳しいとは思います」
フーが差し出す会話のバトンに、ハーがくらくらとした頭で体を戻す。
「私の方が?」
「エルの話だと、この直後に国全体に結界が張られ、天に巨大な魔力を感じたようです」
一瞬で、ハーの目が大きく開く。
巨大な魔力、その一言で滅国魔法の発動と繋がった。
ハーも手を貸した、カルボナーラ王国を滅ぼした魔法。
「魔力を感じた私は、防御魔法を使って白い光を防ごうとしました。四肢がなくとも、魔法は使えますから。どうにかブオン村だけは守ることができましたが、後の都市は……王都を見た通りです」
「…………」
四肢をもがれた勇者パーティにできることは少ない。
スミヤキ、イカリ、ジビエは、防御魔法が得意ではない。
ただただ、勇者という超人的な力を持って、滅国魔法をその身に浴びて生還するくらいしかできなかった。
結果が、王都の一部とブオン村以外の全滅と言う今の結果だ。
「ブオン村を守った功績で、私たちは唯様から四肢を回復する権利をいただきました」
無感情に笑うフーの言葉に、ハーは感情を抱く余地もなかった。
ハーの知る情報と、すれ違う情報。
もしも、滅亡したカルボナーラ王国に滅国魔法を放ったのではなく、滅国魔法によってカルボナーラ王国を滅亡させたとなれば、ハーの信じていた歴史は変わってしまう。
ハーは、己の罪を懺悔するように、口を開いた。
「話すわ。私の知る、王国での出来事を」




